●ヘイトスピーチは「差別」と最高裁判断
朝日中高生新聞 2015年3月8日付
★規制法はなく「表現の自由」とも
京都の朝鮮学校に対して「ヘイトスピーチ」と呼ばれる差別的な宣伝活動をすることは「人種差別」だとして、活動をやめ賠ばい償しょう金きんを払うよう命じる判決が昨年末、最高裁判所で確定しました。「ヘイトスピーチ」とは何でしょう。どんな問題があるのでしょうか。
★差別や憎しみ、暴力をあおる
Q ヘイトスピーチって何?
A 英語で「hate」は憎むこと、「speech」は言論の意味。「差別的憎ぞう悪お表現」とか「差別扇せん動どう表現」と訳されるよ。
日本も入っている「人種差別撤廃条約」には、差別を助長する活動として、ある人種や民族が優れているとか劣っているなどと主張することや、憎しみや暴力をあおること――があげられている。これがヘイトスピーチにあたる。
Q それは、してはいけないことなの?
A 差別とは、人種や民族、障害や性別など、生まれつきだったり、本人の努力では変えられなかったりする特性を理由に、さげすむとか不当な扱いをすることだ。その差別や憎しみ、暴力を言葉であおるのがヘイトスピーチだ。人権侵害になるし、言われた人の心を深く傷つけるような暴言は吐いてはいけないよ。
Q 日本の裁判では何が問題になったの?
A 京都の朝鮮学校前で拡声機を使い、「朝鮮人を日本からたたき出せ」などと大音量で繰り返した。学校内にも声は聞こえ、怖がって泣き出した子もいたそうだ。
学校側は「名誉が傷つけられた」として裁判を起こした。ヘイトスピーチをしたグループは「表現の自由だ」と反論したが、裁判所は「人種差別撤廃条約で禁止されている人種差別にあたる」と判断。活動をやめて賠償金を払うよう命じた判決が、昨年12月に最高裁で確定した。
★背景に中韓との関係も?
Q なぜヘイトスピーチをするのかな?
A 宣伝活動をしたグループは「在日(韓国・朝鮮人)には特権がある」などと主張し、東京や大阪など各地で在日コリアンに対し「殺せ」「日本から出て行け」などとののしるデモをしてきた。市民グループの調査では、ヘイトスピーチのデモは1年間に全国で360件以上あったそうだ。
背景として、日本社会で韓国や中国に対する好感度が急速に下がっていることが関係しているのではないかという声もある。
韓国や中国とは、過去の戦争の歴史や、竹たけ島しまや尖せん閣かく諸島などの領土問題をどう考えるかで日本と意見の対立がある。安あ倍べ晋しん三ぞうさんが首相になって以来、韓国の朴パク槿ク恵ネ大統領との間で首脳会談が開かれず、政府同士の関係も冷え込んでいる。
Q だからといって、ヘイトスピーチが許されることにはならないよね。
A 人種差別撤廃条約は、締約国にヘイトスピーチをなくすことを求めている。ただ、日本と米国には取り締まる法律がないんだ。ナチスによるユダヤ人虐ぎゃく殺さつの過去があるドイツをはじめとするヨーロッパ各国にヘイトスピーチの規制法があるのとは、対照的だね。
憲法が保障する「表現の自由」との関係も問題になる。デモをしたり意見を言ったり報道・出版したりする自由を守る、という規定だ。ヘイトスピーチの規制は「何が差別にあたるか」を政府が決めることになり、表現の自由を制約しかねないから慎重にすべきだという考え方もある。一方で「ヘイトスピーチは深刻な人権侵害。表現の自由といえども人権侵害の自由まで許されるべきではない」として規制を求める声もある。 |