蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ラバー・ソウル

2014年07月22日 | 本の感想
ラバー・ソウル(井上夢人 講談社)

主人公は独身で、大金持ちの一人息子で、趣味は洋楽、特にビートルズ。
お金にモノを言わせて個人としては驚異的な(レコード等の)コレクションを持っている。その趣味を生かして音楽評論等を専門誌に寄稿しており、その内容は玄人筋から高い評価を得ている。高級外車を乗り回し、身の回りの世話は長年仕える執事がすべて手配してくれる・・・

おお、素晴らしい人生じゃないですか、と思える環境なのだが、その主人公は文字通り正視に耐えない人間離れした醜い容姿をしており、両親とすら気持ちが通じず、子供時代から豪邸の奥に引きこもっている。それでも上記のような生活なら不満もあまりないような気もするのだが、とにかく主人公は人生を悲観し、絶望している。

主人公は、偶然、雑誌モデルの女性を自分の車の助手席に乗せることになり、初めての体験に舞い上がってしまって、彼女に対して重症のストーカー行為を始める・・・という話。

だいぶ前にハードカバーで読んで感動したのに、先延ばしにしている間に文庫が出てしまったので(まあ、何の関連性もないのだけど)あわてて感想を書いてみる。

本書はミステリ的な結構ではあるけれど、ミステリとしては決定的なアンフェアがあるので、オビのコピーが言うように恋愛小説として読むべきなのだろうなあ、と思った。

主人公の異常なまでの粘着質のストーカー行為が繰り返し描かれて、若干冗長気味でもあるのだけれど、不快感を催すような主人公の行動には、話が進展するにつれ次第に健気さ、一途さが感じられるようになり、それがジャンプ台になって、結末のどんでん返しに至っては主人公の“純愛”に感動させられる、という構成になっている。
だから、「長いな」「アンフェアだ」とか文句をいうより、サクサク読んで(ページ数は多いが独白体で読み進めやすい)、作者の手練れぶりに感心する、という読み方がいいと思う。

そうすれば
闇が濃いほど光がまばゆいように、主人公の容姿よりも遥かに醜い真相をすべて飲み込んだ主人公の選択にカタルシスを感じることができる。

(蛇足)私は洋楽に関する知識がないので、タイトルはじめ本書の中にちりばめられているはずの、洋楽方面の暗喩や見立てには全く気付けないのだけれど、詳しい人にはとても楽しめるものになっているのではないだろうか。
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テルマエ・ロマエ1&2(映画)

2014年07月22日 | 映画の感想
テルマエ・ロマエ1&2(映画)

1はDVDで見て、2は映画館で(GWに)見た。

原作は読んでいないが、レビューなどを読むと温泉絡みの小ネタは原作通りのものが多いらしく、原作を読んでいると「あ~あの場面」などと、よりいっそう笑えるらしい。

確かに、主人公のローマ人(阿部寛)が、現代にタイムスリップして日本のお風呂の風俗?に驚いたり感心したりする部分は、面白い。
一方、セットやロケに相当なお金がかかっていそうなローマ時代の方は(お金がかかっていそうなだけに)残念感が漂う。
ただ、(2の方で途中から字幕をやめてしまい、「字幕は疲れるでしょ」みたいな字幕を流すような)メタ的視点で作られているので、「カネかけて作っているのに、こんなくだらないシーンかよ」みたいなのは、あるいは(日本の場面のチープさと好対照にする)狙いなのかも。

阿部さん、北村さん、市村さん等のローマ人役は、メイクの効果もあるだろうけど、彫深い、日本人離れした顔つきに確かに見える。
それだけに「平たい顔族」(=典型的日本人顔の人のこと)との対照を際立たせるようなギャグがもっと多かったらよかったと思った。
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