暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

オーバードーズ

2008-12-29 | -2008
胸が悪くなるような洗剤の臭い
(嗅覚のみでは致死量に至らない)
くらくらする頭を振れば側頭部はずぐりと疼く
(しかし確実に脳は痺れていっている)
床はひどく冷たいのにおぞましいほどやわらかい
(張り付いた舌がぴりぴりと何かを感じている)
世界とひとつになっていくという恐怖が襲う
(口の中で唾液が泡立ち垂れていく)

(それが名付ける現象は)
甘い甘い胃液が喉を静かに灼いて
(屈辱、屈辱、屈辱をもたらす)
血液雑じりの痰を生む
(まるで害虫の受けるそれのような)
体液をしたたらせ毒を出す
(笑い声が聞こえているなら)
たとえば八割を失ったのならば
(もう少しは救えたものを)
二割でもひとは生きていくということ

わたしであるはずの新生体は
(床に潰れて飛び出た心臓)
ぷかりぷかりと泡を吹かす
(掻き毟った胸も今やきれいなもの)
胸が悪くなるような臭いは相も変わらず
(ぴりぴりしていても血は流れない)
胃液の味を忘れ暫定的に今日を迎える
(それでも脳は痺れをおさめることはない)
害虫のように毒の中で再生を繰り返し
(停止した体でも活動は続いていく)
口の端から泡の唾液を流す
(わたしの抜け殻が黙ってこちらを眺めている)

B

2008-12-22 | -2008
あいてにつらねたばりぞうごんは
のこらずじぶんにはねかえる
みにくいけものがばとうするさま
かがみのようにうかがいしれる

ひとをけなすなおとしめるな
おまえやわたしはただのひと
ひとをわらうなみくだすな
こころがただれてけものになるぞ

じぶんをたやすくゆるすのならば
なぜたにんをゆるせないのか
たにんをたやすくあざけるならば
なぜじぶんはわらわないのか
かんがえろかんがえてみろ
おまえのかおはひどくみにくい
わたしのすがたほどではないが
おまえのかおはひどくみにくい

疲労

2008-12-19 | -2008
液化した鉛を飲み込んで
目には油を注ぎ込む
耳をシリコンでふさいだあとは
鼻にアンモニアを塗りたくり
プラスチックに舌を浸して
指先は硫酸で膜を張る
張りぼてまがいのにんげんが
今日も元気に前後運動
頭は今日もエンドルフィン漬け
疲れていない日はないのだから
疲れた日にははめをはずすさ
笑う唇をかみちぎり
それがソフトビニールだと気付く
張りぼてまがいでも生きているんだ
毎日ただ磨耗していき
どこかが狂ってしまったならば
付け替えてしまえばよかっただけ
違和感は脳内麻薬にかき消され
萎縮する記憶はただ遺伝子の奴隷になる
なんにも感じやしない張りぼてのくせに
おったつところはごりっぱで
ぬれそぼるさまはなまめかしく
生きよ生きよと激しく呼吸
毎日毎日ごくろうだこと
ひとりになれば充電される
まるで糸のこんがらがった人形みたく
中身はがらんどうのからっぽさん
しめった笑い声がどこかで響く
鉛がごろごろ音をたてる
その隣ではくんずほぐれつ
使い捨てにんげんを製造中
ママとパパは不能のからだを前後に揺らし
子供をゴミ箱へ投げ捨てる

裏切り

2008-12-12 | -2008
眠りにつけば魔物が目覚め
わたしに子守歌を聴かせてくれた
残酷な童謡に夢を委ねて
わたしは魔物に抱かれしあわせな息をたてた
けれど魔物は死んでしまって
わたしの耳は寂しくなった
子守歌の反響だけでは
心地よくなんて眠れやしない
真っ暗でしあわせな夢を見て
寝汗をかいて飛び起きる
魔物はわたしを撫でてはくれない
わたしがおとなになってゆくから
最後の最後の悪あがきさえ
泡のように消えてしまう
忘れてしまいたくなんてない
けれど魔物の歌声は遠い記憶
わたしはもはやあの歌声を
なかったことにしはじめている

八方塞がり

2008-12-12 | -2008
大切な問題は置き去りのまま
逃げ出そうと荷物をまとめている
空腹は痛みに警鐘を鳴らして
うずくまれと指令をくだす

信号に逆らう違和感も
わすれたふりをすれば済む
なぜ急にそのような信号が出るのか
肝心な脳が戸惑えば世話はない

(できる限りきれいに生きていきたい)
(だがきれいの定義すらできていない)
(食がきたないのなら他に何がきれい)
(できる限りきれいに生きていきたい)

うずくまり逃げ出せるならそれでいい
大切な問題はあざわらいおいかけてくる
解決方法も理由すらわからぬまま
逃げ出すことのみにくさには目を逸らす

弱者の誇り

2008-12-10 | -2008
うまく生きることができない、
ならばすぐに死ぬがいい
誰かがおまえに期待しているというのは幻想だ
おまえもわたしもおまえのたいせつな誰かも
すべてひとりのにんげんにすぎない
誰かが誰かに支えられ生きているというのは幻想だ
おまえはたったひとりの孤独な存在
死んだところで迷惑をかけ疎まれるだけ
たとい悲しまれたところでそれも一瞬のこと
おまえの死で深い爪痕が残るだろう
だがおまえが生きればもっと多くの爪痕が
誰知らぬ誰かの胸に深く深く残るかもしれない
犠牲は最小限にというのであれば
まっさきにおまえが死ぬべきだ
大丈夫、みんなはおまえを忘れるだろう
いまだって期待しているふりをしているだけ
自分に暗示をかけるのもおたがいに疲れているはずだ
だから生きるのがこわいというのなら
その弱さに辟易しているのなら
いますぐに飛び降りて死んでしまえ

さようならを言いに来ました

2008-12-10 | -2008
ぼくはあなたの四肢がねたましかった
(さようならを言いに来ました)
いつかぼくが大人になることも信じられなかった
あなたの四肢は何だってできる力をもっていた
ぼくの体は細く弱くやわらかいだけ
あなたはそれでいいのだと笑っていた

ぼくはいつだってぼくの夢をあなたに話した
いつか自力で空を飛んでみせるのだと
強靭なあなたでさえ飛べなかったというのに
だからもっと強くなりたいのだとあなたに語った
あなたはあの日ぼくの頭をなでるだけだった

(さようならを言いに来ました)
あるいはぼくの性別が違っていたならば
あなたはしあわせにぼくを見守っていたのかもしれない
ある日ぼくの体が大人に近づいたことを知った
ある日はぼくが忘れることができない固有名詞になった
あなたの腕はぼくの口と体をかかえ
ある日からぼくの四肢は成長をとめた
(さようならを言いに来ました)

ぼくが噛みついたりしないように
あなたは丹念にぼくの歯を抜いた
目を剥いて叫ぶぼくを見るとあなたはとろけそうな顔で笑う
そうしてぼくはあなたの力強い下肢をみとめた
あなたはぼくはぼくのままでいいと言いながら
まだ「しなやかでやわらかな少年の」四肢を切り落とし
大切に大切に三本を保存した
残りの一本をあなたはぞんぶんに楽しんだ
(さようならを言いに来ました)
あなたの笑顔はとても幸せそうだった

ぼくは何度も何度も空を飛んだ
夢の中で、あるいは苦痛の中で
ぼくは何度も何度も地面に落とされた
時には水の中に沈められた
歯のない口にあなたは身をうずめ
ゆっくり深い息をつく
まるでそこがあなたの郷里であるかのように

ぼくがもしも死んだならば
あなたは泣き叫び狂うだろう
けれどぼくは生きているかぎり成長を続ける
ぼくの体は軋みをたて大人になっていく
あなたより強靭になることはもう望めないとしても
ぼくの体は軋みをたて大人になっていく

ぼくが生まれたことがよくなかった
ほんとうにそうおもっていた
あなたは泣きながらぼくの肉に火箸を突き刺す
どうして朽ちていくのだと嘆き
すまない、悪いと謝りながら
ぼくは泡を吹き泣き叫び
それから泣いて続きを請い願う
ぼくが罪深いことになったなら
きっとあなたも幸せだろう

大人としての濁った悦楽を知っていき
それから濁った姿にかたちを変える
あなたはその前にぼくを殺すだろうか
その日は目と鼻の先だというのに
あなたはおそらくぼくを殺すことはできない
(さようならを言いに来ました)
放置すれば死ぬ愚かで弱いいもむしのぼくだから
たぶんあなたは目をそらすようになるだろう
だからぼくはさようならを言いに
ここからここへやって来た
ぼくが空を飛べたのは
きっとあなたのおかげだから
ぼくはあなたに感謝している
ぼくより弱く愚かで強靭なあなた
ぼくはさようならを言いに来ました
ぼくはさようならを言いに来ました
次にぼくが目を閉じたなら
ぼくはきっとあなたを忘れることを約束しよう
何もかもを忘れ人間としての言葉も忘れ
そして全身全霊であなたを憎むことを約束しよう
ぼくが男でも女でもなくぼくでさえなくなったなら
あなたはきっとぼくを殺すことができるはず
もしも殺すことができなかったとしても
すでにそこにぼくという存在は消えている
ぼくではない低い声が
ぼくではない筋張った胴体を揺らし
ぼくではない意識で憎悪をさけぶ

ぼくはさようならを言いに来ました
ぼくの口はいつだってあなたの理想をつむいできたから
これもあなたの理想だと信じている
さようならを言いに来ました
最後に一度だけぼくを抱きしめてください
そうしたらぼくはぼくを捨て
全身全霊をもってあなたを憎みます
最後に一度だけぼくを抱きしめてください
そうしてあいしていると囁いてください
さようならを望んでいるのはあなたのほう
あなたの涙はこれきりになることを祈ります
ぼくはぼくという意識をはなれ
しなやかでやわらかな胴体のまま空を飛びましょう

したぃせぃアイしゃ。

2008-12-09 | -2008
目覚めた時にはまだ眠ってる
あたしの大切なヒト・・・
お寝ぼうさんの彼の大腸にそっとキスをして
あたしは毎朝いってきますを囁くの
知ってるのかな?
彼はいつも眠ったふりをして

あのヒトのいない時間は
からっぽのぬけがらみたいなの
イケナイってわかってるけど
彼がいないと中身もうつろで
血液がぐるぐる回っちゃう
なんだかのぼせてしまいそうよ
あたしは絵空で彼を夢見るわ
おっきな目玉に噛みついて
怒られたならごめんなさいは言わないけれど
彼の髄液を奪ってしまうの

ただいまを言うのが待ち遠しくて
でもなんだかちょっぴりいつもコワイ
彼が腐る日はいつになるかな?
まだ遠い別れを想像したら・・・
泣いてしまったあたしの脂肪層をくすぐって
彼はバカだねって笑ってくれた
あたしはバカだからまた泣き出したわ
心の皮膚がやぶれてく
腐ったりしないって約束してくれたけど
どうしてかな?
いつか蛆まみれになってしまう
そんな気がするの・・・

ただいまからいってきますまでは二人の時間
あたしはまず彼の生肉をそっと抱きしめる
柔らかいけどまだ形を持ってる彼のふともも
くだらないって笑われたけど
皮膚はいつまで経っても宝物で
二人きりで過ごしてるのに
あたしは別れを予感してるわ
つめたい彼の胃の穴から
かわいいかわいい蛆の赤ちゃん
二人の空間を切り裂いたから・・・

凌辱の日

2008-11-29 | -2008
わたしに必死で食べ物を求めていた子猫は、
次の日にはわたしを見て逃げるようになった。
生々しく肉色を晒す右目が、
あるいは泣いているようでもあった。
感情のない顔をゆがませて子猫は甲高く鳴き、
人では通れない秘密の道を逃げかえっていった。

クズ

2008-11-28 | -2008
化けの皮がはがれても
表面は表面であるしかない

病害を孕んだ暖気にいだかれて
冷たかった指先は急速に血流をはやめ
じくじくと痛むのは人差し指
真皮と肉の露出した
この体の第二の表面
破裂しそうだと神経は鐘を打つ
どうせ三日もすれば肉となるのに

無言の再生を繰り返す
細胞をはがし殺し露出させ
自分の業に顔をしかめ
絆創膏でふたをする

腫れ上がる指先に
じくじくと化膿する肉の心
垂れ流すのは血液ではなく
中身を知った気でいる第二の精神
病害じみた空気にあたり
害毒は緩やかに指を噛む