暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

正気の弦

2019-02-28 | -2018,2019
ここに一本 糸がある
名前を正気の糸という
太い糸を爪弾くと
震えて低い音を出す
細い糸を爪弾くと
鋭く高い音を出す

糸を束ねて弦にしよう
細い糸を撚りあわせ
太い糸を撚りあわせ
張り詰めさせて弦にしよう

弓を構えて弾くといい
己の正気を合わせた弓を
重なり合った弦と弓が
つんざくような音を奏でる
細い弦は少し撫でれば
いとも容易く音が出る
太い弦は低く鈍いが
鼓膜を容易く震わせる

撫でる、爪弾く、スクラッチ
共鳴する振動は
他の糸にも伝播する
ひとつ音を奏でるだけで
協奏曲は無限に生まれ
強く抑えて引き絞るなら
拍手喝采の大合奏に
弦は切れるが糸ならある
そこにかしこに無数にある
切れた糸は戻らなくとも
そこにかしこに無数にある

ここに一本 糸がある
名前を正気の糸という
弓を構えて弾くといい
己の正気を合わせた弓
一本きりの弓毛を叩き
けれど弓に替えはない

音色は人の悲鳴に似たり
撚りあわせたのは正気の弦
ひときわ大きな音色を奏で
切れた正気の絶叫は
曲を終わらすカーテンコール

幻影

2019-02-12 | 錯乱
たったひとかけらの粒を入れれば
水は豊かな酒になる
浴びるくらいに飲み明かしたあと
頭痛に苛まれるとも知らず

私は求めた、恐れも無く
無知は罪だと知ってはいても
無知な私は知る由も無く
パンドラが最後に得た希望を
得られることができるのではと

希望のひとかけらがもたらす光は
熱エネルギーももたらすものだと
私は知っていたはずだった
私は識っていたはずだった