蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

世界の果てのこどもたち

2018年07月07日 | 本の感想
世界の果てのこどもたち(中脇初枝 講談社)

高知の山村から村の方針に従って満州に移住した珠子、やはり朝鮮から追われるように満州にきた美子(ミジャ)、横浜の裕福な家に育ち、視察のために渡満した父に連れられて満州にきて珠子たちと巡り合った茉莉。3人はちょっとした冒険のつもりで出かけた寺院から帰れなくなってしまって3人で一夜をすごす。
茉莉は横浜への空襲で近親者をすべて亡くし、美子は母と日本へ行くが朝鮮人への差別に苦しむ。珠子は終戦で引き揚げることになるがその旅路は苦難に満ちたものになる・・・という話。

ちょっと前にちばてつやさんの「ひねもすのたり日記」を読んだ。
ちばさんの日常と満州からの引き揚げ体験を描いたものなのだが、つらい体験をユーモアで包みながら、ついに日本の父の実家に到着したときの安堵ぶり、親戚たちの温かい歓待ぶりがとても印象に残った。

それに比べて本作における満州から日本への道程は本当に厳しくて、「これでよく生き残れたもんだなあ」と、いまさらながらに当時の苦難がしのばれた。

「ひねもすのたり日記」で指摘されるまで、なんともうかつなことに気が付かなかったのだが、終戦で、満州にいた500万人といわれる日本人は「難民」となったのである。

「難民」といわれても遠い国の話というイメージしかわかないのだが、ほんの70年くらい前、私の親の世代・・・つまり今も体験者がたくさん生きているくらいの身近な体験としてたくさんの日本人が「難民」として辛酸をなめてきたことが、実感できていなかったことが恥ずかしい。

本作は、最初から最後まで緊迫感のある筋書きの中で(若干お涙ちょうだい的な側面もあるのだが)感動的な場面が何度か現れて、電車の中で読んでいるとき涙が浮かんできそうになって困ったことがあった。
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ウズタマ

2018年07月07日 | 本の感想
ウズタマ(額賀澪 小学館)

松宮周作は父親(将彦)に育てられた。母親は周作が幼い頃、父親の知人の大学生と不倫したうえにもめごとになり殺されていたが、周作はそれを知らない。父親が脳梗塞になって入院している間に父の部屋から昔の写真などを見つけて事件を知り、犯人の大学生(皆瀬悟)を見つけようとする。自分の子供時代を知ることで、今結婚しようとしている光森紫織とその娘(真結)との関係性もうまくいくような気がしていたが・・・という話。

皆瀬悟は、妻が育児ノイローゼで実家に帰ってしまっている将彦と知り合って、家政婦がわりに松宮家の家事をこなし、周作とも母子のようなキヅナができる、という設定なのだが、皆瀬が男性であることの意味が今一つわからなかった。女性だと当たり前すぎる話になってしまうからだろうか。

冒頭の思わせぶりなカットバックシーンから、サスペンス風味のミステリなのかと思い、確かに皆瀬が見つかるまではそういうムードで面白く読めたのだが、皆瀬が登場すると、とたんに平凡なホームドラマ風になってしまって、ちょっとがっかりした。
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