二十歳の時、近くのクリーニング屋の工場でバイトをしていた。ドライクリーニングでスーツを洗ったり、ズボンにアイロンをかけたり。昼休みは帰宅して飯を食べていた。その日も飯を食べ終えて、部屋で寝っ転がって休んでいたのだと思う。ラジオからふと、歌が流れてきた。憂いと美しさを合わせ持つその曲に魅かれた。そのままその曲に酔っても良かったが、まだ冷静さを残していた私は、直ぐにラジカセでカセットテープに録音した。DJが浜田省吾の「片想い」だと言った。一回聴いただけでイイ歌と思える歌は多くはない(この歳になるとよくわかる)。わたしはこの2番からしか録音されていない「片想い」を、テープを巻き戻しては繰り返し聴いた。同じ歌を繰り返し聴いても飽きない歌も少ないだろう(この歳になるとよくわかる)。
当時の自給は800円くらいだったろうか。給料をもらって、「片想い」の入っているCDを買った。3千円くらいしたと思う。アイロンを4時間かけた値段。1時間でスラックスを50本くらいアイロンがけしていたから、200本分である。
20年以上愛聴していたそのCDが、どこかに行ってしまった。探しても見当たらない。
無くしたものは「片想い」のCDなのか、記憶なのか・・・