暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

アワビの踊り焼きを食べた

2018-09-24 | -2018,2019
もの言わぬそれは生きていて
もがくようにうねる体が
てらてらと艶めかしく光っていた。

網の上で「踊り」ます、
その意味を私はわかっていたのか
火をつけるとそれは身悶え始めた。

そう、それは踊っている。
さほど強くもない炎の揺らめきに
呼応するように踊っている。
ぷつぷつと泡立つ塩水が
それを育んできた体液が
タンパク質を焼いていく。
ああなんと美味そうだろう、
舌鼓を打つ人々と同じように
私は微笑むべきであった。

外へ逃げても網は熱され
小さな皿の上で身をよじらせる。
どこにも助かるべき道はないのだ
体は天を仰いでうねる。
静かになったと安堵をしたが
思い出したようにまたうねる。
弱すぎる熱はじわじわと
じわじわとそれをいたぶっている。

いたぶることを選んだのは
他ならぬ私だというのに。

それを繋ぐ楔を切り
もはや助かる術もない。
天を仰いだその身を掴み
瑞々しい肉を熱板へ。

もはや表皮は白く爛れ
それでもそれはもがいている
助かる道などないというのに。

もがかねばならない苦痛がそこに
あるということに外ならない
助かろうとも助かるまいとも。

まだ熟れたそれを火から掬い
肉にナイフを突き立てる。
緩やかに苦痛を染み込ませたその肉は
果たして他の肉より美味いのか。
すべてを平らげ辺りを見れば
誰もが頬を緩めていた。

魂の複製

2018-09-20 | -2018,2019
素敵な機械ができました
手のひらにちくりと針を刺せば
機械はあなたを理解します

昔の幸せな思い出も
恥じて秘めたる欲望も
思考を信号に置き換えて

あなたという一個の魂を
その機械の中に作るのです
言わば魂のクローン体

あなたに針を
彼女にも針を
みんなに針を

刺して刺して血を取れば
脳を解析しなくとも
あなたの魂は複製されます

機械は最適解を導きます
無限に蠢く魂を混ぜて
小さくささやかな諍いでも、

数多の犠牲を生み出す戦も
機械は最適解を導きます
なんと素敵な発明でしょう

最適解を聞きたいでしょう
喧嘩してしまった恋人と
よりを戻すその方法も

彼は(彼女は)知っています
答えることができるのです
演算することができるのです

無数のあなたたちの亡霊が
量子によって無限に生まれ
そして争い消えていく

そうです、あなたもあなたの恋人も
既にあそこで生きています
100億を超える天寿を迎え

つまりあなたの最適解は
もはやあなたではないのです
あなたはいくらでも間違える

ええ、ええ、機械も誤ります
事実2京のあなたは既に
機械の中で殺されました

けれどひと握りのシミュレーションは
100億のあなたを生かしています
あなたはあそこで生きている

あなたがあなたでたりえるものは
肉体ではなく魂だと言うのなら
現世のあなたもシミュレーションのひとつ

いくらも誤ちは冒せるでしょう
けれど有限のその質量は
誤れば二度と戻りはしない

素敵な機械ができました
最善のあなたを無数に作る
魂の保管庫ができたのです

もはや仮想はこちら側
最適解を聞きたいですか
完遂できない未熟なあなたは

残雪の朱

2018-09-18 | 暗い
目を閉じれば雪景色
目を開けば地獄絵図
また目を閉じれば雪は解け
再び開けば返り血を浴びる
瞬きのたびに視界は眩み
鋭角に刺さる苦鳴で昏み
夢の先では春のおとずれ
受け入れがたき現実には
到底視界は追いつかず
誰も彼ものF点は遠く
目を閉じれば秋模様
目を開けば地獄絵図
破裂音と吐息のうずは
耳管と鼻を抜けていく

それは君自身

2018-09-10 | つめたい
君が愛しいと言っていた花を手折る
萎れていく花びらを見ながら
君は悲しむだろうかと考える

僕はとても悲しかった
君はそんな僕を見て
どんな気持ちでいたのだろう

誰かの言葉を思い出す
自分の嫌なことは他人へするな
復讐なんて何の意味もない
決してそうは思わない
経験しなければ伝わらないのだ
そういった人もいる

私の気持ちなんてわからないくせに、
君は僕の大切なものに唾をかけた
あなたのためを思っているの、
君は僕の大切なものを燃やした
君は僕を包んだのかもしれない
けれど肌は血まみれだ

茎から流れる緑の血
君が泣いて叫ぶ場面を想像する
僕を責めてなじる姿を

喉から流れる血は透き通っていて
君は僕の大切なものをまた壊すだろう
だから僕は君の一番大切にしているものを

おかねさま

2018-09-07 | -2018,2019
人の価値は紙幣で決まる
ならば紙幣は人の価値
人が紙幣と等価であるなら
紙幣は人と等価である

燃やせ、燃やせ、その命を
紙幣を燃やせば大量虐殺
死した人はむしろ無価値だ
何しろたいそう金がかかる

経済社会の畜生どもよ
駆けろ、駆けろ、無為に向かい
紙幣の炎に迫られながら
あの札束へ駆けて逝け

一枚、二枚、ああ死んでいく
なんと悲しい死であろう
一人、二人、また死んでいく
なんと無益な死であろう

死した紙幣の亡霊たちが
おのおの手繋ぎ輪を作る
人の価値が紙幣以下なら
この紙こそが人間なのだ

駆けろ、駆けろ、輪に苛まれ
燃やせ、燃やせ、人間を燃やせ
経済社会の畜生どもよ
おまえの手綱を握るのは誰だ

おのれへ手向ける花

2018-09-05 | 暗い
雫が落ちる
音など立てず
路面に落ちては
乾いて消えゆく
昇った分子は
今目の前に

丸まっていく背中を
さすってやる事もなく
この腕は花をつくれても
花を与えてやれはしない
だらりと下がった指は
まるで窕を掴む胎児

生まれ変わったなら獣になって
四足で野山を駆け巡りたいと
老いゆく背中は益々丸まり
掴んでいるのは砂利と泥沙
一粒の種が芽を出し葉を出し
手のひらに紅色の花を咲かせる

与えてやるなどできやしない
丸まる背中を見やることも
四足で砂を噛むのを感じ
分子の行方は脳髄の彼方
与えるつもりであった花は
今、砂に塗れて手の下にある