その藤は人を食らうと云う。
あな美しき鈴生りの花に、
大口の顎を忍ばせて。
枝垂れ香るは花序の蜜、
濡れて煌めく朝露が、
涙のようだと人は云う。
されど見目麗しき簾を掻き分け、
絡み巻き付く藤の幹には、
正に真なる性がある。
見事な枝振りをした黒松の、
指先までをも覆い隠して、
燦々と注ぐ光を満面に浴びるかの藤は、
松の泣くのを喜んでいる。
くまんばちよ、涙を啜った
露と蜜は美味かろう。
あな美しき鈴生りの花、
人々は口々に褒めそやす。
まるで人でも食らったような、
見たこともない青藤であると。
御簾を開いて覗いたならば、
くまんばちよ、真を知るのは
きっときっとおまえだけだ。
大きく開いた真黒い虚、
甘く苦い血潮の滾る、
人をも食らう大顎を、
包みたるこそ蔓の幹だと。
枝振り見事な松の洞を覆い隠すは、
色付き見事な青藤色。
絡み巻き付く藤の幹には、
正に真なる性がある。