暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

言葉通りです。

2022-10-21 | つめたい
新しい一日が始まる
お気に入りの紅茶をじっくりと淹れて
カーテンを開ければ若い青空
ミュージックはゆったりとしたスローテンポで
こんがり焼いたトーストを食べる

何気ない日常を丁寧に
私の世界を平和で満たす
ウェアラブルデバイスをチェックしたなら
何時間もかけて選んだ
ランニングシューズに履き替えて
アクティビティに出かけよう

一日がやって来るたびに
生まれ変わったつもりで過ごす
気持ちをざわつかせるラジオはオフ
数百年前のナンバーを流そう
心を乱す映像はオフ
爽やかなグリーンバックを映し出そう

目を開けて
世界は新しく生まれ変わる
目を閉じて
世界は新しく生まれ変わる
目を開けて
私は前よりもっと素敵に
目を閉じて
私は前よりもっと素敵に

変わらず見える丁寧な暮らし
過去よりいちばん若い今を生きる
目を閉じても開いても
若い青空はいつも四角い窓の向こう

故意の盲目

2022-10-14 | かなしい
めのない世界に生まれました
けれどもせみの声は聞こえています
せんせいがせみだと教えてくれました
めがなくなった世界なんだよと
せんせいは教えてくれました
どういうものなのかはわかりません
めのない世界に生まれましたから
けれどもかえるの声は聞こえています
わたしがかえるだと決めました
せんせいは少し黙ったあと
そうだね あれはかえるだよと
言ってくれました

めのない世界に生まれました
けれども不自由はしていません
せんせいはいつも優しいです
せんせいがわたしの世界です
おなかがすいたと申し出たら
せんせいはごちそうを与えてくれます
遊んでほしいとお願いしたら
せんせいはしりとりを教えてくれます
せんせいってどういう意味なのと聞いた時は
教えてはくれなかったけれど
せんせいはとても優しいです
ときどき声がふるえていますから

めのない世界に生まれました
けれどもそれは嘘だったらしいのです
せんせいという役割のひとがついた嘘
せんせいではないだれかが
わたしの手を取りました
遠くからせみの声がします
遠くからかえるの声がしています
せんせいはどこと尋ねました
どこにもいないと言われました
めがないから歩けないと言いました
きみにはちゃんとあると言われました
だれかの声はすこしふるえていて
わたしは優しいがわからなくなりました

めのない世界に生まれたはずでした
せんせいは見えないものでした
せみもかえるも ぜんぶ
見えるはずのないものでした
わたしはだれかに手を引かれています
だれかはとても大きなひとです
ひろいところに出た時 せみの声が
聞こえました

わたしはどうしてもせみを見てみたくなって
指をさしてみることにしました
あそこにせみがいると教えたら
あれはトラックだと だれかは答えました
トラックのきこうが動いている音だと
かえるの声が聞こえました すぐ近くで
かえるの声が
あれはマンホールだと だれかは答えました
マンホールのふたが がたがた動く音だと

めのない世界に生きています
せんせい、せんせい、わたしのめは
あなたが与えてくれました
あなたが奪っていきました
せんせい、せんせい、どうかわたしに
もう一度声をかけてください
あなたの世界はあたたかかった
声でわたしを抱きしめてください
トラックがお腹を擦り合わせています
マンホールが喉を膨らませています
わたしはあなたの声を思い出しています
震えるあなたのさみしい声を

足早の秋

2022-10-12 | 暗い
鼻がつんと痛むころ
私は君を思い出す
外に出たなら夕暮れも終わり
あかりが灯る
あかりが灯る

ひとりでに増えた擦過傷を
ひとりで抱えてまた増やし
君はいつもひとりでいた
私は君を思い出す
あかりが消える
あかりが消える

古傷はみんな押し込んだ
あばらの裏は傷だらけ
擦過傷を掻きみだして
擦過傷を掻きまわして
膿んだところが変に熱い
あかりが見える
あかりが見える

あばらの奥に座る君よ
君は いつになれば溶けるだろう
冷たい風が鼻を突き刺す
じくじく末端から腐敗は始まり
君は 私が抱くべきなのか
痺れた皮膚をそっと撫でる
あかりが遠のく
あかりが遠のく

あかりが灯る
人々の生きる営みが浮かび上がる
鼻を突き刺すあたたかな匂い
家路は凍てつく氷柱の筵
あかりが消える
擦過傷と嘘をついた
鼻をくすぐる生ぬるい臭い
痛む、痛む、痛む、痛む
あかりが見える
君の傷は私の古傷
痕があるのにあばらの裏が
きりりきりりと膿を吹き出し
あかりが遠のく
君はいつまで経っても溶けぬまま
氷柱の筵の真ん中にいる
きっと熱いのはそこなのだろう
あかりを消して
君の隣に横たわったなら
一緒に溶けてくれるだろうか
痺れた古傷を抱き寄せる

今日も冷凍庫の中

2022-10-07 | 自動筆記
昨日の宇宙にこんにちは
神の手なんていらないから
手のひらに収まるだけの小鳥をください
大きな鳥も沢山の小鳥もいりません
嫌いになりたくない

(だきしめられてほしい)

今日の宇宙におかえりなさい
神の手はもう売り切れましたか
手のひらの小鳥が動かなくなりました
大きな鳥も沢山の小鳥もだっこしたい
嫌いになることがないのなら

(つめたくなることもなく)

明日の宇宙にさようなら
神の手だけが残りました
小鳥は元気に空を飛んでいます
大きな沢山の鳥が羽ばたいています
血の焼ける臭いがする

一人

2022-10-06 | 錯乱
こうして逢うのも何年ぶりか
お互い歳を食っちまって
瞬きする間に季節が過ぎる

近況はどうだ
元気にやっているのかい
こちらは元気だ
体にガタはきているが

あいつは死んだよ
最後におれにこう言った、
頭の中で脳の中で
言葉が散り散りにかき混ぜられているんだと
うまくまとめることができない
上手く喋るのに一苦労だと
それからおれにこう聞いた、
今のおれはどう見える
今のおれは
昔にお前の見たおれとおんなじかと

数年ぶりに会って
お前におれはどう映るかい
変わっちまったか
それとも何も変わらないのか
お前はどっちが幸せと思うかい
気楽に話せるのは良いことだが

あいつは頭が良いと言われていた
あいつはそれが不思議でならなかったと言った
あいつは脳を散り散りにさせて死んだ
その脳をひとつひとつ拾い上げたのはおれだ
おれは何も答えることはできなかった

だからお前に話してみたんだ
お前から見て おれは
変わったと思うかい
変わらないと思うかい
お前は優しいやつだから
いずれ散り散りになるおれの脳も
ひとつずつ拾ってくれるといいが

アイロニー

2022-10-03 | 
あなたは私の腕をもちあげ
ひとつずつかぞえていく
ふるくうすれた傷跡を
ひとつずつ、ていねいに

あなたは私のふるい記憶も
すべてしっているようだ
ななつの時にころんだ傷跡
みっつの時にかかった疱疹

傷跡にふれられるのはけして
こころよくはない
けれどあなたの声はおだやかだ
手のひらはくまなくおりていく

私の罪をさらけだしている
それらをくまなく指摘される
おだやかな声で
おだやかなまなざしで

あなたは私の脚をもちあげ
ひとつずつかぞえていく
みたこともない傷跡を
ひとつずつ、丁寧に

あなたが定義した傷跡は
あなたが定義した瞬間まで
存在しないはずだった
昨晩わたしがつけた傷、

あなたの定義した傷跡が
指さすごとにうまれていく
勝手にきざまれていく
私の罪

二年前にころんだ傷跡、
一月前についたひぶくれ、
うまれてまもなくつけた傷、
わたしとおなじ位置の傷跡、

罪がでっちあげられていく
これはわたしたち二人の罪、
そうほほえむあなたのおだやかな声に
私はゆっくりと目をとじた

不合理な合理性

2022-10-02 | つめたい
ここにごみがある
人間が社会的生活を営むにあたり
必然的に発生するごみだ
生物とは廃棄物を生産する
廃棄物とは本来還元可能な物質だ
しかるにこのごみも何らかの手段により
還元、分解が理論上可能でもある
しかしながら還元するための労力は有限であり
分解者の有する分解能力を
人間の社会生活は上回ってしまっている
わたしはこれをごみと呼ぶ
たとえ自然の分解者が還元可能な
有機化合物で生成されていようとも

人間が社会的生活を営むにあたり
必然的に発生したごみくずだ
生物として累代的に活動した結果
遺伝的に、あるいは環境的に
あるいはその双方の要因により発生したごみだ
人はこれを捨てられぬと保管した
その結果ごみくずは蔓延した
どうしたら捨てられると思う?
整然と並べられたごみくずなら
廃棄してもらえるのか
路地裏に不法投棄したなら
誰かが有効活用するかもしれない
しかしわたしはこのごみを
確実に処分してしまいたい
たとえ土が腐り落ちても
いずれ分解は完了される

今そうするべきだと思わないか?
このごみくずは大量に溢れている
恐らくきみたちがそれと認識しない間に
ここは廃棄物に埋め尽くされている
種の総称であるヒトを前に
人格、感情、倫理は無益と言うよりない
必要ならば整然と並べてみせよう
良心の呵責に苛まれるのなら
あらかじめ動かぬようにしておこう
並べたごみくずが溢れても
これは未来への投資となる
だから捨ててはくれないだろうか
列の末端にわたしは横たわっておくから