暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

こいねがう

2019-11-15 | 錯乱
最初はただ与えられるだけで良かった
最初はただ手を動かしているだけで
まるで歩き方を覚えた子のように
得ていくという快感に酔いしれた
得られる、得られる、得た次は
得たものを持つようになる
私の手にあるものは
かつての私が得たものだ
持っていればそれはいつしか
おのれの一部と思い始める
鞄の中に入れたものは
手に持つことをやめたものたち
負った背中の重みも忘れて
次に得られるものを探している
「あなたは多くを持っている」
いいや私は持ってはいない、
誰よりも誰よりも求めている
得ていくという快感はやがて
得難い麻薬と成り果てて
もはや手を動かすだけでは
得るべきものさえ見当たらない
「あなたはとても恵まれている」
恵まれてなどいるものか
在るを知らず得ることを求め
それを知っていてもなお
(脳をぐずぐずに溶かしながらも
ガソリンを飲む子供のように)
新たなものを求める私が
恵まれてなどいるものか

ただ与えられるだけで良かった
ただ生きているだけで良かった
何もかもが足りず
何もかもが苦しい
わたしは何によって満ち足りて
わたしはどうすれば立ち止まる
眠りに落ちるときでさえ
謗りを止めることもなく
かばんの中は膨らんでいく
内側ではらわたが笛を吹く
何を囁かれても
幾度殴られても
これはわたしだけの重みなのだと
これはわたしだけの幸福なのだと
分裂する、分裂する、分裂する
否定して、否定して、否定して
右側で囁いているわたしと
左側で嘯いているわたしと
あなたはどこにもいないのだ
得るためにはあなたが必要だ
失うことなど耐えられない
だからかばんに入れている
あなたを得たらわたしはどうなる
ええ、おい、どうなると思うんだ
何にも持っていやしない
全てを得なければとても
与えてくれ
求めてくれ
褒めてくれ
叱ってくれ
笑ってくれ
泣いてくれ
喚いてくれ
乞うてくれ
縋ってくれ
悶えてくれ
わたしのために
わたしのために
得られればそれで良かった
得られればそれで良い
良いのだから

電車はクソ

2019-11-05 | つめたい
塵と芥が喚いておるわい
耳を貸すなど無為なこと
あれらをさも生きているなど
思う輩は阿呆なものよ

蟹の泡とも言うてやろうか
多少なりとは心地よかろう
いくら言葉に尽くそうとても
そこらでびゅうびゅう舞っておるよの

声などちいとも聞こえやせんよ
鳴っておるのは風の音じゃろ
足音などもひとつもなかろう
響いておるのは塵の重みじゃ

しかし邪魔っけのする芥じゃ
どがあに押してもびくともせん
そうと思いやわさわさ散って
まるで雲じゃの蜘蛛の子じゃの

塵も芥もなしてこがいに
開けたところでぷかぷかしとる
どうでもええよのどうだってええ
あれらは生きちゃあおらんのじゃ

優しい人

2019-11-03 | 狂おしい
どうかこの身を罰してくれと、
お前は何度もそう言った。
生きるに値しないこの心を、
身体に傷をつけることで、
苦痛を何度も受けることで、
ようやくあなたに並べるのだからと。

(あなたならばそれができる)
(あなたは私の救世主)

罰する、ありもしない罪のために。
腕に傷をつけるだけでは、
お前はただ笑うだけ。
泣きそうに歪んだその顔は、
とてもとても醜いものだ。
傷を癒し、骨を砕く。
傷を癒し、目玉をくり出す。
吸って吐いたら元通り。
お前は安堵しているのか。

生きていることを?
まだ赦されないことを?

お前の剥き出しの歯にキスをして、
何度も何度も言い含める。
「お前は既に許されている」
「許していないのはお前自身だ」
言いながら歯を抜けば、お前は、
血を流しながら祈るのだ。
ああ、なんて、醜い。
修復しても、なお。

(あなたは私の救世主)
(なんて、なんて優しいのだろう)

睦言を囁く喉を潰し、
首を絞めてまた離す。
お前が許されたいと言うのなら、
何度でも何度でもお前を殺そう。
この身の罪は膨れ上がる、それでも
何度でも何度でもお前を殺そう。
この醜く浅ましい行為が無駄なのだと、
いつか悟るその日まで。

「血で、汚れた、私の、血」
「私は、なんと、罪深い」

ああ、ああ、なんと醜いのだろう。
いくら修復しようとも。
お前を嬲るこの顔はきっと、
誰よりも醜いに違いない。
けれど吸って吐いたら元通り。
傷を癒し、腱を抉る。
傷を癒し、ぶつ切りにする。
安堵している。
安堵しているのだ。