蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

今日もごちそうさまでした

2015年04月17日 | 本の感想
今日もごちそうさまでした(角田光代 新潮文庫)

食事に関するエッセイ。
著者は子供の頃好き嫌いが多く、野菜や青魚はほとんど食べられなかったが、30を過ぎたあたりで「食革命」が起きてほぼ何でも食べられるようになったという。しかし今でも主食?は肉(と酒)で、鶏肉は著者の中ではサカナ類程度の位置づけというほどこってりした肉食系とのこと。

私の勝手な推測だが、著者に「食革命」を起こさせたのはお酒ではないだろうか。著者は夕食にはお酒を欠かさないようなのだが、酒のつまみ用に味付けしてお酒といっしょに食べれば大抵のものはおいしく感じられるようになるような気がする。

私も大学を出るころまでは野菜が嫌いで、小中学校での給食は苦痛だった(昔は全部食べ切るまで居残りさせられた)。
特にトマトは絶対食べなかったが今ではむしろ好物になってしまったくらい。
このように大人になるにつれ「食革命」が起きるというのは珍しいことではないと思うので、著者の母親のように、子供が好きなものだけ食べさせるという方針も案外いいのかもしれない。

著者は早くに父親を亡くしたせいもあってか、母親とのエピソードを書いたエッセイが多く、そのどれもが面白く、かつ、ホロリとさせられる内容が多い。本書では次の箇所が気に入った(文庫P165)。

***
ザ・昭和夫婦の父と母は、愛していると言い合ったり、触れ合ったり、けっしてしなかった。どちらかというと母は父のことを悪く言うことが多かった。父が亡くなってずいぶんたってから、ともに夕食を食べていた際、「おとうさんの作った白菜漬けはおいしかったわね」と、ぽつりと母が言ったことがあって、たまげた。なんというか、その一言が私には、愛というものとは根本的に異なる、情としか言いようのない何かに思えたのである。しかも、その何かは愛より熱く、頑丈に思えた。
***

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