暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

就職しました

2016-01-26 | -2016,2017
幸せな世界を夢見て
泥濘の底よりのぼってまいりました
幸せな世界とははたして
ありとあらゆる負のない世界と
そう皆が口々に言っておりましたので
きっと人々は皆が優しく
きっと幸せに生きられるものだと
そう夢見ておりました

泥濘の底で生まれた、
そこに気付くことができていれば
どこであろうと世界はひとつ
たったひとつでしかないことに

泥をかぶった姿を笑い
洗うためだと口々に言い訳をし
水へ幾度となく突き落とす人々
幸せな世界とははたして
彼らの中にのみ帰結していたようで、
ならば泥の底へ戻ってきた彼らは
なぜああも口々に、
幸せな世界などとのたまうことができたのかと
皹る引き攣れる肌をさすり思うのです

それでもと天上界で暮らしても
幸せになれたことなどただのひとときとしてなく
幾度となく水へ沈められようと
こびりついた泥が落ちないことにさえ憤り
掻きむしり赤らむ姿を見て
人々はよりいっそう笑うのです

ついに泥の中へと逃げて
悲しいほどになつかしい泥濘の底へ戻ったとき、
ここはなんと、
なんと幸せな世界なのか、
そうして間もなく、
天上への憎しみすらおぼえるようになりました

先達のようにわたしは、わたしは
天上にあこがれる泥の子供へ
幸せな世界と教えます
世界とはたったのひとつ
切り離されることのないひとつきりの場所なのですから

成れの果て

2016-01-08 | 明るい
私は幸せな夢を見ていた。
毎夜毎夜、頼れる友と、
かずかずの冒険を繰り広げた。
来るべき将来の平行世界で、
さっそうと世のために活躍してみせた。
幸せな家庭を築き上げ、
娘息子にキスを送った。

そうだ、私は、
幸せな夢を、見ていたのだ。

夢を見る時間は終わったのかもしれない。
やがては起き、生身の姿を愛する日が、
愛さねばならない日が訪れる。
それはむしろ扉の向こうで待ち構え、
あるいは今なお扉を叩いている。
けれども私はなおも泥濘のような眠りに、
憎らしいほど甘美な眠りに身をゆだね、
今日も鯨とともに大海原へと向かっていく。
私は幸せな夢を見ていた。
今も、幸せな夢を見ている。

幸せな夢と気付いたその時から、
おのれの惨めさを悟ったとしても。

沈着

2016-01-06 | -2016,2017
朝靄に煙る工場群を見送り
煙を吐き出す汽車に乗る
紫煙に霞む客車へおしこまれ
煙たい顔をおしころし
窓むこうの清らかな薄煙を眺める

ぼくの肺も、心も、足先も
朝には浄化されるあの工場群のように
きれいに洗われる時があるだろうか
がらんどうの客車はそれでも
どす黒い煤と脂がこびりついているだろう