暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

群れの孤独

2011-12-20 | -2011
神様は上にいて
鬼たちは下にいる
きれいな空は上にあって
みにくい屍は下にある
まんなかにいる人間は中庸で
きれいでもなければきたなくもない
神様は直接手をさしのべてはくれないし
鬼たちは地面を掘るのでせいいっぱい
人間は空を超えることを夢見ている
きれいになろうともがいている
もがくものさえないのに

善いことをするひとはきれい
悪いことをするひとはきたない
どの世界もどちらかしか書いていないなら
きれいでもなければきたなくもないひとたちは
やっぱり地上を彷徨わなくてはいけない
だって空は落ちてこないし
屍はつめたく眠るだけ
どちらでもない魂は
ぐるぐる魂を彷徨って
のぼってきなさい
おりてきなさいと
無責任な言葉を囁かれ続ける

罪を負うのは右耳から
罪を消すのは左耳から
けれども右から左へ通過して
左から右へも通過して
消えた罪はまたけがれ
負った罪はまたきえて
空へも地下へも潜れない
きれいでもきたなくもないのなら
救いも破滅もありはしないんだって
言い聞かせていつだって夢を見る
人を殺す夢や
空を自由に飛ぶ夢を
みんなみんな孤独なんだから
わたしたちここにいるだけね と
言い聞かせるんだ

ひとは孤独なんて当たり前
かみさまも鬼もずっと孤独だから
仲間を見つけてひっそりと
上や下を見るしかない
ひともけものもみな孤独
上はきれいで下はきたない
そう善悪の摂理に従って
ものを食べる 食べる 食べる

ひとたちはこうも言う
空はわたしたちが汚してきたない
土は深く深く澄んでいる
神など居はしないのだ
鬼などただの幻想だ
わたしたちはたったのひとり
たったひとりの生き物なのだ
因果も運命もありはしない
生きる使命などとうに忘れた
進化を忘れた獣たちを
ただ食らう 食らう 食らうのだ

ヘドロのベールをまとったかみさま
マントルの海にたたずむ鬼たち
怒りは土も大気も焼きつくして
えがいた夢を現実にする
上はきれいできたなくて
下はきたなくてきれい
彼らはどこへ行きたがっているのか
どこへも行きたがっていないのか
右から入った屍の数だけ
左の同胞が歓喜をあげる
左の同胞がなぐさめるたび
右の敵を殺していく

かみさまは決して直接手をさしのべてはくれないし
鬼も地上にはきてくれない

兎は逃げていった

2011-12-16 | -2011
私は樹です
先ほど、足が生えました
なんともいえぬ違和感が
なぜだかへんに心地よく
ちょっと一歩を踏み出します
うまく力は入らなくとも
一歩前へと進みました

歩き出すということは
なんと楽しいことでしょう
ずっと見送るばかりだった
獣や小鳥とともに歩み
疲れたならば足を曲げ
知るはずもなかった地のことを
知ったのです

けれどもよいことばかりでは
ないのだと思いました
私の体はひどく重くて
いつもいつも置いてきぼり
前まで見向きもしなかった
手の届かない場所への欲望も
日に日に膨らんでいくばかり
獣はいいなあ
小鳥はいいなあ
欲が 欲が 膨らむのです

私は樹です
樹は樹であるべきなのです
けれども足が生えたのです
生えてしまったのです
そうして気付いてしまったのです
今までいかに自分がきれいであったか
今の自分がいかに汚れていっているか
けれどもそういった感覚さえ
昔は持っていなかったのですから
私は悩んでいます
歩きながら悩んでいます

仲間も足が生えました
生えない仲間もまた います
みんなみんな 悩んでいます
何のために必要なのか
必要でないならなぜ生えたのか
ながくながく考えたあと
足のない仲間たちは言いました
おまえたちはもう
われらの仲間ではないのだと

動けないなら樹であって
動けるならば私は
私たちはなんだというのでしょう
何を食べるわけでもなく
歩き回る必要さえないのに
私たちは樹ではなくなってしまった
なんでもないものです
ただ歩けるというだけの

欲を持て余して
私はどうしたらいいのか、わからなくて
仲間でいたいというきもち
元に戻りたいというきもち
まだ歩いていたいと
いつか駆け回りたいと
いろんな欲を持て余して
ひとつ、涙をこぼしました

悲しいということを知りました
そうしてまた変わってしまうのです
ものを見る目も
おとを聞く耳も
駆け回る足も
掴み取る腕も
次々に得ていくのは
もう戻れないと知っているからです
その度わたしは変わっていきます
けれども悲しみは
たくさんの欲に埋もれて忘れていきます
仲間の声はいつしか届かなくなり
仲間であったということさえ
今は忘れそうです

だけれどそれでいいのです
もう 戻れはしないのですから

仮想現実

2011-11-12 | -2011
ホログラムの向こう側なんて
ありはしないのだけれど
笑っているように見えるあなた
私もまた こちら側で
笑っている
知覚することのできないラグを持って
あなたと私は共有している
(ように見える)
お互いの時間を
共有している、ように
見える
現実というものは残酷だと
陳腐なことを言うつもりはない
なんたってホログラムに透かした私は
(そしてあなたも)
甘美なほどに嘘つきだから
言わなくともわかっているはず
きれいなあなたもきっと
向こう側では犬のように
他人の喉笛に噛み付いて
貴重な血肉をすすっている
臭いまでは運ばないだろうと
あなたは安堵して笑っている
(そしてわたしも)
当たり前の罪業でも
やはり当たり前ではいられない
うろたえるふりをしながらも
私は向こう側で
同じように他人を捨てる
そして大丈夫だよ大丈夫だよと
にっこり笑って抱きしめよう
温度のないホログラムを抱きしめて
あなたを許して
(わたしさえも許して)
愉悦にまじった笑みをよこそう
それでもホログラムで透かした先
現実のわたしたちは
きっと現実を選ばないまま
きれいな手足で見つめ合う
それでいい
会わなければそれでいい
嘘でもいい
(妄想でも)
構いやしない

うつくしいひとみ

2011-09-13 | -2011
あなたの目は
きれいでは、ない

わたしの目も
濁っては、いるが

きれいなものだけ見続けて
きたないものは除外してきた

そんな目をしている

あなたはきれいに笑うのだが
わたしはそれに同意できないでいる

そうしてわたしも笑う
そぐわない笑みに、ひきつらせながら

あなたには見えてはいないのか
きれいなものを見続けた、
決してきれいではない目では

すべてが見えるわけもないが
結果としてわたしは濁ってしまった

わたしは結局何もうまくそぐわないまま
あなたの目をそれでも見ている
時に、目をそらすのは
わたしの濁りがそうさせる

あなたがもっている強い淀み
それが同じく、阻害する

あなたの目は
きれいでは、ない

決して、決して、
部分的に盲いた、その目では

鏡に映るきれいなあなた
その奥はきっと、
すでに見えることはないのだろう

うまくそぐえないわたしは
また笑って、
濁りが少しだけ澄んでいく

凡てのひとたち

2011-09-06 | -2011
整列の号令が鳴る
まだ出番はない
真新しい靴の底
前から順にときのこえ
気持ちのよい快晴が続く
腐れる心が汁を垂らす
勝者のラッパは高笑い
乱れた世の生き生きとしたまなこ
出番は近づいてくる
仄かに香る火薬のにおい
紅い陽は白痴を土へ屠る
気高き識者に住み着く蛆
サイレンこそが至上の神だ
炎に灼かれ救いを得る
美しくもない手のひら
まなこのなんと美しいこと
号令は今一度
獣は笑いながら救われる
肉を食らえば体は蝕まれる
心はサイレンが癒してくれる
敗者の弦楽にとどろく嘲笑
出番はもはやすぐそばにあり
靴がその時を待っている
雨は弱きをさらけ出す
紙上に躍る撃鉄の合唱
手を合わせたなら弔いの歌
手のひら返せばまたも玉砕
白痴は日に日に数を増す
陽が白ければ夢から目覚める
いまやこここそ最前列
おだやかな識者の腐れた腹は
後ろに並ぶ群衆の息遣いは
ごうと飛び去る爆撃機
泣くのは母かこのわたしか
華麗に軍靴の音が鳴る
獣は笑いながら救われる
獣は踊りながら救われる
狂乱は人を白痴に変えた
動乱は人を椰子に変えた
よくやよくや燃えるだろう
行き着くところはみな同じ
更に更に首を絞めよう
なにもかもが救われる
救われぬのはこのわたし
靴さえ笑っていってしまった

昏夜深

2011-08-03 | -2011
くらい くらい やみのなか

こわいひとが てまねきしてる

にっこり わらって よんでいる

それは ほんとうじゃ ないけれど

こわい こわいと ぼくはいう

とじても あけても くらいやみ

ぼんやり みえる へやのかげ

そこから にっこり にじみでて

めだまを ぱくりと たべるんだ

こわい こわい やみがこわい

おいでおいでと わらってる

いつまでたっても わらってる

とじても あけても くらいやみ

ひるでも よるでも くらいやみ

めだまを ぱくりと たべられて

ぼんやりさえも くらいやみ

こわい こわいよ くらいやみ

わたしだけのかわいいことり

2011-06-24 | -2011
僕たちはみんな最初に鳥をもらう
小さくてピイピイ鳴いているかわいい小鳥
それをかごにしまっておいて
いつだって一緒に連れて歩くんだ

みんな名前をつけていたけれど
僕は名前をつけなかった
小鳥はちっともかわいくなんかなくて
羽を切られなければすぐに飛んでいってしまうし
指を出せば噛まれてしまう
だから僕は名前をつけなかった

かわいいかわいい僕の小鳥
君はちっともかわいくなかったから
他の小鳥はきれいに歌ってえさをもらうのに
僕のだけちっとも鳴かなかった
木の実をえぐる鋭いくちばしで
覗き込む僕の目さえ抉ろうとした
大人は危険だと言って取り上げようとしたけれど
僕は知っていたよ
羽を切られた後にはいつだって
とてもとても悲しそうに歌っていたこと

だから僕は小鳥を肩に乗せ
飛び立つなら飛びたてと言ってみたんだ
けれど小鳥は僕の肩で
うずくまって震えるだけだ
君も結局かごの鳥で
切られた羽を幸せに思っているのかな

だから僕は小鳥を肩に乗せ
いつだって一緒に連れ歩いた
ばかなみんなはそれをまねして
小鳥がたくさん死んでしまった
お利口さんのぼくの鳥だけ
震えていても生き残った
ぼくは、人ってなんてみにくいのかなあと
こっそり震えていたんだよ

次の次のその次も
羽を切らずに生やしてあげる
すっかり飛び方を忘れていても
長い翼に嬉しそう
僕はそのまま肩に乗せた
いつしか小鳥の震えは止んでいた

そうしてその日が訪れたんだ
小鳥は僕の肩を蹴り
翼を広げて飛び立った
やっとかごから放されたと
やっと自由を得られたのだと
喜び勇んで歌いながら
何度も廻って飛んでいた
僕が自分の愚かさに
気づき始める頃のことだ

かごの鳥は不幸じゃない
生まれたことが不幸であっても
決して不幸なんかじゃない
だって媚びれば生きられる
毎日笑っておねだりの芸を見せて
餌がやってくるのを待っている
なんて贅沢な暮らしだろう

外の世界はとても辛い
やさしいかごはもうないよ
自分で捨ててしまったのだから

小鳥のかごは昔に捨てた
なら僕のかごはどこへやったろう
僕は今新しいかごに鳥を入れた
僕のようにばかで愚かじゃない鳥を
そいつは精一杯きれいな声で
えさがほしいとせがんでくる
助けを求めに窓の外では
小鳥がひっそり死んでいた

かなしいでいっぱい

2011-06-07 | -2011
つま先でずっと立っていたの
少しでも大きく見えるように
そうしたら爪が割れてしまって
足先が赤黒くなってしまって
いつもいつも血を流しているの
大人になんてなりたくないって
友達にはそう言うわ
ほんとうのことを言わないのが
大人だって教わったから
ちっともわからないのにコーヒーを飲んで
おとうさんの残したビールをちょっとだけ舐めて
タバコを買いに入って断られて
夜更かしをしようとしてつい寝てしまって
それでも毎日は過ぎていったの
わたしはどの道大人になるのに
どうしてもすぐに大人になりたかったの
友達はわたしのことを大人っぽいって言うけれど
私はぜんぜん大人なんかじゃない
背だってちっとも伸びないし
にきびがずっと減らないし
車にだって乗れやしないわ
お金はおかあさんからもらってる
そんなのとっても恥ずかしい
だから大人になりたかったの
すぐにでも大人になりたかったの
そうして毎日は過ぎていって
気がついたらわたしは大人になっていたの
だけれどちっとも大人じゃないの
焦げくさいコーヒーなんて嫌いだし
お酒はぜんぜん気持ちよくならない
タバコもすっかり忘れてしまった
車はやっぱり乗りたくないし
お金だって貯まらない
こんなのぜんぜん大人じゃない
わたしは大人になりたかったの
わたしの前で笑うあの人たちになりたかったの
決して泣きたかったわけじゃない
だけれどちょっぴり
子供に戻りたいとも思うのよ

つめたい臓器

2011-06-06 | -2011
消しゴムがずいぶんと磨り減ってしまった
外から削れていくはずが
内側から内側から削れていった
まだ四肢は残っている、
まだ内臓も動いている、
なくなってしまったものはもう思い出せない

ずいぶんと磨り減ってしまった
神経が悲鳴をあげることもなくなった
痛いと感じるものはなんだったのか
肌に触れると指先からしか反応はなく
いびつな曲線を撫でると知らない場所がひくりと震える
なくなってしまったのだからもう思い出せない

許すたびに一つ失った
許可を得るたび
一つずつ欲しいものはなくなって
だけれど何をも許さなくなったとしたら
何もかも得られなくなることもわかっている
なくなることがないのなら思い出すこともない

一つずつ、消しゴムを使って
丹念に丹念に消していく
新たな線を書き足す前に
丹念に丹念に消していく
だから何も得られるわけもないのに
私は見返りを求めておのれを削る

書き足すための鉛筆を持たず
いいよと言えば文字を消し
肉体に皮膚が張っただけの肉人形へ変わりつつある
それでも私はまだ笑えるのだ
内側のどこかで反響が聞こえても
それでも私はまだ

内臓の稼動音を聞いている
つめたい臓器のうごめきを
消しゴムはずいぶんと磨り減ってしまった
五体満足のその先が見えず
私こそが許されたいと願っている
なくなったものさえ思い出せないのに

ふつう

2011-06-01 | -2011
時々
目の前の世界が見えなくなる
知らない声が響いてくる
自分の体臭をひどく気に病む
起き上がるのさえ苦痛になる

たまにそうなるだけで
無理をすればいつだって
日常を送ることができる
かけがえのない日常が

時々
気が狂いそうになる
たったそれだけを言えばいい
泣かなくても伝わることば
だけど決して届かないことば
気が狂いそうになる
気が狂いそうになる
気が狂ったのかと疑う
気でも狂いたいと願う

境界線にやはり私は立つ
どちら側に属するべきか
選ぶこともできないまま
無理をすれば日常は送れる
それでもたまに気を狂わせ
絶対に戻ってくる平穏におののく

理解されない理解されないと
言いながら今日も境界線
とても寂しい
いつだって孤独
ひとをあいせないのだから

時々
目の前の世界を忘れてしまう
目先の快楽に身を委ねてしまう
その外側で私が私を見つめ
いちばん内側の私は血を吹き出しのたうち回って悲鳴をあげながら
それでももう何もしなくていいんだよと優しい死刑宣告が下されるのを
心待ちにしている

そう
一時の気の迷い
だけど私はいつだって境界線の上
明日は掃除もできるかもしれない
明後日は腕を噛んでいるかもしれない
明々後日は友達と遊んでいるかも
その次の日は元気なのに仕事を休み
その次の日は叫んで叫んで叫んで
また次の日は孤独をわきまえながら
そして次の日には元通り
その繰り返し
平穏もかりそめならきちがいもかりそめ
涙を流す前に言えばいい
私は中途半端なきちがいですと
時々気が狂いそうになるけれど
私はとても健やかです と