暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

ここで死ね

2015-12-24 | -2014,2015
風がごうと吹く。
私の体は風に煽られ、
ぐらりと向こうへ傾ぎかかる。

あなたは言った、
運命とは紙切れのようなもので、
ひらりと風がふいた時、
橋へ残るか。
川へ落ちるか。
決定は呆気ないものだと。

私の体は揺らぐ。
手摺につかまったその先で、
木の葉が濁流に呑まれていく。

あなたは言う、
呆気ないものだと。
足元の花束を、
すっかり枯れた花束を、
つま先で弄り回しながら。
見てごらん、

この花束こそ私の縮図。
風に吹かれればこうもたやすく、
そうあなたは花を蹴落とす。
花は同じ色をした濁流に呑まれ、
わたしとあなたの背後から、
ごうと大きな風が吹いた。

虫葬

2015-12-17 | 狂おしい
僕は役にも立たない人間だけれど
排泄物はみんな喜んで食べてくれるよ
でも僕が食べたものより
僕の出したものの方が少ない
呼吸

エネルギー
僕というエンジンが稼働した結果
絞りカスがたまたま喜ばれたというだけ
僕は役にも立たない人間だけど
死体はみんな喜んで食べてくれる
でもぼくの死体はすぐに焼かれ
いろんな有害物質のまじった黒い煙は
煙突を通るうちに真っ白に濾される
真っ白な骨の粉はさらさらとしていて
いずれは水になって溶ける
ぼくの血

はらわた
誰も食べてはくれないんだよ
僕は役にも立たない人間なので
子孫繁栄なんてもってのほか
稼働するエネルギー
オンオフによる過負荷
排出排熱に使われるコスト
総合的に見るまでもない
僕の価値は肉でしかない
家畜様さえ僕より偉い
ともすれば僕などを食べてくれる
彼らこそが僕にとってのかみさまなのかも
海へ
山へ
山の裾野に広がる海へ
僕は役にも立たない人間だから
せめて一度だけでも役に立ちたい

全員悪魔

2015-12-10 | 錯乱
黒い道に体を這わす、
垂水がわたしを誘うのだ、
地獄から、地獄へと。
指をぞろりと生やしては、
うねり曲がって手を招く。

天上より地獄は来たり、
暗雲は作られた闇より色濃く、
滴る使者は地表を覆い、
堆い死者の身を借りて、
貴い者を爪先から穢し、
地殻の底の地獄へ還る、

(ちょうど頭のてっぺんから)
(吹き出した血しぶきは)
(排水溝へとかえるように)

白く枯れた木をのぼる、
垂水がわたしを誘うのだ。
それは天上の地獄より訪れ、
地下の地獄へと連れていく。
うねる指は首に絡まり、
私は地獄へ

(のぼる)
(おちる)

瀉血

2015-12-04 | 狂おしい
細胞は三ヶ月で入れ替わると言うので、
三ヶ月後には私は死ぬのだと思っていた。
新しい私ならざる私へ代わることを期待し、
待ちきれなくなり、
ならば早く入れ替える手段を考えた。
つまるところ血を抜き、
肌を強く擦り、
そしてかきむしった。

三ヶ月後、
あるいはもっと早い再生を。
夢を胸に抱き眠り、
もはや二十年以上の月日が経つ。
私はいつ起きようとも私に過ぎず、
旧い細胞に書き込まれた情報は、
さながら記憶メディアを交換する時のように、
バックアップののち破棄される。
当たり前なのだ。
私はいつまで経とうと私に過ぎない。
抜き出した血液は数人分に及ぼうと、
それは私とイコールにならないように。
皮脂と肉をかき集めても、
私に似た肉の塊を作れるというだけ。
私という自我は、
存在は、
何年経とうが更新され続ける。

なぜ私は私でしかいられないのか、
他人はたやすく私を語るというのに。
針から流れ落ちる熱い血潮を眺め、
明日の私ならざる私を夢想する。
幸せに生きるのだ。
たくさんの他人と同じように。
繰り返し繰り返し希釈交換をすれば、
いつしか私たる私も薄まると信じ。
幸せに生きるのだ。
決して今の、
死人のような顔をすることなく。

(せっかく恵まれて生まれたのに)
(かわいそうにかわいそうに)
(あの子はきっと短命だから)
(せめて優しくしてあげましょう)

境界線を越えてはならない、
幸せに生きるためには。
私はただ、ただ、生きたいのだ。
当たり前の人生を、
ほんの少しでも幸せに、
大切に生きていきたかったのだ。
痺れる指先は32度を下回り、
歯と歯が激しくぶつかり合う。
あともう少し、細胞を削ぎ落とせば、
素敵な笑顔を作ることができるだろうか。

風景

2015-12-03 | -2014,2015
曇天の道を風は吹き
枯葉がごうと舞い落ちる
枯葉のように舞い上がるのは
寒さに膨れる雀の群れ

橋脚は揺れ
はるか隣を列車が走る
淀んだ川には泡のひとすじ
橋の陰から逃れるように
鴨は幾重に屯して
王の河鵜を取り囲む

光なき世に枯れた木が
川のほとりで気高くそびえ
曇天晴れた隙間から
差し込む光が死を照らす
生者の歩む橋の上では
風に吹かれる襤褸が煽られ
淀む川へと落ちていった

ライン製造

2015-12-02 | -2014,2015
オレンジ色の光がきらめく
ぼくの目の中にくすぶる残像は
緑色の闇となって
ベルトコンベアを流れていく

たくさんの
たくさんの死骸に触れたよ
ひんやりと冷たい果実たちは
氷を舐めるように
ぼくの温度を奪って行く

真っ白になった指先を見て
ささくれだった指先を見て
出る吐息はおかしいほどになまぬるい
ぼくは炭を思い出す
ほとんど灰になった炭を

オレンジ色の光は
ぼくを肉から人に変えてくれる
彩り豊かな生き物たちを
死骸へ変えることを代償に
そしてぼくを変えてくれる

人から肉の塊へ
炭から灰の塵芥
緑色の残像はまだくすぶり
ベルトコンベアを燃やしていく
ぼくの指先は灰の色