厦門大学に語学留学した(1985~1987年)頃、中国には人民元の他に兌換券(だかんけん)という通貨があった。外国人が空港や銀行で両替すると、最初に手にするのが兌換券である。
兌換券があると、中国人でも友諠商店など外国人向けの店で買い物ができたので、兌換券の価値が上がり、人民元との間で闇両替が行われていた。記憶があいまいだが、当時は兌換券1元に対して人民元1.4~1.7元位の相場ではなかったか。
中国政府も黙認していたのか、厦門ではメインストリートの中山路と思明路が交わる十字路に、いつでも闇の両替人が立ち、我々外国人に近づいて来ては声を掛ける。
「有没有外汇?(兌換券もってない?)」
「要换钱吗?(両替しない?)」
「港币,有没有?(香港ドル持ってない?)」
ギターの師であり、友人のGちゃんは、一緒にいた2年間で一度も闇両替をしたのを見たことがない。元来、金にはこだわらない性格ではあるが、他にも何か自分の哲学があったのだろうか。
当時の中国では、不慣れな外国人が買い物をして、ぼられることが良くあった。1本2角程度のサトウキビを10元(50倍~)で買わされた旅行者もいた。Gちゃんは、中国人のような中国語を使うからそんなこともない。ある日穴の開いたジーンズを穿いて(本人はカッコがいいと思って?)自由市場に行き、買い物をしようとしたら、
「お前、ズボンも買うお金がないのか」と同情され、まけてもらったという話がある。
ところで、兌換券はその後廃止されたが、あの闇両替人たちは、何処かでたくましく生きていることだろう。うるさく付きまとう彼らであったが、厦門を振り返るとき、懐かしい風景の一つとして思い出すのである。