一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

もみ手と茶人

2019-01-27 08:21:23 | 雑記


       月に一度は整体院にいってメンテナンス
       を心がけている。

       楽しみは週刊新潮に掲載されている
       五木寛之氏のエッセイを読むこと。

       さすが一流作家である。

       すべて網羅しているわけではないが
       (週刊誌は整体院でしか見ないので)
       どれもスパイスと滑稽味にあふれたもので、
       思わずプッと吹き出すこともしばしば。

       そのタイトルも忘れてしまったが、
       茶人(女性)と手もみの話であった。

       (おおよその内容を記憶しているだけで、
        固有名詞も覚えていないのだが、
        それを承知で書けば、
        ざっと下記のようになる)

       若き日、
       五木氏は時折、無性に原稿書きから逃れたく
       なった。

       そんなときはひとり全国の寺院めぐりを
       することである。

       冬の寺院は訪れる人も少なく、
       しんしんと冷えが襲ってくるのみ。

       その寺院も名刹の一つであった。

       ふと、
       妙齢の茶人が部屋に入ってきて、
       お茶をたてはじめた。

       見るともなく見ていると、
       まことに静かなお点前で、動きも自然そのもの。

       お茶を一服いただいた後、
       五木氏はなんと無謀なことにも
       こんなことを口ばしっていた。

       「30分でひとつ、
        所作を教えていただけませんか」

       女人(にょにん)は
       しばし沈黙した後、
       こうのたもうた。

       「30分とはこれいかに。
        30年のお間違えではありませんか」

       五木氏は不意を突かれ、
       絶句。

       部屋はお腹の底からずんと冷え込み、
       火鉢が一つあるだけである。

       しばらく間があって、
       気まずさを埋めるごとく
       女人が口をきいた。

       「では、もみ手をしましょう」

       「もみ手?」

       「はい、もみ手です」

       指先はもうすでに、かじかんでいる。
       氏がはい、そうですかというふうに
       両手をもみもみした。

       「あ、そんな乱暴ではいけません」

       「はァ?」

       「もみ手はあくまでも相手さまに
        気づかれないように、
        ひっそりとゆるやかにするのです」

       たしかに女人の手もとを見ていると、
       たおやかであるが、
       大げさなものではない。

       そんなこんなで30分はあっという間に
       たってしまった。

       心なしか、
       手の冷えどころか、
       身体中のこわばりもほぐれたような気が
       する。

       あれから〇十年、
       以来、
       五木氏は寒くなって我慢できなくなると、
       もみ手をするようになった。

       気がつくと、
       気持ちまで鎮まって、
       なんともいえない心地になる、
       といった話である。

       くどいようだが、
       これは私の記憶に残るもので、
       正確さには欠ける。

       どなたか、
       くだんの週刊新潮がお手もとにあったら、
       寺院の名前など教えて下されたし。