暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

落伍します

2016-10-26 | -2016,2017
がたんごとん
電車を見送る
望んだ駅へは
辿り着かない

(歩いて行こうと思ったのに)
(もう使い物にならなくなってしまった)

がたたんごとん
また見送る
人があまりに
乗っていたから

電車が来ては去っていく
中身を何度も入れ替えながら
見送り、見送り、また見送り
ホームの外はゆうぐれどき

ひとびとの姿は高速で流れ
ひとすじの夢を見ているようだ
現の脚は踵からひび割れ
強い風に誘われる

(あそこへ行きたいだけなのに)
(ほんの少し動いてくれるだけでいい)

ゆうぐれの空気は沈んでいく
もうじき夜が訪れる
ホームの床は静かに濡れ
またひとつ電車を見送る

辿り着かない
どこにも行けない
見送られているのだから
がたんごとん

大層なご身分ですこと

2016-10-14 | つめたい
舟を漕いで
会いにいく

ぎしぎしと鳴る櫂、
吹き付ける潮風、
まとわりつく潮の匂い、
赤く腫れて苦い舌根、
水があるというだけの砂漠、

死に場所を
思い出した

耳に残る海鳴り、
ささくれだつ舟の軋み、
鼻腔を抜けるおのれの血、
塩辛い、塩辛い、
うねりざわめく海流、

倒れる暇は
ないはずだ

耳障りな乾咳、
ひたひたと腿を濡らす海水、
手垢と古木の混じった臭い、
舌を乾かす死の風、
水があるというだけの砂漠、

(あのひとはどこへ行ったのだろう)
(元気でやっているだろうか)
(うちの子供も会いたいと言っている)
(何しろ自由な人だったから)

舟を漕いで
会いに行く

最後にひとめ
見て死のうと

水の叫び、水の冷たさ、水の刺激臭、水の晩餐、水の中、
舟があんなに遠くへある、血の色の泡がのぼっていく、犯される、犯されていく、

(虫がいい人だった)
(私はあの人、嫌いだったわ)

わかっている

2016-10-10 | かなしい
望む言葉を与えれば
涙に暮れて被害者に興ずる
けっきょく口で望んだ言葉は
わかってほしいことの裏返し
それでよくも、
よくも口を開けと言えたもの
わたしの言葉は鋭利に過ぎると
一度二度では学ばなかったか

なまくらの言葉を選ぶには
わたしはあまりに苛烈が過ぎる
いっそ離れていくがいい、
どうぞ離れていくがいい
涙に暮れて被害者ぶれば
それだけわたしの言葉は鋭さを増す

くだらぬ欺瞞を口にして
思ってもいないことでおのれを濁し
そうしてごまかすことを選ぶなら
わたしはもはや語るまい
彫像のように絵画のように
誰に向けるのでもない微笑を絶やさぬよう
ほら結局はわたしが悪いのでしょう、
居直るのは何よりもこの自分自身にすぎず
いっそ離れていくがいい
傷ついたのはどちらか片方などとは有り得ない
好きに喋れと言えば傷つかれ
素直だと評するそばで陰口を叩き
どうぞ離れていくがいい
向き合う気がないのであれば

ひとりで生きてくれ

2016-10-08 | つめたい
恋愛をうたう曲は嫌いだと
僕はあれほど君に伝えた
君は素敵な恋をしてみたいと
うっとりとしたため息をつく

君は何を期待しているのか
僕は旋回するラブソングと戦っている

素敵な恋をしたいのならば
君は今すぐにでも着飾るべきだ
その曲は君を救ってくれるのか
僕は君の首を絞めることしかできない

君は何を期待しているのか
僕は地を這う虫をじっと眺めている

素敵だねと頷けばいいのなら
どうぞ政治家にでもなるといい
僕は僕の庭で話をしたいんだ
君が僕の手を強引に引き込んでしているように

君は何を期待しているのか
僕は旋回するラブソングと戦っている

君の願いを叶えたいけれど
僕は君の首を絞めることしかできない