蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

長く高い壁

2021年06月12日 | 本の感想
長く高い壁(浅田次郎 角川書店)

昭和13年、人気ミステリ作家の小柳逸馬は、従軍作家として北京へ派遣される。方面軍司令部の川津中尉とともに、北京から100キロ以上離れた蜜雲への出張を依頼される。同地の近くの張飛嶺で起きた兵員の大量死事件の調査をすることになるが・・・という話。

憲兵隊のベテラン曹長:小田島の酸いも甘いも噛み分けたキャラが秀逸で、出番をもっと増やしてほしかった。

中国近代を舞台にした小説が多く、兵士としての経験もある著者としては十八番の設定で、兵隊たちの振る舞いや当時の中国社会の描写がリアリティに溢れている。

著者得意の独白体で、関係者が事件の証言をするあたりからぐっとひきつけられて最後まで読んでしまったが、ミステリとしての謎解きは弱いかな、という感じだった。
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紅の凶星

2021年06月12日 | 本の感想
紅の凶星 (五代ゆう ハヤカワ文庫)
 
グイン・サーガ135、続編プロジェクト5

ヴァレリウスは、パロの食堂の娘アッシャに異常な才能を見出して魔道士として育成しようとする。カメロンは、魔道の力を借りてパロを乗っ取ってしまったイシュトヴァーンを止めようと、単身クリスタルパレスへ潜入する・・・という話。

続編プロジェクトでは、五代さんと宵野さんが交代で書いていて、五代さんはパロとヤガを舞台にしているが、「そんなことやっちゃっていいの?」というサプライズが続編プロジェクト第一弾「パロの暗黒」で起きた。
本作でも負けず劣らずのビックリが用意されていた。

ちょっと前から「ゲームオブスローンズ」のDVDをポツポツ見ているのだけど、まだ中盤にいくかいかないか位のところで、主人公だと思っていた人があっさりと殺されてしまって驚いた。

主人公とはいわないけど、あの人がこんなに簡単に死んでしまっていいものだろうか?まあ、もっともグインでは主要登場人物の2人もがいったん死んでから生き返っているからなあ(スカールは死んでなかったっけ?)
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朝が来る(映画)

2021年06月12日 | 映画の感想
原作に忠実に、特別養子を迎えた家庭と実母のエピソードを並べて描く。

原作に比べると家庭側の場面が多く、父母役の井浦新と永作博美もよかったが、特別養子の斡旋組織ベビーバトンの主催者役:浅田美代子の力の抜けた浮揚感?がある演技が特に印象的だった。

中学生で妊娠してしまった実母が、世間に圧力に負けてどんどん悪い方向に堕ちていく様子が本作のキモ。原作を読んでいるときは、読んでいるこっちも一体になって堕ちていくような転落感みたいなのが強烈だったんだけど、映画ではマイルドな感じで、実母役の人(蒔田彩珠)に共感できなかったなあ。
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博士と狂人

2021年06月12日 | 映画の感想
博士と狂人

オックスフォード英語辞典の編纂の経緯を描く。編集長?のマレー(メル・ギブソン)は、アメリカ人の元軍医マイナーからの投稿に注目し、協力を依頼する。しかし、マイナー(ショーン・ペン)は戦場での心理的後遺症に苦しみ、錯乱して殺人を犯し精神病院的刑務所?にいた・・・という話。

マレーは学位のない在野の学者で、特別に招請されて編集長?に就任するのだが、学内の権力争いや学者間の嫉妬に苦しめられる。この、描写が難しそうな筋書きがうまく映像化されていた。
ただそれだけでは、映画として盛り上がらないので、マイナーのエピソードを付け加えたのだと思うけど、実際のところ、マイナーの貢献って重要性が高いものだったのかな?
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新しい江戸時代が見えてくる

2021年06月08日 | 本の感想
新しい江戸時代が見えてくる 大石学 吉川弘文館

副題の「平和と文明化の265年」通りの内容。

■鎖国中も4つのルート(対馬、長崎、薩摩、松前)で交流は続いた。朝鮮人、アイヌ人、琉球人、オランダ人、中国人が日本国内で意義のある活動をつ続けた。鎖国とは中央政府による出入国管理であり、国内平和の維持に貢献した。

■1600年代中盤頃から文治政治が始まった。将軍は飾り物で幕閣ら官僚による統治が始まり、生産力の拡大とともに経済が発展した。

■亨保改革は将軍吉宗の独裁。行政のアーカイブ化が進み、大きな政府化した。これに対立したのが尾張藩主宗春だったが吉宗が圧勝。教育体制が整備され、誰もが矢立(ペンセット)と紙(メモ)を持ち歩いていることに外国人が驚いたという。

■新選組はラストサムライというイメージが強いが、実態は異なっていた。組織化が進み給料制を取り、日本全国のあらゆる身分の出身者がいた。軍備の様式化を図っていた。幕府の奥医師:松本良順の指導を受けて医療体制(西洋型病院)を整備していた。

■「江戸の達成」の章の序文(119ページ)から引用
世界的規模で、近世から近代への移行を見ると、日本の場合の移行の速さ、抵抗の小ささは注目されます。そして、これを可能にしたのが、江戸を中心とする列島規模での国家・社会の均質化、地域・身分をこえた「国民」の形成でした。「明治維新」とは、それまで譜代大名や旗本など「幕府官僚」が担っていた国政運営を、朝廷・親藩・外様藩などの官僚を加えた「新政府官僚」がになうようになった政権交代と位置づけられます。
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