電車に乗って思い描く
めだまのないおおきなばけものが
車に轢かれて死んでいるさまを
川にかかった広い橋の
しらじらしく平らな道路の上で
ばけものはだらりと足を投げ出して
しずかに内臓を晒している
赤いよだれを垂らしながら
開いた口のすきまから
もれる舌は力なくアスファルトを舐めて
放射状に飛び散った血のそばで
車はぺしゃんこになっている
骨と脂と肉の破片が
フロントガラスの残骸に
挟まりへばりついているが
真っ白にひびの入った窓の向こうは
ほんのりピンク色に染まっていて
挟まった髪の毛はきっと
中で綺麗に咲いている
おおきなばけもののなきがらは
道路いっぱいに広がっている
踏み越えることはできず
避けて通ることもできず
押し合い圧し合いのありんこたちを
流れる車窓のすきまから
色とりどりのありんこたちを
どうでもよさそうにながめているのだ
ありんこたちのマトリョーシカは
ぼろぼろとおもしろいほどにあふれ
はらわたの臭いに吐き散らしながら
何やらわめきたてている
けれどわたしは電車の中で
絶え間なく動きつづけている
声など聞こえないね、何も
おまえたちの言うことなんか
進むこともできず
戻ることもできず
ありんこは右往左往をくりかえす
そう考えているあいだなら
ばけものという尊い犠牲のうえで
かれらは足を止めていた
電車は絶えず走りつづける
相対的にたゆたい、目にも
とまらず去りゆく車
わたしは止まらないし
かれらもまた同じこと
いずれ
マトリョーシカの中におさまったまま
流れる窓のむこうがわで
ほんのささやかなまぼろしのむこうで
真っ白にひびわれたステンドグラスの
花を綺麗に咲かすまでは