暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

アポロ

2007-01-31 | 明るい
三日月にサヨナラして
太陽と恒星を渡るんだ

光はあたたかいから
甘えてしまうけど
あたたかすぎて溶けてしまえば
空から落ちてしまう

あの小石のような星へ渡ろう
兎をかかえて渡ろう

土の匂いが恋しくなったら
星の岩を眺めてごらん
光り輝く星々の軌跡は
宇宙の雲が吸い取ってくれるから
もう少しだけそこにいたって
大丈夫 溶けやしない

冷たいところは安全だけれど
退屈で何もないから
三日月にサヨナラしよう
ここで眠ればいい

生的不能

2007-01-31 | -2007:わりとマシなもの
僕はどうしたって
母や父の庇護の下で暮らさなければならないのです
いくらあがいたところで
僕のうしろには家族が潜み
あらゆる手段は家族に帰結するのです
僕は愚かです 愚かな
過ちを続けているから今も子供でしかないのです

けれども僕は
大人にも子供にもなりたくないので
こうしてもがいているのです
僕は白痴のように笑ってばかりいますが
本当は笑いたくなどありません

もう道化は疲れました
何をばかなことを、とあなたは嘲笑するのかもしれませんが
ほんとうです ほんとうに疲れました
それでも僕はまだ家族としてのビジネスを
果たす必要があるのです

あんまり弱すぎるので僕はいつも申し訳ないと思っています
ただ謝ってもかえって良くないと 知ってもいます
僕は泣かなくなりました 心は弱くなりました
もう僕は 無力な自分に情けをかけなくては
生きてゆけなくなりました

あるいは社会を憎むことで
僕は自分を許そうとしました
自分のような弱い人間が生きられるような
優しい社会が悪なのだと
けものの社会であれば 僕は
今ごろは骨も水となっているでしょう

僕は愚かだとわかりますか
愚かです けものののような人間です
正しい社会を信じるならば 僕は僕自身を
生かすことも否定しなければならないのです

僕の迷いや罪悪感はすべて許されてきました
迷いが罪であることも罪が真実であることも認められ
愚かな僕は どうしてか いつも
高台にのぼることをすすめられるのです
そうして僕は笑うしかありません
どのように歩くかも知りませんから

最大の罪悪を知っているでしょうか
僕はその大罪を犯してなお生存を認められています
家族という責務を果たすための
ひとの情念というものを どこかで
捨ててきてしまったようでした

愛を知らない生き物など
どこに存在するというのでしょう

僕の熱は存在しません
ただ申し訳ないと思うばかりです
人であることを放棄した僕は
やはり白痴のように笑うのです
どうして誰もが庇護するのでしょう
僕が子供だからでしょうか
僕が人間でないことを知り情けをかけるのでしょうか

家族に手をついて謝りたいのですが
きっと父も母も僕を最初から許していると思います
僕の犯した大罪も あの人たちは
あたたかい笑顔と涙で許してくれるのでしょう
どうにも居心地が悪いのです
おそらく僕には救済の道もないのだと
あらゆる教典は慰めてくれました

僕は愚かな存在なのですが
それでも死が恐ろしくてしかたがありません
いいえ わずかな
けものとしての本性の残滓は
生きていたいようなのです
僕はおそらく いつまでたっても
大人と子供の輪を宙ぶらりんにさがっていることでしょう
たとえ生きていることが間違いと知覚していたとしても
 私の最後の獣の本能に頼るしか道がないのです

人的脳死

2007-01-31 | 暗い
紙切れを見つめて呟く
「もう少し能力があればなあ」

プラカードなんて掲げたくはないし
学校へ通うのも今更気恥ずかしく
職業安定所ですら見下されているような気もするので
一人で本屋を訪れる
「すみません、表の貼紙を……」

そうして帰るは
誰もいない自宅

なぜ誰一人
どうして何一つ
自分にやっては来ないのだ
「随分と、譲歩しているのだがなあ」
水道水で腹を膨らませ
暇のために ただ眠る

なんとなくでも生きるもの
どの道死なない限り生きるのだ
自分の手を見つめて驚く、
「こんなに歳をくっていただろうか」

ある速度を弛めては
時間は速く過ぎるもの
いまだに気付かず眠る
風化していく人としての心は
皮膚呼吸もかなわず壊死してしまった
眠る部屋はシダを生やし
打ちっぱなしを埋める





誰の?

2007-01-30 | -2007:わりとマシなもの




嘔吐した、

有機物は

わたくしの

腑なのです。

紫色です。

胃液のほかに奇妙な汁が見えます。

脳は耳に垂れており
目玉は落ちまして
鼻は削がれてしまいました
口は縫われ
首は皮を剥がれ
肩は鎖骨が飛び出し
肋骨は三対ほどありません
腕には縦の傷が入り
軟骨のゲルを手で遊び
胸の間では心臓が動いています。

ずたぼろでも、

猫のように

生きているものです。

傷はもう

染みやしませんが、

ただただ

憎いのです。

憎い。

憎いのです。

舌がやけに、

ぴりぴりします。

モノサイズシルエット

2007-01-30 | つめたい

闇とは、宇宙である
反射されない空間である
光を吸い込む空間である

果たして、物理的な
闇は真に見えるのか
たとえば夜を闇というが
光を吸い込み暗いのか
光が当たらず暗いのか

闇は空の中にこそあり
地上は影しかないのでは

かつて、闇は何色なのだと
人にしつこく食い下がった
闇に色は存在しない
黒は闇の色ではない
それを言うなら、
青空でさえ闇なのだ

空を見上げる
雲を眺めるために
青を眺めるために
星を眺めるために
しかし 闇は眺めるだろうか
視点は真に合わさるだろうか

未だ、誰一人
闇など視えてはいないのではないか

存在しない
それが闇である、
とさえ言えない仮説
ならば私は言う
闇とは時間なのだと
空間とは捩れた位置にある
時間が空に満ちている
しかし空を見上げても
いまだに闇は見えないのだ



ΔS1-S2

2007-01-30 | つめたい
長イ長イ休暇ヲトラウガ
時間ト帰結点ガ同ジデアレバ
勤勉ト同列ノ評価ヲ下ス

サウ、此処ハ結果主義ノ圀
有終ノ美
終ワリ良ケレバ全テ良シ
アラユル過程ハ道ニ非ズ
但ダ帰結点ヲ求ム輩ノ
下卑タ吐息ハ咽ヲ食ム
アア生臭イ、生臭イ

長イ長イ距離ヲ走ル
吾ラハ長距離走者デアル
サレド尻ノ鞭ハ馬ノ鞭
求ムル時間ハ平均ノ速サ
ΔXノ傾キハ
曲ガッテイヨウト直線デアル
デルタ、デルタハ
平均ノ帰着点
三角形トハ魅惑ノ理想
ハ、ハ、ハ

ハ!

光デサエモ一定デハナイ
タカガ人ノ筋細胞ガ
直線ドオリト仮定スルノカ
愚カシヤ愚カナリ
心臓ハ一律ト思フノカ
休ムカ進ムカ己ノ采配
他ヲワキマエヌ姿勢コソ
帰結点ヲモワキマエヌ

アア生臭イ、生臭イ!
デルタトダッシュガ駆ケ巡ル
帰結スルノハ何時ゴロカ
オ前ノ首ハ何時落チル


モノの叫び

2007-01-29 | -2007:わりとマシなもの
私に名前をつけてください
あなただけに呼ばれるような
素敵な名前をつけてください

私はなにしろあなたのため
生み出され所有されている
どうか名前を
ただソレと言うだけでなく

私は返事ができないが
できるだけできるだけ
壊れないよう気をつけるから
生きてあなたに愛されたい
いくつになっても
いつであっても

私の名前は決まらない
なぜなら私は返事をしない
そして言葉も出ないため
あなたの買ったビニール袋に
毎日おびえる私も知らず
今日もあなたは名称で呼ぶ
どうか私に
私に名前をつけてください

脂と膠

2007-01-28 | -2007:わりとマシなもの
死んだばかりのこの肘は
未だ色濃く血を流す
赤が吹き出て黒は滴り
破壊されたヘモグロビンを
鎧に纏う肉の塊
肉が切れても骨は残し
たかが白にも痛覚のあることを知る
皮膚を剥がした人の膠を
この脂に溶かすべし
寒天状の琥珀色
白で加える骨の粉
赤と黒と脂と膠を
膚に塗り込み下地は割れて
黒を解いて青を取り出し
隙間に埋める脈の川
両手を挙げて
酸化していく赤を流す
崩れた脂肪は管を通し
瞼の色はひどく白い
瞼の色はひどく白い
黄色と赤と青が塗られ
黒い絵が床に臥す
骨と目玉はひどく白い

臆病者

2007-01-28 | かなしい
中途半端な比喩表現か
直接的な暴言か
頭の中はそればかり
生産できない指先は

技術ばかり求めている

痛みに血を流した夜
体温はあたたかくとも
ベッドの外はとても寒い
痛がる顔に背を震わせた夜
体液は飲み込まれて
嫌悪の裏側の愛を知る
罵りは絶頂を教え
白くなった指先が肩に回る冷たさ

何も生まないのは
こんな下らない夜また夜
雄鶏はどうしたって雄鶏でしかない
そして鶏は飛ばない
羽ばたく技術を極めても

手を繋ぐか
体を繋ぐか
比喩表現もしくは直接表現
暗闇に慣れた目に写る
汗に濡れた額

好きかもしれない悔しいことに
背中を見つめて呟いた