久しぶりに会った友人に、「歳をとることは良いことだと思わないか?」と訊かれた。一緒にいたもう一人の友人は即賛同したが、私は答えに詰まった。いままでそういうことを考えたことが無かったからだ。自分の答えを出す前に、彼らがどうしてそう思えるのかを、考えてみたい。
「歳をとる」ということは、「身体」から見れば、(ある年齢からは)衰えていくということである。見た目だけでなく体力的ににも衰える。若い時には無理がきいて、一晩中遊んでいても翌日仕事ができるが、歳とともにだんだんそういうことがキツくなる。また歳を重ねると、次第にカラダのアチコチに故障が出てくるものだ。二人の友は、そういう肉体の衰えを受け容れる「覚悟」があり、それによって人生の幸不幸が変わることがない。もっと言えば、誰でも身体の衰えは意識するしないにかかわらず「死」に向かっているのだが、彼らは事前にそれを恐れたりはしない。死の直前に狼狽えることはあったとしても。
ココロ(精神的に)はどうだろう。 彼らは、将来の大きな夢を語ることよりも、日々を大事に生きようとする。一日(現在)という「点」を、キチンと生きることで、時間の「線」上にある過去と未来への意識は自ずと薄くなっていく。彼らとの話の中には、自分の過去・未来や他者との比較などは、ほとんど出てこない。比較しないということは、現実を肯定できる。また彼らの口から未来の事に対して使われる「信じる」などという言葉は出て来ない。はじめから自分を信じているのだから、わざわざ言う必要がないのである。「信じる」ということは、上手くいくことを信じているのではなく、どっちに転んでも(たとえ悪い結果になったとしても)、それを受け容れる覚悟があるということである。
歳とともに知識と経験は増えて行く。それによって今まで表面的にしか見えなかったものが、より立体的に浮かび上がって、面白く感じられるようになる。二人ともジャンルは違うが音楽をやっている。音楽を続けていくと、確実に「深まっていく」何かを感じられる。それが「歳をとる」ことを喜びにして、より深く人生を味わうことになっているのではないだろうか。