山で会ったその人は、「ヤマブキ」を観に来たと言う。「ヤマブキ」を観ると涙が出ると言う。
果たしてそういうものなのか、確かめにやって来た。
涙は出ない(どうも私には花を観て涙を流すなどという繊細な感情が無いようだ)。
ヤマブキの花は鮮黄色をして、明るい斜面に群生し、遠くからでも良く眼に入る。
小学一年生のランドセルのカバーのように、無邪気がゆれている。老木の云う事など聞かずに、いつまでも道草を喰っていればいい。
山の中の暗い所でも、小さなランドセルは揺れていた。大人にならなくても生きてはいける。
もし私がヤマブキを観て涙が出るとしたら、それはきっと、子供の時のココロを失ったと思ったときだろう。