蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

びんぼう自慢

2011年07月18日 | 本の感想
びんぼう自慢(古今亭志ん生 ちくま文庫)

志ん生って戦後の一時期は本当に人気があったそうで、高座で寝ていても、落語の主人公の名前を忘れて「何とかというお侍さんが」とやっても、観客は、「寝かせといてやれ」といったり、大笑いしてくれたりしたという。

本書は、そんな昭和の大看板が語りおろした自叙伝。

タイトル通り、戦前はまさに赤貧という言葉がふさわしい暮らしぶりで、食うものがないから近所の池で蛙を取って食ったりとか、なめくじだらけの借家に住んだりと、今からでは想像も難しい貧乏ぶり。

行動も相当に奔放で、目の前に質に入れられそうなものがあったらそれが誰のものであってもおかまいなしで現金化(そして即酒代にしてしまう)、家賃はほとんど払ったことがなく(そうはいっても奥さんがある程度カバーしていたのだろうけど)、ギャラ前受けで地方に営業に行く企画をたてたら人気者を連れて行くことができず夜逃げしちゃったり、近所の犬を蹴り殺したり、ほどんどの行動の動機は酒で満州に行くことにしたのも酒が飲めそうだから・・・今じゃ即芸能界追放みたいな行状が次々と出てくる。本に書けちゃうことでこんなにあるのだから、本当のところはさらに凄かったのではないかと・・・。

それでも、どんな時も落語の稽古だけは欠かさなかったところが、非凡なところなんだろうなあ。

そんな著者が、落語に打ち込むきっかけになったのは、近所のお金持ちから着古しをもらって中身をみたら見たこともない高級な生地があって、自分の子供にもこんな立派な服を着せたいなあ、と思ったことだというのも、意外な感じだった。
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捕食

2011年07月18日 | 本の感想
捕食(渡辺球 角川ホラー文庫)

同じ著者の作品「べろなし」は、アイディアも語り口もよかったと思うのだけれど、タイトルと、雰囲気が暗すぎる(おどろおどろしさを追求しすぎている気がする)ので損をしていたような気がする。

本作も同じ印象。生活保護受給者を食い物にするビジネスに加担することになった主人公とその父親の退職公務員を食い物にしようというミザリー風女を中心にした話で、現代風のホラーに仕上がっているのだが、「ホラー文庫」というカテゴリを意識しすぎたのか、必要以上に主人公が勤務するホームレス収容所の過酷さやミザリー風女のサド技の描写の生々しさを強調しすぎていると思う。
もう少し抑え目にすると背筋が寒くなるような本当の怖さが出てくるような気がするのだが、グロいなあ、という印象が前面に出てきて怖さより不快感が先に立ってしまっているように思う。

もともとは、主人公と雪という恋人のロマンスを中心に描きたかったのだろうなあ、と感じられるのだが、この二人をつなぐのが、安いワインとハムチーズサンドイッチだった、というエピソードは結構しゃれていて気に入った。
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