暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

公害

2011-04-29 | あたたかい
貧弱な腕
それでも空を掴むことはできる
たぐりよせても
人はみるみる離れていくが
私は幸せだ
幸せに違いない

汚れた肺は、けれど
死に至ることはない
常に肺を煤で汚していても
今この瞬間もそうであろうと
私は生きている
それこそ間違いのないことだ

私の細い腕では
決して友を抱けない
軽く触れれば折れてしまう
ずたぼろのこの腕では
それでも空は掴める
ただ手を横にまっすぐ伸ばせばいい

そんな私から友は物言わず
去っていってしまったのだ
私は涙を流したが
今はもう忘れている
動けなくとも私は動けると気付いた
それが私と友との距離になる

痰のからむ胸
煤の混じった赤い痰が
私は空を掴むのだ、そんな時は
そこに確かに私がいて
死なないだけの生を得て
それでも死ぬよりは

幸せだ
幸せに違いない
きっと私の腕はいつか
薄氷のように崩れ去る
それでも解決は簡単なことだ
息を思い切り吸えばいい

死なない毒に満たされて
私はそれでもここにいる
動けないことを理由にして
すべての友から離れていった
あと一息、空を吸えば
肺は溺れて体は朽ちる
幸せだ、それでも
何もない空間よ、あなたが
そこにいるのだから
私はそれを感じながら
あなたに殺されていくのだから

弱かったものたちは

2011-04-18 | -2011
人は時にとても残酷なものだ
言葉を選ばず、相手の咽を突き
言葉を選んで、相手の四肢をもぐ
爪も牙もなく、手に持つ凶器を覚え
やがて理性がこれを否定すれば
見えざる鎌を携え振りかざしている

抗いの手段ならば許されるだろう
いくら刺しても締め上げても
憐憫と賞賛をその身に受けられる
しかし逆の身に転じたとしても
誰一人として責めることはできない
視線が降り注いだとしても
刃をこころに持っているのだから

放った言葉が、相手のやわらかなところへ
おぞましいほど滑らかに沈み込んでいく
それでも血に溢れることはない
ただ動くことを阻まれるだけだ
痣になることもない
くずおれ伏すには十分だが
傷跡にすらなりはしない
きっかけを作るのは言葉でないと
誰もが免罪符を求める限りは

無自覚を意識しながら
人は時に見えざる武器を携えて
知人を、家族を、
そして時には知らぬ人をも傷つける
その手は何にも塗れてはいないし
罪を問われることもない
しかし私は確かに見ている
ひた隠しに振る舞う人たちの
ささやかな言葉の切れ端を拾い集め
無自覚を意識しおこなわれる
日常的な戦争ごっこを、
私は確かに見ている、このこころで
そうしてこの身に積もらなかった塵でさえ
まとめて返してしまいたいのだ
咽を突き、四肢をもいで
耳をえぐり、腹を裂いて
無自覚だよ無自覚だよと
呟きながら

おもいでとしての

2011-04-02 | -2011
たとえばあなたの呼ぶ愛は
私をすり抜けて染み込んでしまう
足元の双葉がひそやかに芽吹き
うららかな花をやがてつけるように
時には水のようにやさしく
けれど電気のように通過して
それは決して私へ染み入ることはない
私のまわりは緑にあふれ
小鳥のさえずりさえ聞こえるけれど
このからだは古ぼけて
かすれた写真に近くなる