蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

一瞬の雲の切れ間に

2018年08月07日 | 本の感想
一瞬の雲の切れ間に(砂田麻美 ポプラ社)

一人の子供の交通事故死を巡って、事故を起こした主婦(美里)、その夫(健二)、夫の愛人(千恵子)、被害者の母(吉乃)などを、それぞれを主人公とした連作形式で描く。

最初の章が健二と千恵子の話で、この章の中で、健二が事故後しばらくしてから吉乃の家にお詫びに訪問した際、吉乃は恨み言や文句を一切言わず、ただ子供の思い出を淡々と話し、それを聞いていた健二は、吉乃の部屋を出たあと嘔吐してしまう、という場面がある。
(小説としては何ということもない平凡な場面なのだが)この場面の描写に非常にインパクトを受けてしまって、「ああ、この吉乃の人生の話もしてほしいぞ」と思った。
そうしたら、次の章がまさに吉乃が主人公となる話で、これがまた最初の章以上によかった。

健二のキャラ設定が抜群で、「いそうだよね、こういう人」「オレも健二みたいな考え方しちゃいそう」なんて、ストーリーが展開するたびに感心させられた。

著者が映画関係者であるせいか(あるいはそれを事前に知りながら読んだせいか)描写が映像的で各場面のカットが鮮やかに頭に浮かんでくるような気がした。

うまく表現できていなかったことがないのだが、「こういう作品があるから、小説を読んでおかないといかんよな」と思わせてくれる素晴らしい作品だった。

ハードカバー刊行時に北上次郎さんが絶賛していたそうだが、世間ではそこまで評価されてないようで残念。
コメント
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