二十数年前、私は友と共に三峡を旅した。船に乗って長江を下るのである。陽が沈んだ後、両岸に迫る山並みを見上げていると、絶壁の頂きに建物らしきものがある。程なくそれが白帝城だと知る。群青の空に影絵のように黒く浮かび上がる白帝城。山と空の接点にある城に、微かに人の息吹を感じる。
迷うことなく次の船着き場「奉節」で降りた。切符を無駄にしても白帝城に登りたいと思ったのだ。実際の白帝城には三国時代の面影を感じなかったが、私は劉備の幻影を見ることよりも、李白の詩情を味わうよりも、湧き上がるものに乗じて動きたかったのだ。私が感じた息吹は、名もない蜀の兵士のものだったのかも知れない。
数年後、長江に巨大なダムができて水位が上昇し、白帝城は孤島化した。あの光景はもう観ることはできない。
豪華客船ではなくオンボロの小型船に乗り、私の気まぐれに嫌な顔一つせずに付き合ってくれた友、元気で過ごしているだろう。

迷うことなく次の船着き場「奉節」で降りた。切符を無駄にしても白帝城に登りたいと思ったのだ。実際の白帝城には三国時代の面影を感じなかったが、私は劉備の幻影を見ることよりも、李白の詩情を味わうよりも、湧き上がるものに乗じて動きたかったのだ。私が感じた息吹は、名もない蜀の兵士のものだったのかも知れない。
数年後、長江に巨大なダムができて水位が上昇し、白帝城は孤島化した。あの光景はもう観ることはできない。
豪華客船ではなくオンボロの小型船に乗り、私の気まぐれに嫌な顔一つせずに付き合ってくれた友、元気で過ごしているだろう。
