暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

枯れ枝

2024-07-05 | 錯乱
枯れて落ちたひとふりの枝
たしはそれを素敵だと思った
けれども隣にいたあなたは物悲しいと呟いた
そう、多分それは物悲しいのだ
わたしはひどく不確かで
あなたはいつだってわたしを照らす

あなたがさみしいと言ったから
きっとわたしはさみしいのだ
あなたがいとしいと言ったなら
きっとわたしもいとしいのだ
だってあなたはわたしに言った
「私たち、まるで瓜二つだ」と

どうかわたしに光をあたえて
わたしは盲ていないけれど
見えていないのとおなじこと
あなたなしでは

ばさばさ、ばさばさ、葉が落ちる
死は乾いた土煙の臭いがする
ばたばた、ばたばた、枝が落ちる
乾いて、甘く、素敵な匂い
(私たち)
ふれあう肌はひんやりとしていた
いや、あたたかかった
あなたが、あなたが、あなたは
あなたはあたたかいと言っていた
(私たち、いつまでも、一緒)

嘘つき

あなたなしでは
見えていないのとおなじこと
いつもそうしてくれたように
どうかわたしの瞼をふさいで

自切ごっこ

2022-12-21 | 錯乱
頭の中を覗いても
何にもないよ空っぽだよ
欲しいものは全部遠くにあるし
歩いて行くには疲れちゃったし
あるもの全部捨てたから
一つだけ残ってるのは小さなねじ
からりころり音が鳴ってて
おもちゃにでもなったみたい
なれればよかったのにね
手を取ってくれる誰かなんて
期待するだけ分不相応なので
こうして横になっているよ
一つだけ懸命なのは内臓器官
どくりもぞり音が聞こえる
今なら標本になれそうだね
目に見えるものに意味なんてないし
触れたから何だっていう話
生きているだけで価値があるなんてのも
空虚さを慰めたいがための欺瞞だ
空っぽなのは事実なんだから
排泄するだけ害悪だと認めればいい
動物には生産を奪っておいて
自分たちは非生産を容認して
他者には役割を強いておいて
自分たちの無価値は否認して
無為で無益で理不尽なことを
個性だとか何とかいい感じの言葉にまとめて
なんとなーく許容してなんとなーく拒絶する
だから全部捨ててもいいんじゃないかなって
だってこれも個性のひとつだから
でも
今言ったことは全部嘘
からりころり鳴るねじの
どくりもぞり蠢く臓器の
奇跡のハーモニーが奏でた幻聴
気にしなくていいよ
ぜーんぶ気にしなくていいんだよ
大切にしないやつが
大切にされるわけがないんだから


コタール症候群

2022-12-09 | 錯乱
外形をなぞることで空間を把握している
外形をなぞるだけでは密度は把握できない
縦に割ると空っぽだとしたら
空間の占める割合は増加する
重量をもし量ったとして
濃い密度の輪郭線により形成されているなら
縦に割るとやはり空っぽだ
空間の占める割合は増加する
あのビルひとつひとつも
ざわめいている木々も
蠢く人の群れも
縦に割ると空っぽだとしたら
縦に割りたい
縦に割りたい
確かめるのが怖い

パフォーマンスは最適です

2022-11-07 | 錯乱
些細なこと
本当に、些細なことだよ
気に病む必要なんてない
かけられる優しい言葉の数々
浴びせられる心無い言葉の数々
いつでもそれらを
正すことはできる
正している
正さなければならないと理解している
誰しもが感謝をする
私の中にくすぶる
罵声の火種に気付くこともなく

些細なことだよ
気にしなくていい
(たとえ私が泣いていたとしても)
(あなたには何ら関係のないことだ)
昇華するすべは無い
無いと知っている、
火は一度点れば燃え盛るだけ
境界線の上にいる
境界線の上にしか立てない
向こう側は穴の底で
そちら側へは行くことができない
ここが私の生存限界だから

些細なことなんだ
踊っている姿を見て笑うといい
褒めそやし、感謝をして、
心無い言葉を投げかけ続けてくれていい
あなたにとってのそれは心ある一言だ
声を荒らげたい
絶対に荒らげたくはない
たやすく気分を害する君たちよ
どうか私を
わたしのこころを
慮ってはくれないだろうか

一人

2022-10-06 | 錯乱
こうして逢うのも何年ぶりか
お互い歳を食っちまって
瞬きする間に季節が過ぎる

近況はどうだ
元気にやっているのかい
こちらは元気だ
体にガタはきているが

あいつは死んだよ
最後におれにこう言った、
頭の中で脳の中で
言葉が散り散りにかき混ぜられているんだと
うまくまとめることができない
上手く喋るのに一苦労だと
それからおれにこう聞いた、
今のおれはどう見える
今のおれは
昔にお前の見たおれとおんなじかと

数年ぶりに会って
お前におれはどう映るかい
変わっちまったか
それとも何も変わらないのか
お前はどっちが幸せと思うかい
気楽に話せるのは良いことだが

あいつは頭が良いと言われていた
あいつはそれが不思議でならなかったと言った
あいつは脳を散り散りにさせて死んだ
その脳をひとつひとつ拾い上げたのはおれだ
おれは何も答えることはできなかった

だからお前に話してみたんだ
お前から見て おれは
変わったと思うかい
変わらないと思うかい
お前は優しいやつだから
いずれ散り散りになるおれの脳も
ひとつずつ拾ってくれるといいが

邪険にするなよ

2022-09-13 | 錯乱
奥の暗がりにそいつはいる
影と暗闇の吹きだまりに佇んで
そいつはにっかし笑っている

じいっと目を凝らしても
そいつの顔はまったく見えない/しろい歯だけが見えている
こちらを見ている/こちらからは見えないのに
そいつはひたすら笑っている
歯を見せて、笑っている

忘れようと後ろを向いたら
ぱりぱりこりこり音を出す
後ろを向いているあいだだけ
そいつは話しかけてくる
美味い美味い
ぱりぱり、こりこり

何を食べているのか
尋ねなければならなかった

骨さ
ちいちゃい、骨だよ
ぱりぱり、
誰のものか知りたいのかな
知りたければ
こりこり、
こちらへ来てごらん

いくら逃げても走っても
そいつは後ろの暗がりにいる
ぱりぱり、こりこり、
振り返ったらおんなじ場所で
にっかし歯を見せて笑っている
いなくなれ
消えてしまえ
全部、ぜんぶ思い込み
叫んだぶんだけそいつはいっそう
笑う/口だけのいきもののように
こちらが行くのを待っている
向こうへ来るのを待っている

歩いて来る、しゃがみこんだ
こちらの背中を覗き込んで
顔を上げたら元通り
暗がりはいつまで経っても
消えることはない
ぱりぱり、こりこり

私を

2022-09-09 | 錯乱
- 酷い顔をしているね。何かあったのだろう。

何もありません。何も無いから、惨めなのです。

- 話を聞かせてはくれないだろうか。

私の中にばけものが居るのです。

- 化け物。

どうか信じていただきたい。
これは幻覚とか妄想の類ではないのです。
私の呼ぶばけものとは、決して荒唐無稽な怪物ではありません。

- ではどのような化け物が、君の中に居ると言うのか。

それは人の形をしています。
人の心を持っています。
けれども、決して人とは呼べません。
無自覚の悪辣さによって生き、
自己の制御も、他者の説得も効かぬ、
思考を捨てた細胞の奴隷です。

- それが君の云う化け物である。

そうです。
時々、誰かがばけものに見えます。
私は彼らがとても恐ろしい。

- 彼らのようになりたくないのだね。

そうです。
けれども私の中には確かにそれが居るのです。

- いつから居たのだろうか。

私が私であると知った時から。

- 君は最初から化け物であった?

そうです。
私は彼らとおんなじです。
私は道を往く時、何時も拳を握っています。
拳を振るえるように。
誰かを、何の理由もなく、
殴り倒したくて堪らないのです。

- 私も殴り倒すのかな。

いいえ、決して、そのような。
私が殴り倒したいのは、
四肢をちぎって、脳髄を撒き散らしたいのは、
おんなじばけものである者だけ。
与り知らぬ、名も知れぬ他人ばかりです。
私は愛を知りません。愛を持ち合わせていません。
けれども、私は、人を尊敬しています。
名を覚えるということは私にとり、
尊敬や崇敬と同義なのです。

- 私はどうすれば良いだろうか。

何も。何も必要ないのです。
ただ生きてくださるだけで、私にとって
それが至上の喜びです。
生きてください、どうか、
善く生きてください。

- 君は私にこうやって打ち明けている。
- それは君にとって意味があるに違いない。
- 本当は成して欲しい何かがあるのだろう。

何も。
何もありません。
何もありません。
これっぽっちもないのです。
ただ聞いて欲しかっただけです。
これは私の中にのみ在るもので、
あなたは私の崇敬する相手で、
私は恥とともに、それでも打ち明けた。
これは私の罪悪です。私の利己心です。
聞いてくださっただけで胸の支えが取れた心地です。
何もありません。
どうか生きてください。
あなたはあなたのままで、
私がいつかばけものになったなら、
見捨ててそのまましあわせに暮らしてください。
何も、何も、何も、何も、何も。
何もありません。

ありがとう。

ありがとうございます。

疲れた

2020-11-06 | 錯乱
目の前には一面の光があふれていて
にっちもさっちも進めない
上を見るからいけないのです、
だから下を見て歩きましょう。
視野の端に行ってしまえ
どこへでもどこへでも
人々は楽しそうですね、
私はちっとも楽しくない。
地面を彩る光の橋を
歩いて背骨がぐらついている
それでは地下などいかがでしょう、
あっという間に帰れますよね。
光の代わりにヒトがいる
数多、うごめく、ヒトがいる
どうやって帰れば良いのでしょう、
どうやって帰れば良いのでしょう。
つんと痛んだ目頭から伝うものは
まるで美しい橋の下を流れる
川の水のように汚れています、
なんと不出来な生き物でしょう。
帰る手立てがわからない
けれど歩いていればいずれは
いずれはたどり着けるのです、
たとえ膝が笑おうとも。
たとえ歩くことができなくとも
歩けるのだから歩いていられる
死にでもしなければ生きられる、
人はどうしようもなく生きられるのです。

イルミネーション

2020-11-02 | 錯乱
この季節がやってきた
今年もまたやってくるし来年もきっとやってくる
乱反射する路面を遮り
隠者のごとく行進を続けたところで
光はちらちらときらきらと網膜に刺さる
ぎらつくライトは至る所に虹を残し
まぼろしはすぐさま消え去るだろう、しかし
かつてそこにあったまぼろしに
わたしは大いにかき乱されている
光、光が
光がそこにあると言った
歓声をあげる人々にまぎれ
悲鳴は誰にも聞こえやしない
それでいいしそれが正しい
喜ぶべきはいつも通りの予定調和
ありもしない虹のように
わたしの恐れも所詮はまぼろし
あなたに知覚できるだろうか
わたしにだって知覚できやしないのに
これは本能的な恐怖なのだ、
感情の論理など所詮は詭弁で
ああ恐ろしい、なんと恐ろしい
色とりどりの光だろうか
いつの間にかそこにあって
いつの間にか消えていく
けれど今から年の瀬までを
それらは華々しく寿ぎ続ける
目を潰せ、でなければ飛び降りろ
そうすれば誰も不幸にならない
眼球に満ちた水晶体を
可視光線は乱反射する

言葉に詰まっている

2020-08-07 | 錯乱
死体を数えてもらえますか
てんでばらばらになってしまったので

(真っ白な画面の前で、わたしは途方に暮れている)
(非言語的言語)
(植物の根)
(フラッシュバック)
(愛しているかと問われた時)

そこに落ちている石ころも
向こうに転がる土くれも

(飽和、飽和、こぼれた水)
(それは本当に水なのか)
(のめり込むことができない)
(前を見続けることもできない)
(ぶれる視点)

いちおう生きていたものたちです
何となく生きていたものたちです

(使い物にならなくなっていく)
(承認欲求)
(殺せ)
(殺してしまえば終わる)
(また始まる)
(どの道使い物にはならない)
(鉛)

ばらばらになった雪像は
じりじりばさり溶けてゆきます

(正しいことばを書けていますか)
(ことばを正しく書けていますか)
(書いたことばは正しいのですか)
(いますかことばを正しく書いて)
(をくてかすば正とこい書いまし)
(見らても正書いえはいずてさく)
(ただ浮かんでは消える泡しぶき)
(まはるむなきのもいだでまえお)

ばらばらになった死体を
どうか並べていただけますか

真っ白な画面の前でわたしは途方に暮れている。非言語的言語が押し寄せては無作為に閃き消えて、いくら整理しようともしきれず、まるで植物の根のように脳内をくまなく侵食しているからだ。それは論理的な言語の体をなしている時もあればフラッシュバックさながらの無意味な羅列が続くこともある。記憶によるプレイバック。愛しているかと問われた時もわたしは同様に途方に暮れた。真っ白な画面にこぼすべき色水は飽和、飽和を繰り返し、ただいたずらに画面を汚す。それは本当に水なのだろうか、水にしたって随分と薄汚れてしまった。のめり込むことができず、なおかつ前を見続けることもできず視線を落として俯くのを繰り返す。歩けど歩けど視点を定めることができないのと同様に。使い物にならなくなっていく頭を嘆くかたわらで原始的な承認欲求が根拠のない万能感を生み出すのだから始末に負えず、考えることができているのかできていないのか、しかし出力できない時点でわたしは存在意義的に死んでいるのだから殺せ。いちど殺してさえしまえば終わる、簡単なことだ。リセットすればやり直し。いつもそうしてきた。そしてまた始まる堂々巡りを幾度も繰り返しているうちに四肢は、臓腑は随分と錆びて硬くなって温度を失った。いくらやり直そうともセーブポイントは常に変わる、どの道使い物になどなりはしない。鉛が、副鼻腔の直上で、根を伸ばしている。
正しいことばを書けていますか。正しいことばを書けていますか。正しいことばを書けていますか。問いかけて殺す、問いかけて殺す、問いかけて、問いかけて、問う前に、ぶつ切りの単語、飽和と言いながらその実失っているだけなのだとしたら今すぐに死ね。
ただ浮かんでは消える泡しぶきの、ひとつひとつに意味などあるはずがない。