ゲーテの名作「若きウェルテルの悩み」が発表されるや、ウェルテルの真似をして多くの青少年が自殺したことから、著名人の自殺を模倣して後追い自殺をする者が急増することを、ウェルテル効果と呼ぶようになりました。
2年前の今日、貧乏アイドルを売りにしていた上原美優が首つり自殺を遂げました。
享年24歳。
若すぎる死としか言いようがありません。
この日から一週間、20代・30代の若者の首つり自殺が急増したことから、ウェルテル効果と見られています。
ウェルテル効果の特徴は、単に後追い自殺するにとどまらず、その自殺の方法まで模倣することにあるようです。
古くは人生を不可解として華厳の滝から投身自殺をした一高生の藤村操。
彼は明治36年に自殺しましたが、この後40人もの若者が華厳の滝から身投げして亡くなっています。
事態を重く見た警察が華厳の滝周辺をパトロールし、自殺志願の青年を150人ちかくも保護。
彼らが全員死んでいたら、じつに190人もの若い命が無駄になっていたことになります。
また、1986年には人気絶頂のアイドル、岡田有希子が18歳で四谷のサンミュージック社屋から飛び落り自殺。
多くのファンが有希子のところに行く、と称して後追い自殺しました。
わが国では毎年3万人もの人が自殺します。
誠に痛ましいことです。
私も31歳の時、27歳の後輩を自殺で失いました。
ひどいショックを受けたことを思い出します。
とくに彼が私の後任で、最も忙しい年度末に命を絶ったことから、彼がおかれた状況が手に取るように分かり、彼の隣に私が座っていれば、決して自殺などさせなかったものをと、傲慢なことを考えました。
困難は私が引き受ける、と。
しかし、失った命が戻ることはありません。
私は生涯、後輩の自殺というきつい現実を背負い続けなければなりません。
そういう私も、うつ状態がひどい時にはたびたび自殺衝動に駆られました。
それを乗り越えたのは、ひとえに死という不明の状態が怖かったから。
ウェルテル効果といのは、自分の命ですら流行りで捨て去る、一種の熱病のようなもの。
私がたびたびこのブログに書いてきたように、教育の目的の主眼は、醒めた人間を作ることだと確信します。
醒めた人間は熱病に浮かされたように自殺することはなく、また、損得を考えずに戦争を仕掛けたりしません。
損得で動く人間とは交渉可能であり、おのれの小さな正義だか信念だかに凝り固まった人間とは、話し合いの余地がありません。
しかしこの世の中に絶対的な正義や真実など存在せず、地域や時代によって、それらは異なります。
極端に言えば、60億の人間がいれば60億の正義が存在し、それを頑なに主張すれば、社会は混沌に陥り、際限のない争いに突入せざるを得ません。
だからこそ利害を中心にして外交交渉は行われ、利害を求める相手とは交渉が成り立ちます。
そうであるなら、基本的な社会常識を教えるのは当然としても、教育の最も重要な要諦は、熱くならず、醒めた態度で利害を調整できる人間を作ることであるに違いありません。
多くの青春ドラマは、そういう意味で間違ったメッセージを青少年に送っていると言わざるを得ません。
冷酷な大人の社会では、子供じみた熱い正義など通用するはずもありません。
青少年が熱くなりがちなのは事実ですが、だからこそ、冷静でい続けることの重要さを、教え込むべきでしょう。
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