暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

手遅れ

2013-06-20 | -2013
あきおくんは、とてもわすれっぽいおとこのこ。
おもちゃをかたづけるのをわすれて、いつもおかあさんにしかられます。
あんまりしかられてしまうので、あきおくんもわすれないようにきをつけています。
それでもやっぱり、すぐにわすれてしまいます。
おかあさんはあきれていいました。
「このこはばかにちがいないわ。」
あきおくんはかなしくなりました。でも、それもすぐにわすれました。
そとにあそびにいったらいつもくつをはくのをわすれます。
おうちにかえるときはぼーるをこうえんにわすれます。
あきおくんは、あたらしいぼーるをいくつかってもらったのかもわすれてしまいました。
それでもあきおくんは、まいにちたのしくくらしています。

あるとき、おともだちがあきおくんにいいました。
「あした、またあそぼうね。」
あきおくんはよろこんで、「うん。」と答えました。
つぎのひ、あきおくんはおともだちとやくそくしたのをわすれていました。
おともだちはかんかんで、「もうあきおくんとはあそばない。」と言いました。
あきおくんはかなしくなりました。でも、それもすぐにわすれました。
あるとき、おともだちがあきおくんにおもちゃをかしてくれました。
「おきにいりだから、すぐにかえしてね。」
ずっとほしかったおもちゃをかしてもらえて、あきおくんはおおよろこび。
それでもいつのまにか、おもちゃはどこかにいってしまい、あきおくんもおもちゃをかりたことをわすれました。
おともだちはわんわんないて、それからあきおくんとしゃべってくれなくなりました。

あきおくんはだんだんひとりになっていきました。
みんな、あきおくんにあきれてはなれていってしまったのです。
それでもあきおくんは、まいにちかなしくくらしています。
どうしてひとりぽっちなのか、あきおくんはわすれてしまいました。

そんなあきおくんのところに、ようせいがやってきました。
ようせいは、「おもいだしのせい」らしいのです。
あんまりわすれっぽいあきおくんをしんぱいして、おかあさんがよんでくれたのだとようせいはいいました。
「おもいだしたいことをいってごらん。なんでもおもいださせてあげるよ。」
あきおくんは、くびをかしげていいました。
「きみはだれ?」
「ようせいさ。」
「ようせいってなあに?」
「きみのねがいをかなえる、ふしぎないきものだよ。」
「ぼくのねがいってなあに?」
「あきおくんはわすれっぽいんだろ。ぼくのちからは、なんでもおもいだせるんだ。」
「ぼくはわすれっぽいの?」
「おかあさんや、ともだちもそういっていたよ。」
「それは、だれのこと?」
あきおくんは、どうやらおかあさんのこともわすれてしまったようでした。
おもいだしのせいは、あきれていいました。
「これはぼくのてにはおえないよ。あきおくん、きみはもうだめだ。」
そんなことをいわれても、あきおくんはなぜようせいがあきれるのかがわかりませんでした。
「どうしてぼくはだめなの。どうすればいいの。」
「しらないよ。ぼくはおもいださせるだけなんだ。しかたないな、せめておかあさんとおともだちのことはおもいださせてあげるよ。」

ようせいさんがえいっとちからをこめると、あきおくんのあたまのなかで、やさしそうなおんなのひとや、あきおくんとおんなじくらいのおとこのこやおんなのこがみえました。
そしてあきおくんはおもいだしました。
それは、おかあさんとおともだちだったのです。
「おもいだした。おかあさんと、おともだちだ。」
あきおくんのことばに、ようせいもまんぞくそうにうなずきました。
それからあきおくんは、ようせいをちからいっぱいぶちました。
ふわふわとんでいたようせいはしたにおちて、それからまたあきおくんにぶたれ、けられました。
「いたい、いたい。あきおくん、どうしてぼくをぶつんだ。」
ようせいはたまらずさけびましたが、あきおくんはかまわずようせいのはねをむしりました。
「おもいだした。おもいだした。どうして、おもいださせたんだ。いまのぼくには、だあれもいないのに」
あきおくんはなきました。なきながらようせいをけりつづけました。
ようせいはこたえませんでした。もううごかなくなっていました。
さいごにあきおくんは、おおきなあしでようせいをふみつぶしました。
それでもあきおくんのなみだはとまりません。
あきおくんはじぶんのあたまをぶちました。
ちからいっぱい、したにたたきつけました。
でも、わすれることができませんでした。
おかあさんとともだちのわらっているかおが、ずっとあたまからはなれないのです。
あきおくんはひとりぽっちでした。それでもまいにち、すこしだけかなしくくらしていたのは、おかあさんたちのことさえわすれていたからでした。
あきおくんはいつまでもいつまでもあたまをぶちつづけ、ないてくらしました。
わすれなくなったのに、あきおくんは、まえよりずっとつらいままくらしました。

ライラック

2013-06-19 | 暗い
望む時に雨は得られず
望まなければ降り続き
土の下に伸びる根は
とうの昔に腐ってしまった
なおのこと花を咲かせるそれは
幽霊とでも呼ぶのだろうか

茎の内側には虫が棲み
貪っている、ゆっくりと
なおのこと花を咲かせるそれは
美しいと呼べるのだろうか
コンクリートの隙間に芽吹き
肉を裂かれて成長を続け

種を呼ぶこともなく
ただただ花を咲かせている
意固地になったそれのそばで
いつかの種が流される
腐ってしまった根でもなお
場所を遺すわけでもなく

花はいつかに倒れ伏し
大きな獣が踏みつける
住み着いた虫は出て行ってしまった
隙間は埋まることもなく
新たな石灰が流される

雨は弾かれ、傷も塗られ
腐った根だけがあるじを見放し
深く深くへ潜りながら
新たな芽はそれでも、やはり、
居場所を奪って花を咲かせる

成功と失敗

2013-06-11 | -2013
蜘蛛よ、わたしを
喰らうのか
おおきな足と
ねばつく糸で
得られたわたしは
とびきりのごちそう

針を刺せ、
牙を剥け、
爪を出せ、
毒を挿せ
わたしを喰らえど
飢えは尽きない

蜘蛛よ、おのれの
糸にからまる哀れな蜘蛛よ

わたしの手足を切り落とせ
末期の獣を侮るな
しかし蜘蛛にはわたしの手足を
切り落とすだけの鋸もない

蜘蛛よ、わたしを
喰らうのか
喰らうのならば喰らうがいい
八つの足をもがかせて
隣で餓えて死にゆく蜘蛛よ
わたしをからめるその糸は
どうしておまえを殺すのだ

蜘蛛よ、わたしを
喰らってくれ
おのれで手足を切り落とすから
糸をからませ封じるから
毒を突き挿し啜ってくれ
八つの足をきれいにそろえ
息を吐き出す、毒蜘蛛よ

道連れ

2013-06-01 | -2013
つめたいあめにうたれるきみは
どこをみているのかわからない

よるになってしげみのむこうで
がさがさなるのはきみのかげ

あさがきみをうばっていった
くるまのむこうのむこうがわ

みずになってとけていって
いまそれをたべているところ

きみのおにくでみたされたい
はきだしたものはぐっちゃぐちゃ

えびはきみではなかったけれど
きみはきみでもなくなっている

たましいがえんとつでつまっている
きれいになるためにとりのこされる

ただようかげをまたいでこえて
すみのほうでみるのはだあれ

どこへいったのどこへいったの
どこへもいかないただのこされる

なにをみてるのどこをみてるの
みることさえもわすれただけ

がらんどうのまぶたのおくで
きみのおにくをかんがえる

つちもみずもくうきもひとも
みんなみんなきみをころす

くさもはなもつちもはしらも
みんなみんなきみをそだてる

つまりにつまったたましいたちも
きっとおなかのなかにかえった

だからあんしんして
あんしんしてころすことができたんだね

ほらまどのそとみてごらんまどのそと
うしろはふりかえらないで

あさはおしりからでていく
よるはせなかをきりさく

たのしいことうれしいことつらいことたのしいこと
たくさんあるなかできみはあさにうばわれた

つめたいあめはなくなった
はれてくもってなくなった

きみはすぐそこにいるよ
どこをみてるかわからなくても

君はすぐそこにいるよ
窓の外と後ろ側

夜も朝も晴れも夜も
草に花に空気に土に今日のご飯のお肉にも

沢山の沢山の君が混じってお腹の中に詰まっているよ
蠢いているよ

蠢いているよ