暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

親愛の名残

2022-09-29 | あたたかい
目を閉じると君がいる
いつでも君がそこにいる
でもまぶたの裏にいる君は
表情も
顔かたちも
声も
ぼやけて思い出すことができない
眠る時も
ほっとひと息ついた時も
つまらないおしゃべりの間にも
いつだって君がそこにいるのに

目を閉じると君がいる
おかげでドキドキしっぱなしだ
明るくなった窓の光が
きみの姿に影をつくる
言葉
たくさんの言葉をくれた
それだけは思い出せるよ
言葉
言葉
僕は汗だくで寝返りをうった

目を閉じると君がいる
振動とともに目が覚めて
僕は見た夢の名残にほっとした
通知は何でもないダイレクトメール
眠るなら今のうち
今のうちなんだ
言葉
言葉
言葉
振り上げた拳を下ろすために

目を閉じると君がいる
いつでもそこに君がいる
おかげでドキドキしっぱなしだ
満足かい、君ひとりだけのお姫様
言葉
たくさんの
言葉
拳を思い切り振り下ろしたなら
表情も
顔かたちも
声も
言葉も
言葉も
感情も
言葉
言葉
言葉
言葉
言葉
言葉
ひとつずつさよならを告げられる

目を閉じれば君がいる
でも君って誰だろう
僕のお姫様はいなくなった
まぶたにいる最後の君の名残へ
拳を振り上げる 眠れるまで
言葉
僕は
僕こそ永遠に忘れないよ
想っているよ

刃は上に

2022-09-28 | 狂おしい
おれを殺したいのか、
ならばどうぞやるといい
心臓はここで
脳はここ
長く苦しませたいのなら
腹に詰まった内臓を狙うと良いだろう
おれに突き出す刃の向きは
絶対に上にしていてくれ
過失だとのたまうな
殺意を明確にしろ
逃げ道を作るな
おまえはおれよりきっと
ずっとずっと苦しみつづける
そいつがおれはたのしみで
待ち遠しくてたまらない
死にたくなるほどの苦しみを
与えてやれるというのなら
どうぞどうぞと両手を広げ
喜んでぜえんぶ差し出すよ
苦しみ悶える怨嗟はおまえの脳を溶かす
ほとばしる血飛沫はおまえにこびりつく
こぼれおちる臓腑はおまえの鼻を焦がす
おれの人生は上がりだが
おまえの人生はこれからだ
楽しみだな
楽しみだなあ

メトロ

2022-09-19 | 暗い
見上げども伽藍堂があるばかり
反響が幾重にも押し寄せる
寄り添えども募るのは虚しさばかり
天井は日に日に黒く煤けて
ああ、こういうときに
ひとはひとがこいしくなるのだと
空気を押し潰す鉄の塊を見遣りながら
傘の柄をぎゅっと強く握った
けれどもこういうときに
わたしはひとをつきおとしたくなるのだと
浅ましい恥を押し隠して天井を見上げる
見上げども伽藍堂があるばかり
日に日に煤けゆく壁のくろさが
わたしの胸に反響する、
幾重にも 幾重にも

願いの通り

2022-09-14 | 自動筆記
古びたあかるい音楽
踊る、歌う、人形劇
ふつりと途切れた糸
思い出に踊る人形劇

(いとのきれたにんぎょうを、ごみばこにすてました。もううごかせないから。そうしたらおかあさんがすごいかおをして、わたしをおこりました。わたしはなんでおこられたのかわかりませんでした。でも、いけないことだとわかりました。だからわたしはごみばこにはすてないようにしました。ごみばこにすてなかったらいいんだとおもって、しにそうなねこをらくにしてあげたあと、つちにうめました。もううごかないから。なんでころしたんだっていっておこられました。らくにしてやりたいって、いってたから、らくにしてあげました。でも、いけないことだとわかりました。なんでいけないのかはわかりませんでした)

光が踊る
光が踊る
一人残る
ただ独り

(せんせいが、じゅぎょうで、みんないきているといいました。いきているから、たいせつにしないといけないんだって。わたしはよくわかりませんでした。でも、そういうものなんだとおもいました。わたしのあざのことを、からかってきたこの、ふくにひをつけました。そうしたらせんせいもおかあさんもおとうさんもすごいかおをして、わたしをおこりました。わたしはなっとくがいきませんでした。いきているから、たいせつにしないといけないっていっていました。だから、ともだちがしなないように、ひをけしてあげたのに)

あなたがいる
わたしがいた
だれもいない
だれもいない

(生きている存在が生きていると証明する手段は今のところありません。一般的には、我思う故に我あり、つまり自分の生存証明だけは殆どの人が信じているようです。しかし主観による見解を事実と同列には出来ません。私及び貴方、自己と他者の生存証明は不可能です。自分の生存でさえ疑わしいのに、より一層定義の曖昧な生命に対し、どうして尊重する必要があるのでしょうか。私は傷つく事が無いのに、どうして理解も共感も及ばない他者の感情を慮る必要があるのでしょうか。生命は活動を停止すると肉の塊となります。それらにどうして感傷する余地があるのでしょうか)

私は:
生きて当然だと思わない貴方が好きです。
けれど生き続けようとする貴方が好きです。
出来るだけ、貴方に生きて欲しいと思います。
貴方の██だけは願わくば受け取りたくないと

思って

いました。

邪険にするなよ

2022-09-13 | 錯乱
奥の暗がりにそいつはいる
影と暗闇の吹きだまりに佇んで
そいつはにっかし笑っている

じいっと目を凝らしても
そいつの顔はまったく見えない/しろい歯だけが見えている
こちらを見ている/こちらからは見えないのに
そいつはひたすら笑っている
歯を見せて、笑っている

忘れようと後ろを向いたら
ぱりぱりこりこり音を出す
後ろを向いているあいだだけ
そいつは話しかけてくる
美味い美味い
ぱりぱり、こりこり

何を食べているのか
尋ねなければならなかった

骨さ
ちいちゃい、骨だよ
ぱりぱり、
誰のものか知りたいのかな
知りたければ
こりこり、
こちらへ来てごらん

いくら逃げても走っても
そいつは後ろの暗がりにいる
ぱりぱり、こりこり、
振り返ったらおんなじ場所で
にっかし歯を見せて笑っている
いなくなれ
消えてしまえ
全部、ぜんぶ思い込み
叫んだぶんだけそいつはいっそう
笑う/口だけのいきもののように
こちらが行くのを待っている
向こうへ来るのを待っている

歩いて来る、しゃがみこんだ
こちらの背中を覗き込んで
顔を上げたら元通り
暗がりはいつまで経っても
消えることはない
ぱりぱり、こりこり

キュートアグレッション

2022-09-12 | 狂おしい
そのやわこい細首へ
指先を埋めてしまおうか
皮膚と血の管を味わって
いとしいさえずりを聞かせておくれ
おまえはなんと愛らしく
だからわたしは時々
くびり殺してやりたくなる
呼吸を止められ喘ぐさまを
浮きあがった目玉でわたしを
わたしを見上げ泣くさまを
今までいくつ夢想したろう
残酷なわたしを知りもせぬまま
おまえは今日もかよわき肩を
てらいもなく預けてみせる
ああ
そのやわこい細首を
絞めあげて締めあげて
唇の端からこぼれる泡まじりの唾液を
のこらずすすってしまいたい
猫の子よりもか弱い爪で
かりかり傷をつけられたい
腫れあがるあかぐろい顔をして
哀願の涙を流してほしい
消えぬ痣とおんなじ痣を刻みたい
かぼそいさえずりがしわがれて
やがて消えゆくその時を
ただひとり味わい尽くしたい
死ぬのは悲しい、そうだろう
わたしはおまえの首に手をかける
唇を落とした時のわたしが
どんな顔でどんな夢想をしているのか
おまえは永遠に知らなくていい

羊歯は見ている

2022-09-11 | 明るい
熱帯雨林でキスをした
汗とも結露ともつかぬ水を
全身しとどにまとわせて
泥と垢と木々の血と
腐りに腐った水の匂いで
唇の味なんてこれっぽっちもわからなかった

けれども一つになれた気がして
けれども一つになるのは幻想で
あなたがわたしでないならば
愛することは難しい
あなたがわたしであったとしても
愛することは難しい

熱帯雨林でキスをする
鉄くさいぬめった水に顔をしかめて
ここを抜けたら改めてと
あなたはわたしに微笑んだ
味のしない唇を舐めて
わたしはええ喜んでと嘘をつく
100%をこえる大気の水で
みんな溶けてしまえばいいのに

私を

2022-09-09 | 錯乱
- 酷い顔をしているね。何かあったのだろう。

何もありません。何も無いから、惨めなのです。

- 話を聞かせてはくれないだろうか。

私の中にばけものが居るのです。

- 化け物。

どうか信じていただきたい。
これは幻覚とか妄想の類ではないのです。
私の呼ぶばけものとは、決して荒唐無稽な怪物ではありません。

- ではどのような化け物が、君の中に居ると言うのか。

それは人の形をしています。
人の心を持っています。
けれども、決して人とは呼べません。
無自覚の悪辣さによって生き、
自己の制御も、他者の説得も効かぬ、
思考を捨てた細胞の奴隷です。

- それが君の云う化け物である。

そうです。
時々、誰かがばけものに見えます。
私は彼らがとても恐ろしい。

- 彼らのようになりたくないのだね。

そうです。
けれども私の中には確かにそれが居るのです。

- いつから居たのだろうか。

私が私であると知った時から。

- 君は最初から化け物であった?

そうです。
私は彼らとおんなじです。
私は道を往く時、何時も拳を握っています。
拳を振るえるように。
誰かを、何の理由もなく、
殴り倒したくて堪らないのです。

- 私も殴り倒すのかな。

いいえ、決して、そのような。
私が殴り倒したいのは、
四肢をちぎって、脳髄を撒き散らしたいのは、
おんなじばけものである者だけ。
与り知らぬ、名も知れぬ他人ばかりです。
私は愛を知りません。愛を持ち合わせていません。
けれども、私は、人を尊敬しています。
名を覚えるということは私にとり、
尊敬や崇敬と同義なのです。

- 私はどうすれば良いだろうか。

何も。何も必要ないのです。
ただ生きてくださるだけで、私にとって
それが至上の喜びです。
生きてください、どうか、
善く生きてください。

- 君は私にこうやって打ち明けている。
- それは君にとって意味があるに違いない。
- 本当は成して欲しい何かがあるのだろう。

何も。
何もありません。
何もありません。
これっぽっちもないのです。
ただ聞いて欲しかっただけです。
これは私の中にのみ在るもので、
あなたは私の崇敬する相手で、
私は恥とともに、それでも打ち明けた。
これは私の罪悪です。私の利己心です。
聞いてくださっただけで胸の支えが取れた心地です。
何もありません。
どうか生きてください。
あなたはあなたのままで、
私がいつかばけものになったなら、
見捨ててそのまましあわせに暮らしてください。
何も、何も、何も、何も、何も。
何もありません。

ありがとう。

ありがとうございます。

羨ましいね

2022-09-07 | 狂おしい
道を歩くのが恐ろしい。
目まぐるしく回転しては残像をひらめかせるホイールや、
アスファルトを噛む分厚いゴムや、
薄っぺらく頑強なボディの、
蓄えられた途方もないエネルギーから目を離すことができない。
やわい皮膚と肉と臓器と骨で組成された、
この脆弱な肉体はたやすく、
いともたやすく巻き込まれるだろう。
つぶれて弾け飛ぶ血肉を思う。
内側で砕け散り散りになる骨を思う。
やぶれた臓器から溢れる血を思う。
鉄に、ゴムに、アスファルトにぶつかり、
穴という穴から汚物を吐いて、
あるはずのない裂け目が無数に生まれ、
ちいさなそこを押し広げていく圧力を思う。
エネルギーの塊は今日も何事もなく通り過ぎ、
私はとぼとぼと歩くばかりだ。
破壊に慄き、
夢を見ながら。

バランサーなんてそんなもん

2022-09-06 | かなしい
届いた荷物を開けて
ダンボールの中に何が入っているか
想像をしてみて欲しい

商品?
納品書?
メッセージカード?
ちょっとしたおまけ?

あなたは一通り中を検めたあと
『それ』を捨てる
恐らくは何の感慨もなく
時には役立つと知りながらも
処分しなければならない煩わしささえ覚えて

『それ』なくしては
荷物は無事に届かなかったかもしれない
それは梱包材だ
そしてそれは私にあたる

おそらく尋ねたなら
誰もが答えるだろう、『それ』は
私は有益だと
なくてはならない物なのだと

しかし圧倒的大多数は
そうしなければ 誰もが
すっかり『それ』そのものを忘れている
『それ』があるばっかりに手間が増えると
処分の時にだけ思い出す

あなたの中に私はいても
私はたいてい置き去りになる
あなたがたの激論の中に
私はひとり取り残される
都合良く利用して利用して最後に捨てる
私はただの『それ』に過ぎない

あなたがたは気付いていないかもしれないが
真に透明なのはこの私だ
あなたがたが気付くことはないかもしれない
真に透明であるがゆえに