暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

お願い

2013-11-11 | -2013
色鮮やかな花畑
私の名前を呼ぶ誰か
摘んだ花はすぐ枯れた
誰かの名前を呼ぶ私

燃え尽きた後の瓦礫たち
愛しい人を呼ぶ誰か
望み通りに振る舞った
誰にも呼ばれない私

時間をかけてゆっくりと
鍾乳石の下の筍石
私の下には何もなく
私の上にも空はない

燃えては萌える時の束
誰かの名前を呼ぶ私
取り残された箱庭で
誰もが幸せに空へと昇る

最初の花は油になった
私はただただ望み通りに
誰にも呼ばれない私
化石にさえもなれないまま

終わる前に終わらせて
ひどく疲れてしまったから
手折れたままで走り回って
何もかもを壊してしまった

誰かの名前を呼ぶ私
誰にも呼ばれない私
愛する人を呼ぶ誰か
得られたものは何もなく
削れたものは戻らない
花を摘んでしまった私
石を崩してしまった私
あの花畑に戻りたい
あの花畑に戻りたい

お散歩日和

2013-11-06 | -2013
まどろんで沈んでいく意識をたどり
わたしはゆうらり散歩をしている
冷たく翳る枯れゆく木々を
臓腑を石灰に満たす人々を
打ち捨てられた一足の靴を
眺め、見送り、そして忘れて
わたしはゆうらりと歩いている
ストロボで撮される影絵たちは
夢のさなかで幽体とも呼ばれ
されど彼らは意識の外で
確かに質量を持っているはずだ
大きくけのびをしたのなら
肌と肌も重なろう
肺の隙間に潜る煙は
静かに空を灰色へと塗り潰し
沈む、沈む、流砂のように
幽鬼のように漂うそのそばを
眺め、見送り、やがて忘れて
ただそれだけで良いのなら
これがわたしのすべてであるなら
こここそ世界を統べているなら
いくらでもいくらでも影を踏む
白く燃え尽きた空からは
黄色と赤の雨がそそぎ
わたしの散歩はもう終わる
枯れゆく木々も白く固まる人々も
何もかもは一握のまぼろし
打ち捨てられた靴だけが
いつだってあるじを報せている

吐きそう

2013-08-16 | -2013
きれいな空であなたとわたし つながっているの

わたしの大嫌いなあの女とも

わたしを嫌っているあの男とも

会ったこともない浮浪者とも

血をたっぷり浴びた殺人鬼とも

狭い肉壺を喜ぶロリコンペド野郎とも

犬と交尾するクズたちとも

虫を殺して喜ぶ歪んだガキとも

糞尿にまみれた獣たちとも

つながっているの

つながっているのよ

あなただけじゃないの

わたしだけでもないの

みんなみんなつながっているの

今吸い込んだ空気だって

誰かの屁が混じっていたり

腐った肉が気化していたり

わたしの嫌いな人の息なんて

きっとたっぷり吸い込んでいるの

この空の下で

特別にあなたとわたしがつながっているなら

きっとわたしはあなたを憎むの

襤褸のかみさま

2013-07-30 | -2013
私の中の高潔は
汚れた襤褸を纏っている
下水に何度も流されて
黒と白の区別もつかない
私はそれが憎たらしい
勝手に海まで駆けてゆき
無意味なほどに手を叩く
私はそれを憎んでいる
いくら排泄したところで
気がつけばまたあの襤褸と
ひどい悪臭が後ろ側
にたりにたりとそれは笑う
何を告げるわけでもなく
さも愉快そうに手を叩く
彼の彼女の高潔は
見事な絹を肌に纏い
あるじの隣に従っているのに
私の中の高潔は
それらを指さして手を叩く
さも愉快そうに歯を剥いて
私はそれが憎たらしい
笑うことしかできぬ高潔
襤褸布さえも纏った高潔
何度も何度も下水へ落とし
まだ目玉さえ残った高潔
何とも何とも半端な高潔
溶けろ 喰われろ 臓腑を晒せ
下水でさえも足りないのなら
他人のあれらを食らってしまえ
私はあれが憎たらしい
私の中の高潔は
私をよくよく知っている

アクトベリンゼン

2013-07-26 | -2013
迷子の子供を見かけた
声をかけると子供は逃げていった

旧友と話をした
お互い疲れて別れてそのまま

蜘蛛を殺さず無事を祈った
その翌日に動かなくなっていた

瀕死の猫に寝床を与えた
暖かすぎる部屋で渇きながら猫は死んだ

小さな魚を飼い始めた
浮き上がれずに溺れて沈んだ

今日の善行明日の悪行
すれ違うのは至らないせい

こっそりお金をちょろまかす
ただ気まずさが募るだけ

嘘をついて土下座をし
温情を汲まれて無罪放免

誰も知らない秘密がある
誰もが秘密を持っている

殺せば喝采を受けるなら
わたしとあなたで戦争をしよう

何度も血を流し続けた
同情を受け誰かは涙を流してくれる

今日の悪行明日の善行
結果は既にご存知のとおり

たくさん助けたそのうちの少しを
より強烈に覚えているだけ

たくさん欺いたそのうちの少しを
ただ許されてしまっているだけ

そぐわないそぐわない、方程式など
下水で鼠に喰われてしまった

敵意

2013-07-07 | -2013
はらわたがぐつぐつと煮える
鍋の中で泡を吹く
ひとさじの砂糖を入れたところで
灰汁はみるみる溢れていく

おまえのはらわたはどんな味だ
美味しくない、美味しくなどは
ただ煮て食べればどうにでもなる
骨は砕いて土に撒いた
髪も服も全部燃やした
おまえのはらわたは変に苦い

混じりのない瞳はじきに
どろどろくすんで液化した
蝿よ、鼠よ、油虫よ
死にたいがために貪るのか

褪せた食卓、どろりと濁った煮汁の煮こごり
なんともなんとも異臭を放つ
感謝するのはおまえのほうだ
美味しくない、美味しくなど
土と肉に埋もれてしまえる
異臭も灰汁もやがては糞へ
楽に生きれば楽に死ねる

残さず食べよと言うそばで
隅に重なる灰汁とはらわた
無駄ではない、無駄になど
おまえが蠅を、鼠を、油虫を
叩いて潰さぬかぎりには
燃やして灰へと変えぬかぎりは
ぐらぐら煮え立つ煮汁の中で
おまえが蕩けることもない

手遅れ

2013-06-20 | -2013
あきおくんは、とてもわすれっぽいおとこのこ。
おもちゃをかたづけるのをわすれて、いつもおかあさんにしかられます。
あんまりしかられてしまうので、あきおくんもわすれないようにきをつけています。
それでもやっぱり、すぐにわすれてしまいます。
おかあさんはあきれていいました。
「このこはばかにちがいないわ。」
あきおくんはかなしくなりました。でも、それもすぐにわすれました。
そとにあそびにいったらいつもくつをはくのをわすれます。
おうちにかえるときはぼーるをこうえんにわすれます。
あきおくんは、あたらしいぼーるをいくつかってもらったのかもわすれてしまいました。
それでもあきおくんは、まいにちたのしくくらしています。

あるとき、おともだちがあきおくんにいいました。
「あした、またあそぼうね。」
あきおくんはよろこんで、「うん。」と答えました。
つぎのひ、あきおくんはおともだちとやくそくしたのをわすれていました。
おともだちはかんかんで、「もうあきおくんとはあそばない。」と言いました。
あきおくんはかなしくなりました。でも、それもすぐにわすれました。
あるとき、おともだちがあきおくんにおもちゃをかしてくれました。
「おきにいりだから、すぐにかえしてね。」
ずっとほしかったおもちゃをかしてもらえて、あきおくんはおおよろこび。
それでもいつのまにか、おもちゃはどこかにいってしまい、あきおくんもおもちゃをかりたことをわすれました。
おともだちはわんわんないて、それからあきおくんとしゃべってくれなくなりました。

あきおくんはだんだんひとりになっていきました。
みんな、あきおくんにあきれてはなれていってしまったのです。
それでもあきおくんは、まいにちかなしくくらしています。
どうしてひとりぽっちなのか、あきおくんはわすれてしまいました。

そんなあきおくんのところに、ようせいがやってきました。
ようせいは、「おもいだしのせい」らしいのです。
あんまりわすれっぽいあきおくんをしんぱいして、おかあさんがよんでくれたのだとようせいはいいました。
「おもいだしたいことをいってごらん。なんでもおもいださせてあげるよ。」
あきおくんは、くびをかしげていいました。
「きみはだれ?」
「ようせいさ。」
「ようせいってなあに?」
「きみのねがいをかなえる、ふしぎないきものだよ。」
「ぼくのねがいってなあに?」
「あきおくんはわすれっぽいんだろ。ぼくのちからは、なんでもおもいだせるんだ。」
「ぼくはわすれっぽいの?」
「おかあさんや、ともだちもそういっていたよ。」
「それは、だれのこと?」
あきおくんは、どうやらおかあさんのこともわすれてしまったようでした。
おもいだしのせいは、あきれていいました。
「これはぼくのてにはおえないよ。あきおくん、きみはもうだめだ。」
そんなことをいわれても、あきおくんはなぜようせいがあきれるのかがわかりませんでした。
「どうしてぼくはだめなの。どうすればいいの。」
「しらないよ。ぼくはおもいださせるだけなんだ。しかたないな、せめておかあさんとおともだちのことはおもいださせてあげるよ。」

ようせいさんがえいっとちからをこめると、あきおくんのあたまのなかで、やさしそうなおんなのひとや、あきおくんとおんなじくらいのおとこのこやおんなのこがみえました。
そしてあきおくんはおもいだしました。
それは、おかあさんとおともだちだったのです。
「おもいだした。おかあさんと、おともだちだ。」
あきおくんのことばに、ようせいもまんぞくそうにうなずきました。
それからあきおくんは、ようせいをちからいっぱいぶちました。
ふわふわとんでいたようせいはしたにおちて、それからまたあきおくんにぶたれ、けられました。
「いたい、いたい。あきおくん、どうしてぼくをぶつんだ。」
ようせいはたまらずさけびましたが、あきおくんはかまわずようせいのはねをむしりました。
「おもいだした。おもいだした。どうして、おもいださせたんだ。いまのぼくには、だあれもいないのに」
あきおくんはなきました。なきながらようせいをけりつづけました。
ようせいはこたえませんでした。もううごかなくなっていました。
さいごにあきおくんは、おおきなあしでようせいをふみつぶしました。
それでもあきおくんのなみだはとまりません。
あきおくんはじぶんのあたまをぶちました。
ちからいっぱい、したにたたきつけました。
でも、わすれることができませんでした。
おかあさんとともだちのわらっているかおが、ずっとあたまからはなれないのです。
あきおくんはひとりぽっちでした。それでもまいにち、すこしだけかなしくくらしていたのは、おかあさんたちのことさえわすれていたからでした。
あきおくんはいつまでもいつまでもあたまをぶちつづけ、ないてくらしました。
わすれなくなったのに、あきおくんは、まえよりずっとつらいままくらしました。

成功と失敗

2013-06-11 | -2013
蜘蛛よ、わたしを
喰らうのか
おおきな足と
ねばつく糸で
得られたわたしは
とびきりのごちそう

針を刺せ、
牙を剥け、
爪を出せ、
毒を挿せ
わたしを喰らえど
飢えは尽きない

蜘蛛よ、おのれの
糸にからまる哀れな蜘蛛よ

わたしの手足を切り落とせ
末期の獣を侮るな
しかし蜘蛛にはわたしの手足を
切り落とすだけの鋸もない

蜘蛛よ、わたしを
喰らうのか
喰らうのならば喰らうがいい
八つの足をもがかせて
隣で餓えて死にゆく蜘蛛よ
わたしをからめるその糸は
どうしておまえを殺すのだ

蜘蛛よ、わたしを
喰らってくれ
おのれで手足を切り落とすから
糸をからませ封じるから
毒を突き挿し啜ってくれ
八つの足をきれいにそろえ
息を吐き出す、毒蜘蛛よ

道連れ

2013-06-01 | -2013
つめたいあめにうたれるきみは
どこをみているのかわからない

よるになってしげみのむこうで
がさがさなるのはきみのかげ

あさがきみをうばっていった
くるまのむこうのむこうがわ

みずになってとけていって
いまそれをたべているところ

きみのおにくでみたされたい
はきだしたものはぐっちゃぐちゃ

えびはきみではなかったけれど
きみはきみでもなくなっている

たましいがえんとつでつまっている
きれいになるためにとりのこされる

ただようかげをまたいでこえて
すみのほうでみるのはだあれ

どこへいったのどこへいったの
どこへもいかないただのこされる

なにをみてるのどこをみてるの
みることさえもわすれただけ

がらんどうのまぶたのおくで
きみのおにくをかんがえる

つちもみずもくうきもひとも
みんなみんなきみをころす

くさもはなもつちもはしらも
みんなみんなきみをそだてる

つまりにつまったたましいたちも
きっとおなかのなかにかえった

だからあんしんして
あんしんしてころすことができたんだね

ほらまどのそとみてごらんまどのそと
うしろはふりかえらないで

あさはおしりからでていく
よるはせなかをきりさく

たのしいことうれしいことつらいことたのしいこと
たくさんあるなかできみはあさにうばわれた

つめたいあめはなくなった
はれてくもってなくなった

きみはすぐそこにいるよ
どこをみてるかわからなくても

君はすぐそこにいるよ
窓の外と後ろ側

夜も朝も晴れも夜も
草に花に空気に土に今日のご飯のお肉にも

沢山の沢山の君が混じってお腹の中に詰まっているよ
蠢いているよ

蠢いているよ

寂しくなんてないんだよ

2013-05-08 | -2013
あの子はどこへ行ってしまった
細い手首の可愛いあの子は
(遠く、遠くへ行ってしまったよ)
甘える声がよく聞こえていた
私はよく耳を澄ませて
あの子の声が聞こえるたびに
夕暮れの空気を感じていた
(誰も知らない遠くの場所へ)
声が止んでしばらく経つ
私は夕暮れを忘れてしまった
昼と夜とが代る代る
いつだったかいつのことだか
(あの子がどこへ行ったとしても)
細い手首に心配することはなく
返事のないあの子を心配することもなく
平穏に夜は訪れる、日はやってくる
あのこはいつの間にかいなくなった
どこへ行ってしまったのか
(おまえはすぐに慣れるのだよ)
どこへ行ってしまったのか
遠く遠く、見えないほどの
遠く遠く、聞こえぬほどの
(いなくなった、そのことに)

(おまえはすぐに慣れるのだよ)