蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

尻啖え孫市

2015年01月01日 | 本の感想
尻啖え孫市(司馬遼太郎 講談社文庫)

鉄砲の射撃に長じた雑賀一族を率いて本願寺の傭兵として信長軍に対抗した雑賀孫市の話。

孫市というのは、雑賀一族の長が相伝する名前だそうで、今日まで伝わっている孫市に関するエピソードは何人かの孫市の事蹟が入り混じっているらしい。

女好きで豪快で竹を割ったような爽快な性格で誰にも好かれ乗馬・射撃・槍・戦闘指揮の達人・・・そんな人、現実にはおらんわなあ・・・
とはいうものの、寡兵を率いて圧倒的物量の信長軍と10年も渡り合って敗れることがなかったわけだから、相当の人物(群?)であったことは確かだろう。

あまり史料が充実していない人物ほど、作者の創作の自由度もあがるわけで、本書で描かれた孫市は、とにかく、理想の男を絵に描いたような人物になっている。

一方で、浄土真(一向)宗についての考察もけっこうな分量を割いて語られる。
一向宗というと、(個人的には)暗いイメージがあったが、本書では、日本史上初めて庶民にまで拡散した宗教(それまでの仏教は社会上層のみに普及していた)で、それまで宗教に触れたことがない庶民にとっては、極めてきらびやかな思想であった、と描かれている。そして、その考え方がキリスト教にとてもよく似ているな、と思った。結果として数々の戦争や争乱を引き起こしたことも含めて。

しかし、陽気な主人公にひっぱられるように、陰りを感じさせるような箇所はほぼ皆無で、最後までとても楽しく読める娯楽作品だった。
半世紀前に書かれた作品だが、今、新刊として刊行されても大人気になりそうな気がする。

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