蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

経済学者 日本の最貧困地域に挑む

2018年07月29日 | 本の感想
経済学者 日本の最貧困地域に挑む(鈴木亘 東洋経済新報社)

1980年代終り頃、主に南海沿線で営業(セールス)をしていたことがある。当時は、新今宮駅とか萩ノ茶屋駅あたりで降りるのは、ちょっと抵抗感があった。バブル景気で日雇の仕事も豊富だったと思うが、それでも昼間から酒飲んでふらついている人がけっこういた。
本書は、そのあいりん地区(大阪市西成区の一部)に絡む社会的改革に(当時の橋下市長に依頼されて)大阪市顧問として携わった著者の体験記。

本書によると、あいりん地区では、行政側で事業計画を立てて議会を通してしまってから住民に説明するという事例(著者いわく、「いきなり調整」)が繰り返された結果、行政と住民との間の信頼関係が壊れてしまっていたという。
「いきなり調整」は、この地区に限った話ではなく、むしろ行政的な措置なんてほとんどそんなもののような気もする。行政側にしてみれば、議会を通っていれば(議員が住民の代表なのだから)文句ないだろう、と思っているのではなかろうか。
ただ、あいりん地区の場合、ステークホルダーの種類も絶対数も非常に多いことや、昔からの(いわゆる)活動家がいることで、行政への不信感がよりかきたてられていたようである。

こうした非常に難しい環境下で、著者は、できる限り幅広い参加者を一堂に集めて議論させ成案を得るという、ものすごくエネルギーと時間を要する事業にとりくみ、成功の入り口あたりまでこぎつける。
その活動が事実上無給だったというのも、すごいなあ、と思えた。(計画完成段階で顧問をやめるつもりが、橋下市長のペースに巻き込まれて引くに引けなくなったみたいだ)

著者が強調するのは、地域の関係者や行政に利害関係やしがらみがないミドルマン(仲介者)の存在の重要性。ミドルマン(著者)が各関係者をヒアリングして落としどころを推測して原案を作成し、関係者がこれを叩いて修正していく方法が有効だったという。関係者同士が合議する場では手の内を明かしたくなくて全く発言しない人も、どの関係者とも利害関係がうすいミドルマンが個別に聞きに行くとよく話したそうだし、原案を叩かせると反応がとてもよかったらしい。
もっともこれは、ミドルマン(著者)に、橋下市長という後ろ盾があってこそだったのかもしれないが。
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