ようやっと、昼間は初夏を感じさせる陽気になりました。
季節の移ろいが今年はゆっくりに感じられましたが、それでも着実に季節は変わっていきます。
私は与謝野晶子の歌はあまりに情が強(こわ)すぎて好みませんが、初夏の訪れを祝って色彩感覚豊かな彼女の和歌を思い起こしました。
ああ皐月 仏蘭西の野は 火の色す 君もコクリコ われもコクリコ
明治末期、子供を日本に置き去りにして与謝野鉄幹を追って与謝野晶子はパリに渡ります。
コクリコとはひなげしの花。
コクリコの鮮やかな赤が、初夏の激しさと晶子の恋情の激しさを物語ります。
おのれとパートナーを真っ赤なコクリコに例えるあたり、怖ろしいですねぇ。
そんな女が追ってきたら、私であれば裸足で逃げ出すところです。
子をすてて 君にきたりし その日より 物狂ほしく なりにけるかな
物狂ほしくでもならなければ、そんな所業には及べますまい。
赤のイメージが強い与謝野晶子ですが、爽やかな青を歌っていて、意外です。
雲ぞ青き 來し夏姫が 朝の髪 うつくしいかな 水に流るる
こちらの青は鮮烈というより清冽です。
同じ歌人のなかにも、様々な要素があって、それはしかし、自分自身のことを振り返ってみれば当たり前のことです。
同じ人間の中には、善と悪、天使と悪魔が同居していることが常ですから。
そして青といえば、
白鳥は かなしからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
という若山牧水の歌を挙げなければなりますまい。
この青と白の鮮やかな対比は、和歌史上例を見ない美しいものだと思います。
これからは若葉の緑が鮮やかな季節となります。
時にあまりにも鮮やかな色彩は悪趣味にも感じますが、わが国の自然は不思議と色にしても佇まいにしてもどこか控えめ。
文鳥とインコを比べてみれば一目瞭然でしょう。
私は毒々しさすら感じさせる鮮烈な色彩よりも、控えめで地味な色彩を好みます。
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