暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

くまんばち

2021-03-26 | 明るい
その藤は人を食らうと云う。
あな美しき鈴生りの花に、
大口の顎を忍ばせて。
枝垂れ香るは花序の蜜、
濡れて煌めく朝露が、
涙のようだと人は云う。
されど見目麗しき簾を掻き分け、
絡み巻き付く藤の幹には、
正に真なる性がある。

見事な枝振りをした黒松の、
指先までをも覆い隠して、
燦々と注ぐ光を満面に浴びるかの藤は、
松の泣くのを喜んでいる。

くまんばちよ、涙を啜った
露と蜜は美味かろう。
あな美しき鈴生りの花、
人々は口々に褒めそやす。
まるで人でも食らったような、
見たこともない青藤であると。
御簾を開いて覗いたならば、

くまんばちよ、真を知るのは
きっときっとおまえだけだ。
大きく開いた真黒い虚、
甘く苦い血潮の滾る、
人をも食らう大顎を、
包みたるこそ蔓の幹だと。
枝振り見事な松の洞を覆い隠すは、
色付き見事な青藤色。
絡み巻き付く藤の幹には、
正に真なる性がある。