蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

オール・ユー・ニード・イズ・キル(映画)

2015年04月17日 | 映画の感想
オール・ユー・ニード・イズ・キル(映画)

原作にかなり忠実と言われるマンガ版を読んだことがある(原作は未読)が、ビデオゲームのように殺されると何度でもスタートに戻ってやり直せる兵士、というコンセプトを引き継いでいるくらいで、映画は原作とは全く別物になっているように思えた。

マンガ版では、最強の女性兵士リタに鍛えられ、彼女を目標として主人公が成長する姿を描くという側面もあったが、映画ではそういう点はあまり強調されず、主人公は勝手に強くなっていく。何よりリタが主人公とさえいえそうだったマンガ版に比べて、リタに圧倒的な強さはなく、ちょっと魅力に欠ける感じがした。

マンガ版ではギタイ(地球外からの侵略者)に人類はギリギリまで追い詰められているムードが良く出ていたが、映画では人類は「まだ余裕じゃん」って勢いで、戦闘シーンでも互角な感じがあって切迫感や恐怖感に欠けていた。(映画ではけっこうユーモラスなシーンがあったりするので、この辺は意識的に深刻さを避けているのかもしれない)

そして、全体としての謎解きも映画では少々わかりにくかった。

映画版で良かったと思えたシーンは、リタのコーヒーの好みを主人公が知っていて、主人公にとって初体験(だと観る側からすると思える)のシーンが実は何回目かのループなのだと暗示している場面。

総じて、マンガ版の方がよかったなあ、というのが言いたいことなのだけど、前述のように全く別の作品と見るべきで、比べることに意味はなさそうだ。
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もう二度と食べたくないあまいもの

2015年04月17日 | 本の感想
もう二度と食べたくないあまいもの(井上荒野 祥伝社)

恋愛小説の短編集。
ストレートな、甘い恋愛ものではなくて、中年の実らぬ(あるいはすでにやぶれた)恋(ほとんどが浮気)を描いた作品が多い。タイトルにはそういう含意があるのだろうか?

「奥さん」→団地で手作りのカレーを売る男が、団地妻(←なんか久しぶりに聞いたというか使った気がする。今の若い人には「何それ?」ってなもんだろうな)と次々関係を持つ話。この男に性欲とかいやらしさがあまり感じられない所がかえってイヤ~な印象を強めている。

「自伝」→ノムさんがモデルのような元野球選手に自伝の執筆を依頼した編集者とその先輩の話。そっけない二人のあいだにそこはとなく漂う恋情??がいい感じだった。

「古本」→古本漁りが趣味の主人公に見知らぬ女から電話がかかってくる。彼女は自分の夫が主人公といっしょにいると思い込んでいる。不条理な状況なのに全く平気な主人公が可笑しい。

「幽霊」、「裸婦」→認知症気味?の老人を登場させる必然性が感じられず、若干後味が悪かった。
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今日もごちそうさまでした

2015年04月17日 | 本の感想
今日もごちそうさまでした(角田光代 新潮文庫)

食事に関するエッセイ。
著者は子供の頃好き嫌いが多く、野菜や青魚はほとんど食べられなかったが、30を過ぎたあたりで「食革命」が起きてほぼ何でも食べられるようになったという。しかし今でも主食?は肉(と酒)で、鶏肉は著者の中ではサカナ類程度の位置づけというほどこってりした肉食系とのこと。

私の勝手な推測だが、著者に「食革命」を起こさせたのはお酒ではないだろうか。著者は夕食にはお酒を欠かさないようなのだが、酒のつまみ用に味付けしてお酒といっしょに食べれば大抵のものはおいしく感じられるようになるような気がする。

私も大学を出るころまでは野菜が嫌いで、小中学校での給食は苦痛だった(昔は全部食べ切るまで居残りさせられた)。
特にトマトは絶対食べなかったが今ではむしろ好物になってしまったくらい。
このように大人になるにつれ「食革命」が起きるというのは珍しいことではないと思うので、著者の母親のように、子供が好きなものだけ食べさせるという方針も案外いいのかもしれない。

著者は早くに父親を亡くしたせいもあってか、母親とのエピソードを書いたエッセイが多く、そのどれもが面白く、かつ、ホロリとさせられる内容が多い。本書では次の箇所が気に入った(文庫P165)。

***
ザ・昭和夫婦の父と母は、愛していると言い合ったり、触れ合ったり、けっしてしなかった。どちらかというと母は父のことを悪く言うことが多かった。父が亡くなってずいぶんたってから、ともに夕食を食べていた際、「おとうさんの作った白菜漬けはおいしかったわね」と、ぽつりと母が言ったことがあって、たまげた。なんというか、その一言が私には、愛というものとは根本的に異なる、情としか言いようのない何かに思えたのである。しかも、その何かは愛より熱く、頑丈に思えた。
***
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