一、江戸御立前松平豊後守様へ御振舞直に御姫様にて夜に入迄被成御座御歸被成候時紀伊國坂にて御挑
灯蝋燭の眞を切申とて四つの内一つ残りくらく候て坂にておとし候へ共少もそこねは不仕罷歸候時
は夜九つにて可有哉右の仕合故餘り気遣成事と不存候て罷歸つく々々存候へはいや明日罷出候て此
噂可仕と存候へとも草臥なから今夜がまし泊番衆未寝入申間敷と存参候へは帳付所に火見へ申候 拙
者参候を待居申傳右衛門かと尋申故此方よと何事かと申候へは岩間彌左衛門殿御申候 多分傳右衛門
可被参候間早々御次に申候へと御申付候由帳付共申候 其儘立申候へは彌右(ママ)衛門出申され候は今夜道
にて御駕落し候哉御ちょうちん四つの内一つ残り居申候由代る々々眞を切らせ候様に可申付候 定て
傳右衛門迷惑かり可申候 罷出可申候間可申聞との御意に候と被申候 右の仕合翌日罷出申候はゝ御意
に叶申間敷候事はかわり申候へ共大形似たる事山川岡右衛門御意に叶不申役儀御免被成候は御小姓
頭迄か御側衆へ逢申其時の事を申さぬとの儀に候 少の事にても我身に不調法か或は手つきの者にて
も不調法と存たる事は其儘断を可被申候心得に可成事と存候 其後江戸御發駕被成大井川御渡し被成
候日は非番にて参候處に御挑灯持候者に逢候故右の段申聞代る々々たれは一番たれは二番三番と前
かとより極め候てかわる々々々しんを切候へと申付候へはいや是を見候へとてらうそくを見せ申候 廾
目懸にてケ様に御座候故しん切不申候へはあかり不申候 就夫節々切申候 成程奉得御意と申候 拙者見
候て扨々御かんりやくにて候へともろふそく御供にともし申候 格別にて候 急度可申と存候處に折節
島田金吾御宿に御奉行役宮川金右衛門居候故其儘如此と申候へは御尤に候 神以拙者其儀少も不存候
早今晩より可申付との事にて候 各能々見申心付可被申候 右段々皆御駕の者其の身の上にて候 老父人
の為には身を捨被申候と被申候事毎度承候故おのつと心にのり申候て我身にはやむくゐ申候如御存
拙者は如形そまつ成ると身覺申他人も申と承及ひ候 然れ共萬事に本を心に吟味仕候故萬事無恙如斯
八十迄存命調置候は各同名中為と存候 しかれは先祖に孝行又乍憚各の御用に被立候様と此内一事成
とも御奉公の助とも成候へは寸志の忠にも成可申候 近年は組に悪事候へは頭にも遠慮仕候 江戸も左
様かと承及候 しかれは老父人の為に身を捨被申候と被申候 一言組頭の遠慮にて合點可有之律儀にて
當世風にあわぬとても毎度書申様に天明らかに候へは人の為ハ身にむくひ申候
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