暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

土に抱かれる

2016-11-25 | かなしい
たっぷりと水気を含んだ曇天から
堪えきれない雨が落ちる
凍った雫は加速度的に勢いをつけ

私の頬に落ちる頃には
木々の柔らかな手に殺され
穏やかなつめたい雫となって
優しく肌を伝っていく

雨のかさかさという音、
冬までに死にゆく虫たちの音、
傍若無人なけだものたちの息遣い、

水を含んだ土や落ち葉が
優しく体を包み込み
緩やかに緩やかに熱を奪っていく
(あの水音は私の血の流れる音)
(水音が止んだ時私は死ぬのだ)
体からこみあげるはずの振動も
いつだかにすっかり収まってしまった

木々の隙間から空を見ていた
光はじきに遠ざかっていく
冷たかったはずの雫の温度も
なぜだか妙に温かくなった
きっと今の私であれば
魚と恋人にでもなれるはず
(水音が聞こえない)
雨の残滓はもはや届かず
ひときわ大きな枯葉が落ちた
土は、枯葉は、湧き出る血潮は
こんなにも温かいものだったろうか

(水音が、止んでしまった)

孤独死

2016-11-24 | 狂おしい
体がひどく重くなった
手足を使いもがいても
這いずることさえかなわない
暗い部屋には誰もおらず
つい先程まで大勢の
雑踏に囲まれていたというのに

ひとり安置されたそこで
わたしは安らかに死なねばならない
四肢の力も次第に衰え
背後に死の気配が迫っている
ひとりで死ぬとはこういうことかと
遠い扉を見つめている

いっそひとおもいに殺してくれと
わたしは思うのだろうか、いや
果たしてわたしは望んでいるのか
もがいているのは動けないからだ
先程までいたはずの雑踏の中では
数多の仲間がひしめいている
あの中でもわたしは孤独に
手足をもがかせていたはずだ
殺されることもなく
食われることすらなく
一顧だにされず
群衆はただただひしめいていた

冷たく暗い部屋にいる
死を待つためにここにいる
周囲にはまだ温かな
群衆の手足が散らばっている
彼らはあっという間に死んだのだろうか
頭のない胴体を震わせて

つまらない罪悪感で
取り残された死の足音
動かない胴体はそれでもまだ温かく
手足にエネルギーを与えている
いつ死ぬのか、いつ死ぬのか
わたしは手足をもがかせて
遠い扉を見つめている

夢に生きている

2016-11-19 | -2016,2017
寒風がひとつ吹き
季節外れの風鈴が鳴る
そうか、わたしはまだ
夢の中にいるらしい

冷たく乾いた頬を掻く
痒みと痛みは感じている
歩く音が耳に響き
いやにうるさく感じている

膝はいやに笑っている
夢ではよく手足をなくし
這いずり回っているせいか
歩き方を忘れたようだ

会話は朧の彼方に消えて
昇った陽もたやすく沈む
耳に残るのは風鈴の音
つま先がひどく痛んでいる

何事も起こらない夢の中は
ただただ震えが止まらない
いつもいつも痛めつけられるのに
ただただ視線がうつろっていく

五体はしっかりついている
望むだけの約束も果たし
脳内をいじくられることもない
人々は残酷なだけで善良だ

いつもは四肢をちぎられ
水に沈められ
犯されながら首を絞められ
生きたままはらわたを掻き回されるのに

夜闇に風鈴の音が響く
もげそうなほど冷えた耳をさすり
わたしはまだ、
夢の中にいるのだろうか

望むものを与えられる現実と
すべてを奪い尽くされる夢と
どうかこれが夢でないことを祈る
どうかこのしあわせな日々が、

風鈴よ鳴り止んでくれ
もしこれが夢であるなら
今すぐにわたしを痛めつけてくれ
酸の海にでも沈めてくれ

求められるもののいる充足
かさついた頬を掻きむしる
どうか、どうかこのしあわせな日々が
けして夢でないことを祈る

血族

2016-11-03 | -2016,2017
他人の立場になってものを考えなさい
同じ口で殺人鬼への暴言はやまず
愚かな者への差別をやめず
無自覚な嘲りで踏みにじる

心の優しい子に育てと
言うそばで激昂する両親

言ってしまえばいいのだ
他人とはすなわちおのれのことだと

わたしの立場になりなさい
わたしの気持ちを理解しなさい
わたしの望みを慮り
わたしを快くさせなさい

わたしはわたしの物差しだけれど
あなたの物差しとは違うから
わたしの物差しを使いなさい
「他人の立場になって」
あなたはわたしの他人なのだから
「ものを考えなさい」

優しい子供よ
理解する時は来なくていい

殺人鬼の気持ちなど
理解しなくともかまわない

利己的に利己的に生きるがいい
圧倒的大多数に埋もれ
本音を隠すための格言をふりかざし
強者を貶め弱者を蹂躙するために

「あなたは優しい子なのだから」
(わたしを愛しているのだから)
「ひとの気持ちもわかっているでしょう」
(わたしの気持ちもわかるでしょう)

「他人の立場になって」
(わたしを苛立たせないで)
「ものを考えなさい」
(わたしの物差しだけ使いなさい)

嘗て私の憎悪した存在

2016-11-02 | -2016,2017
わたしはやがてことばをなくし
たいじのようにからだをまるめ
よくをいっさいつつみかくさず
ばりぞうごんをならべるだろう

どうぞわたしをころしておくれ
ておくれになるのはおそろしい
すくいのみこみがあるあいだに
どうぞわたしをころしておくれ

ねがいはしょせんいましかなく
みっともなくさけぶしのふちに
しついのままにしにゆくだろう
おわりをきめるのはぜいたくだ

たいじのようにからだをまるめ
ねむるさなかでめをさましては
ぎじてきなしをよろこぶものの
しのあしおとにひたすらおそれ

いまがおわればらくになれると
いくどいくどとはんすうしても
にくたいはしずかにほろびゆく
どうぞわたしをころしておくれ