暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

ゲロにすら満たないもやもやの塊ともいえない半液体で個体にもなりそうなもの

2010-09-28 | -2010
たとえばあんまりくさっちゃってるものだから、本当に腐ってみてはどうだろう。
排水口からの臭いはすさまじくて、あぶらむしの鼻について思いを馳せられたなら生きる。
きっと生きるだろう。

なんだかあんまり前が見えないものだから、ちょっと泣いてみよう。
優しいあの子がなぐさめてくれても、おなかがふくれるわけじゃないから生きらんない。
それは死んでしまうかな。

まっくらなようでひかりにみちあふれた、
曖昧でぼんやりとした精神世界の、
たぶん真ん中じゃなくてほんのすみっこ、
球状じゃなくて平らなくらい小さな世界、
なんとなく爪先立ちをして、
それでもなんとなく浮いているよう。
空っぽをあざわらうこともない、本当に空っぽの精神世界。
浮いているようで立っているよう、きっと答えを決めたくない。
本当に空っぽならこんな広さだっていらないのに、真ん中のほうは息苦しいくらい風が通る。

そこにいるような気がしても、いまは物がたくさんで球状のところに二本足でべた踏んでいる。
重力に息苦しさを感じたらそれはきっと杞憂。
汚れたとか汚れてないとか、そんなのはもううんざりなんだ。
うんざりなんだ。
ただ層の重なった皮を丁寧にめくれば、小さな核なんてものしかないどころか存在するかもわからないってことさ。
気持ちが入り混じったらパレットを洗ってしまいたいのに、いつも忘れてこびりついてしまう。

ひとは単一にしか見えないようになってきたのは、パレットのせい。
だからぜんぶぜんぶやり直すか、もうやり直さなくていいからやめてしまおうかな。
腐っていなくてもくさっているし、涙はべつにきらきらしていない。
何色かもわからないがらんどうの精神世界で汚いとか汚くないとか言われたり思われたりしたのを受けて考えたり悔しかったり嬉しかったり、そんなのはもううんざりなんだ。
うんざりなんだったら。

不必要に生きた

2010-09-26 | -2010
脳が腐る夢を見た
いちばんはじめは痒みをおぼえ
体のはじから痺れがでてきて
歩くたびに頭蓋の中がちゃぷちゃぷ言った

脳が腐る夢を見た
実はいまだに覚めていない
腐りきってかわいた脳が
へばりついて気持ちが悪い

脳が腐ってわかったことは
わたしは脳では生きていないということだった
意識はずいぶんおぼろげでも
心臓は動いている、うごいている

どくんどくんと からだの音を聞いてみた
すべてが覆されたようで
それでも生きることは普遍的
頭がずいぶん軽くなったと思うだけ

脳が腐り落ちる夢を見た
現実はたぶん夢の向こうに落ち込んだ
判断するための臓器がないなら
これが夢でも現実でも

わたしはそれでも生きている
この世から遊離したまどろみの中で
わたしはそれでも生きている
いっそ空間から遊離したいと考えながら

わたしはそれでも生きている
けれどもたったそれだけになった
どうして夢かもわからないのに、
それでもわたしは、生きている

考える葦

2010-09-14 | -2010
死んでいく雛鳥
羽毛もはえそろっていない
無垢な死の向こう側に
濡れそぼった死を見ている
あれはカラスという
さっきぼくが殴った
あれはすぐに死んでしまった
死んでいく暇も残さず
あれがありついていただろう
生きるための糧を得ようとしていたところに
ぼくが殴って殺してしまった
死んでいく雛
おまえはミミズを食べたろうか
ぼくはミミズを食べない
雛も食べないが重要なのは
ぼくがカラスを食べないということ
肌色の雛
こちらを見ているのか
見えているのか
何を思うのか
助けてほしいのか
ぼくはおまえを既に助けた
ぼくにそのつもりはなかった
それでも
ぼくはおまえを既に助けた
事実だ
おまえはぼくを助けなければならない
天秤はもう傾いている
ぼくのほうへ傾いている
頭の二分の一を黒い目で覆う雛
あまりにも小さい
カラスだってあまりにも小さい
ぼくからしたらどちらも同じ
雛の方が小さい
だからおまえは何もできないのか
雛は小さく鳴いた
「助けを求めているようだった」
そんなはずはない
たぶんぼくは敵だ

むきだしの肌を土に傷つけられ
苦痛にのたうち回ることも許されない
それを
ひと思いに踏み潰すのは
それとも
そっとすくいあげて家に連れ帰り
粟玉を食わせて飛び立つ日まで見守るのは
善行の天秤にかけるべき
皿がどんどんと増えていく
どれが当たりかわからないのなら
それらすべてに違いがない
もうぼくの善行は果たされた

カラス
足のねじれた死体
虫や鼠がやってくる
あれを食べてしまう
ぼくの代わりに
ぼくは見下ろす
すぐにでも死んでいきそうな雛
おまえもやがて骨だけになる
「なぜ助けたのかと言いたげな目で」
見ているはずはない
助けた理由
無垢な死は善
捕食者の死は悪
それらがほんとうなのか
どちらともに意味はない
意味はないとわかった
カラスの死は無駄だ
ぼくがいたずらに殺したせい
おまえの死は無駄だ
カラスに食べられはしなかった
不運な摂理がある
どれだけ無駄でも
ちいさなちいさな生き物たち
かれらの餌食になるという
無駄では ない
ただ善悪が無駄にする

ただなんでもないぼく
ぼくという人間
雛を見下ろす
ぼくによって
ぼくにとって無駄になった
おまえは何を考えているのか
わかるはずがない
何かをぼくにもたらせないなら、
そのまま死んでいきなさい

流れ出るもの

2010-09-12 | 
怠惰の証は病というかたちになり私を覆いこんだ
歩みを踏んでいることの不確かさも
血を流したまま談笑する不確かさも
病巣がかたちを持つことですべてが許される
ほどけた愛は絡まりながら四肢を包み
呼び上げられる時のないまま私を庇護しているはずだ
惨めな罪悪感に心臓を浸しても
たぶんこころはしあわせな不幸に酔いしれて
そうして会うこともなくなったはずの旧い友と囲いをつくる
つくっている
滴り落ちた体液について
彼女たちは聞くことを知らない
私の病はどうあろうと病でしかなく
けなげな使命感に燃え尽きるのを
誰も彼もが心待ちにしているようだ
優しい蜘蛛の巣にみずから飛び込んだ私は
きっと誰よりも蜘蛛たらしめるだろう
身じろぐ必要もなく 慈愛の網にとらわれて
私はただ惜しみない愛情を享受する
誰一人として病の根絶は目指さない
そこに病が病たる役割を果たしたなら