暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

ごちそうさま

2017-01-24 | 狂おしい
肉を食べよう
美味しい肉を
でもお肉は高いので
自分で調達しなきゃいけない
狩るのはもちろん大変だけれど
それより大変なのはあとしまつ
運ぶのはとても疲れるし
血を流さないと獲物の仲間に気付かれる
やっとこさっとこ持ち帰ったら
はらわたを取り出しておかないと
魚のはらわたは簡単にとれても
大きな肉は消化管も頑丈で
外側から外側へ通じる一本の長い管は
スプーンではとれやしない
腹膜を切った瞬間まろびでる
大腸のピンク色を見た時には
そのまま落ちるものとばかり思っていたけど
どこから切り取ればいいのかと途方に暮れつつ
何とか取り出したはらわたは流水に晒し
いよいよ解体に取り掛かる
いくら綺麗に研ぎ澄ましても
包丁では骨なんて切れやしないし
苦心して外した前腕を持つと
肉の重みに驚くほど
電ノコの音と振動は
むしろこちらをばらばらにしてしまいそうで
血抜きしても飛沫が飛ぶし
肉を切断したと思ったら
うっかり1mも飛んでしまったりして
枝肉を解体するころには
少し後悔しはじめている
血のスープを作ろうと
バケツに血を溜めてはみたけど
動物の体は本当に血袋で
とても飲み切れるとは思えない
それでも疲弊が落ち着けば
次にはお腹が空くもので
肉を食べよう
美味しい肉を
バラからヒレまでよりどりみどり
けれどもモツから食べなければ
とても食べられそうにないにおいでも
流水から引き上げれば
きれいな肉の色をしていて
肉はどのみち熟成したいし
しばらくの間食べられないなら
一本の管を何本かに分けて
ぞんぶんに味わってしまえばいい
つるりとした表に切れ込みを入れれば
ぞろりと繊毛が顔を出す
背筋が一瞬粟立つけれど
焼けば煮込めば美味しいごちそう
早く早く食べたいなあ
気が付けばすっかり飢えていて
ぶちぶちと音と感触と生臭さを味わいながら
気が付けば肝にも手を出して
みちみちと断裂する細胞の感触は
ほんの少し病みつきになりそうだ
生臭い、生臭い、ああ生臭い
自分で狩って得た肉は
やっぱりとっても美味しいものだ
下ごしらえが済んだなら
今日は豪華な焼肉だ

憎悪

2017-01-20 | 心から
馬鹿なやつらめ
おのれの発言も忘れ
信条もなく
不安に蓋をし
頭をかすめることもなく
悩める人を怠慢と笑い
あるだけの人を知りもせず
責任を口にするかたわらで
たやすく責務すら放棄し
人のせいにしてばかりで
おのれを省みる時には
鬱だなんだと自慰にふけり
仲間を敵と勘違いし
たやすく殺してのけ
殺したという自覚もなく
漫然と生きる
おまえの無自覚な刃物が
数多の人を殺してきたように
ずぶりと刺してしまおうか、
いや、いや、そんなものでは
馬鹿は治りはしないのだ
持っていると自覚すらしない
無防備なその刃をひっくり返し
足をかけて殺すのだ
無自覚に無自覚に死んでいけ
おまえの骸の上で
わたしは存分に笑ってやろうじゃないか

理解できない

2017-01-18 | -2016,2017
あなたはかつてわたしに言った、
あなたはひとりではないと
みんな同じ人なのだと
寄り添えば温もりを感じるのだと

寄り添いながら、歓談しながら、
いっそうの惨めさに満たされる
温もりは物理的なものに過ぎず
かえって凍えそうになりさえする

楽しくお話をしよう
何でもないことに笑いあおう
一緒に何かを見聞きして
肌と肌を重ねよう

あなたは幸せそうに笑い
わたしは愛想笑いをする
膜はどうあっても破れはしない
あなたがそれを感じないように

幸せに涙をこぼす
なぜわたしは、それらすべて
享受することもできないのかと
温もりが惨めさを募らせる

みんな同じ人なのだと
膜を隔てた声が聞こえる
寒々しい空気に刺され
しんしんと臓腑に突き刺さる

拒絶しているとあなたは言う、
わたしは愛想笑いを返している
温もりが増そうと消えようと
わたしはしょせん人ではない、
あなたの知っているような
優しき人にはなりえない

お腹痛い

2017-01-10 | 錯乱
臓腑がねじれてちぎれそうでも
やはり死ぬにはほど遠く
胃液を飽くまで吐き続けるのだ
詰め込んだのは酒ばかり
叫びだしたくなる衝動に
蓋をするのはただの恥
足が竦んで
呆然と立ち
上へ上へと恥を重ね
臓腑はますます曲がりくねり、
詰まってしまった
嘔吐して胃液に交じる黒い塊
もっと奥にもあるはずだ、
こびりついて取れないままの
醜いものが、あるはずだ
ねじれた臓腑にひっかかって
取れる兆しもなければ
むしろ奥へと
もっと奥へと
蝕むように潜るものが
何度も吐いて吐いてむせこみ
いっそ死ねたらと希求し
それでも臓腑は蠕動する
朽ちるのはきっと外からだ

闘犬になりたい

2017-01-09 | -2016,2017
気がつけば壇上に立ち
踊れと囃し立てられている
ぶざまな踊りに手を叩き
倒れる姿に腹を抱え
すごすごと逃げ去る姿に野次を飛ばし
ああなんと楽しかったのだと
誰しも口々に賞賛していく

たとえば後ろから抱きしめられたなら
わたしは醜く暴れるだろう
たとえば好意を寄せられたとして
わたしは噛み付く他に術など知らず

壇上から降りることは許されず
今度は戦えと囃される
肉の引き裂かれる音は
さぞや心地よい子守唄だろう
ありがとう、ありがとうと口にするのだ
たとえ顎が砕けようとも

たとえば優しいキスをもらえたなら
わたしは忌まわしい唇に噛み付くだろう
たとえば呆れ遠のくのなら
わたしはよりぶざまに踊るだけだ

悲しみの涙は誰かの糧になり
怨嗟の声は誰かの共感を得る
怒りに踏み鳴らす足は誰かの拍手を呼び
絶望は誰しもの喜びになる
踊れ、踊れ、曲はすでに始まっている
気がつけば壇上に立ち
転んで挫いてくずおれて
踊れ、踊れ、皆の声を求めるのなら
泣くのも笑うのもわたしのもので
彼らのものにはなり得ない

たとえば壇上にのぼってきたなら
わたしはその者を殺すだろう
たとえば壇上から引きずり落とされたなら
わたしはもはや価値もないのだ

インフレイム

2017-01-05 | -2016,2017
ちか、ちか瞬いている
ちか、ちか、ちか、
光っている
煌々と
ちか、ちか、ちか、
まるで
燃えているよう
ちか、ちか、ちか、ちか、
いや、あれは
燃えている
目が眩む
前が見えない
色と光
ちか、ちか、ちか、ちか、ちか、ちか、
ちか、ちか、
ちかちか、
立ち止まるな
燃えて死ぬぞ
光っている、光っている、
暗闇を塗りつぶして
色と光、
色と光、
笑いながら、
シャッターの音、
音と色と光、
色と光と光と音と暗闇、
暗闇はどこにある、
空は暗い、
笑いながら、
音、音、
ちかちかちかちか、
前が見えない前が見えない
燃え盛る木々と
ちかちかちかちかちかちか
笑う人々の顔も照らされ
ああ燃えている、燃えている、
燃えている
ちか、ちか、
ぱちぱちかしゃかしゃ
電子の火の粉、
あれは火の粉の爆ぜる音
ちかちかするちかちかする
かちかちかちかち
寒い、寒い、
燃えているのにあんなにも
冷たい、ちかちか
炎に照らされるみんなの笑顔、
ちか、ちか、
ちか、ちか、ぱち、ぱち、
ちかちかちかちかかちかちぱしゃり
燃えてしまえ、
燃えてしまえ、
みんなみんな燃え盛って、
暗闇をまっしろに染めてしまえ、
もう前など見えない
前が見えない
同じこと同じこと
かちかちかちかちかちかち
寒い、こんなにも寒い
燃えてしまえ、
笑いながら燃えて死ね