暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

加齢

2019-03-25 | かなしい
いつか大人になりたいと
かつての私は願っていた
しかし思い描いていた姿を
ここで見るのはとても稀だ

あなたの見せる大人らしさは
流行りを追う子供と変わらず
あなたは大人になったのではなく
いつの間にか歳をとったその結果

あなたになりたいわけではない
あなたのような大人には
私の描いている大人には
あなたは決して当てはまらない

酔って電車に乗ること
人を好きになること
いたずらに家庭を作ること
過ぎた時を後悔すること
ミニスカートを履かなくなること
四十を過ぎて女子と呼ぶこと
何をしたともわからないのに
いつしか立派になっていくこと
若い彼らを卑下すること
今と未来を否定すること
あなたの言う大人とは
いつかに見てきた虚像に過ぎず

いつか大人になりたいと
いまも私は願っている
それはあなたの思い描く
現実そう「なった」ものではない

あなたたちの押し付ける
消極的な理想像
あなたたちは鏡の姿に
満足しているのだろうか

癇癪の虫

2019-03-05 | 錯乱
背中を這うのは見えない虫
叩いても皮膚が引き攣れるばかり
擦っても平気で歩き回る
びゅうびゅう鳴る蝸牛の中に
飛び込んだのは蛾か蝶か

掻き毟れば毟るほどに
不可視の虫は分裂する
そら踵を齧ってやろうか、
どれ左手首が美味そうだ
首を這うのも面白そうだ

好き放題這い回る
目には見えない癇癪の虫
掻き毟れば毟るほどに
あらゆる皮膚の裏側で
柔い肉を這いずり回る

雨降る街

2019-03-03 | かなしい
しとしと雨が降る、
ここは森か草原か。
角の生えた牛たちが、
そぞろ歩いてひしめき合う。
土に雫のぶつかる音と、
角と角とが擦れる音が、
さながら楽奏かとも思われる。
ひしめく牛に歩みをとられ、
気付けば私も牛歩となり、
差した傘が角と擦れる。
私の体がよろめこうとも、
かれらは牛だ。
牛なのだ。
行軍に足なみをそろえながら、
灰色の木々を見上げていれば、
雨の粒が黒い空から、
いくつもいくつも落ちてくる。
地平線は遥かに遠い、
かれらはどこからやってきたのか、
かれらはどこへ向かっているのか。
わたしはどこからやってきて、
わたしはどこへ向かうべきか。
傘の骨がぶつかる音、
角と角とが擦れる音、
足踏み足踏み進む音、
かれらと同じく進むには、
角を生やすしかなかったのだ。