東京は連日熱帯夜であるが、高尾の夜は涼しい方だ。以前住んでいた「笹塚」のアパートは、部屋の下がお風呂屋さんだったものだから、夏は暑かった(何故か冬は寒く、泊りに来た友人が寒さに眠れず、怒り出すこともあった)。
さて、このお風呂屋さんは昔ながらの銭湯で、風情があった。扉を引くと番台があり、お金を支払いながら、一言二言おじさんと挨拶を交わす。脱衣場で準備をして、風呂場のガラス戸を開けて、浴場へ。
毎日通っていると、顔見知りが何人もできる。たわいもない話をするだけだが、それがまた良かった。
見かけるだけで、話をしたことは無いが、今でも印象に残っている人がいる。年の頃70くらいで、引き締まった体付きのその人は、動きにも無駄が無かった。いつも決まった所に座り、同じように体を洗い、湯船に浸かり、誰とも喋らずに帰っていく。黄緑色のタオルと、石鹸だけを持参した。その黄緑色がとても鮮やかだったことを憶えている。
それから数年経って、
京王線から「その煙突」は観えなくなった。
「バカに見てくれて(バカだと思ってくれて)ありがとう」というニュアンスの言葉が中国にはあると、聞いた気がする。どういう意味だったろうか・・・
さて、私は釣りについては、経験も技術も知識も少ない「素人」である。おそらく周りからも、そう観えるだろう。しかしそのお蔭で大変「得」をしている。
私は、今年だけでも多くの人に「釣り」について色々と教わった。まずは年券を買った時に、入渓場所の地図を画いてもらったことを皮切りに、散歩のおじさんに車で良い場所まで送ってもらったこともあった。囮鮎を売っているおじさんに、大ヤマメのポイントを教えてもらった。先週は、駅の待合室で釣りの支度をしていたら、ベテランの釣り人に声をかけられ、(週に3回くらいは桂川に通っているというそのおじさんは)現場に行く時間を遅らせても、暫く話をしてくれた。
皆が親切にしてくれたのは、この兄ちゃんに「教えてあげよう」と思ってくれたからである。私の中に「素人っぽさ」と少しの謙虚さがあれば、これからも教えてもらえるだろう。