「人事を尽くして天命を待つ」という言葉があります。多くの人が座右の銘にしているとのことですが、私は使ったことがありません。元々中国の言葉だったということなので、中国のサイトで引いてみると、中国語では「尽人事以听(聴)天命」と書き、次のように訳されていました。
「个人只要尽心尽力去做事,成功与否听凭上天安排。」
人が全力でことにあたれば、成功か否かは天の計らいに委ねることができる(白石拙訳)。
訳文にある「只要」には「〜しさえすれば(すぐ)」の意味があります。それよりも「只有(〜してはじめて)」の方が良いのではないかと思いますが、どうでしょうか。全身全霊で事に当たることは簡単にできることではないからです。
思い違いかも知れませんが、日本語でこの言葉を耳にするとき、「結果がどうなろうともすべて受け入れる」というよりも、「これだけ努力をしたのだから、良い結果が出るのではないか」という期待があります。中国語の方は、「できるだけの努力をすれば、結果がどちらでも良いという(天に委ねる)気持ち」になれる。結果よりも「結果がどちらでも良いという気持ちになること」に、重きを置いている。
「尽人事(人事を尽くす)」とは、人が事の中に入り込んで没頭してしまうことです。そのとき結果はもちろん、天命さえ意識しない状態になります。そういう意味では、下のような言葉があったとしても悪くはないでしょう。
「尽人事以忘天命(人事を尽くせば 天命を忘れる)」
天命を軽んじているのではありません。天命は外から来るのではなく、裡から湧き上がるものです。外に天命を探し求めるのではなく、自分の裡から出て来るように、「人事を尽くす」のです。