蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

海上護衛戦

2014年07月27日 | 本の感想
海上護衛戦(大井篤 角川文庫)

太平洋戦争中、参謀として輸送船団等の護衛を指揮した著者の回想記。

記憶力がいいのか、記録癖があったのか、あるいは後日の調査が充実していたのか、著者の個人的体験中心ながら、客観的データも大量にもりこんで(特に、海上輸送計画(輸入のための船腹確保の簡単な計算が紹介されている)が興味深い)、地味なテーマなのに最後まで面白く読めた。(以下、印象に残った点を箇条書き)

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・民族生存が太平洋戦争の究極の目的だとすれば、次のような図式になるはずである。
民族生存→通商保護(海上護衛)→制海権確保→艦隊決戦
しかし、現実は主客転倒し、艦隊決戦のための物資を運ぶのが海上護衛の目的とされていた。

・軍事上および民間の消費物資を海上運輸に頼る日本のような国の海軍の本旨は海上補給線の確保にあるはずなのに、日本海軍(特に連合艦隊)は決戦主義で、護衛戦にはほとんど関心を示していなかったし、戦力らしい戦力を割くこともなかった(そこ行くと、(戦艦なんか不要だからUボートを充実させろ、なんて指示していたらしい)ヒトラーなんかは優れた戦術眼を持っていたようだ)

・戦争初期の米軍の魚雷性能は劣悪で当たっても起爆しない(あるいは的中前に起爆してしまう)ことも多く、これが日本軍の油断を誘って対策が遅れ、性能があがってくると対応がまにあわなくなった。

・緒戦のフィリピン空爆で、偶然米軍の魚雷在庫に致命的な打撃を与えることができ、この影響は戦争中盤まで続いた。

・ソナーやレーダーの装備遅れが致命的であった。
・対ドイツの通商破壊戦の戦訓を持つアメリカ海軍の潜水艦隊への注力(例えば、潜水艦にアイスクリーム製造器が装備されていたらしい)ぶりに比べて、日本の対抗手段は旧態依然のままであった。

・米潜水艦も脅威であったが、ハルゼー機動艦隊が本気で通商破壊にあたるなどして、航空戦力により襲われるようになってから日本の通商護衛はなすすべがなくなった。

・南方での石油等の資源獲得は終戦間際まで順調で、現地では物資がダブつくほどあった。通商線をしっかり確保できていれば、戦争の展開に影響があったかもしれない。

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なんらかの工夫により、乏しい戦力ながら、(世間で思われているよりは)護衛戦では健闘したのだよ、と、いった内容を期待して読んだ。
しかし、史実通りとでもいうのか、通商線、補給線の確保という意味では、日本軍は(一般的な)歴史イメージ通りに(通常の戦闘以上に)惨敗であった、というのが本書の主旨だった。
前述のようにハルゼーの機動艦隊までもが通商破壊を行うようになったあたりからの、一方的に殴られっぱなし的な状況は本当にひどい。

著者は、戦争中、中佐~大佐であったのだが、作戦レベルでの軍の意思決定はもう少し下の階層で行われていたようで、著者の仕事は戦略的立案だったようだ。
しかし、その思考法や行動は、どうも他の役所(陸軍とか連合艦隊とか)との権力闘争とか、成果の奪いあいに終始していたように思えてならない。(別に日本に限ったことではないかもしれないが)高級官僚の世界は昔も今も国益より省益なんでしょうなあ。
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箱入り息子の恋

2014年07月27日 | 映画の感想
箱入り息子の恋

主人公(星野源)は、35歳・独身の市役所職員。毎日、昼食は実家に帰って食べ、定時に役所を出て家に帰るとTVゲームに没頭する生活をしている。
ある日、主人公は道端で若い女性に傘を貸す。まもなく両親がセットした見合いの席でその女性と再会し・・・という話。

失礼ながら、星野さんは、みかけがいかにも設定通りで、「こんな人いそうだようね~」と冒頭からスムーズに物語の世界へはいっていける。
主人公はヒマなせいか、役所の周りがやたらときれい、というシーンが映画の最初に挿入されているのも、「あるね~そういうの」という感じがした。

そういう人が、一目惚れしたというだけで、文字通り命がけ(2回死にそうになる)で彼女とつきあい続けようとするのは不自然といえば不自然だし、今どきありそうもないよな~とも思うのだけれど、世間からは失われて久しいそういう不器用な一途さをテーマにすることが、むしろ新鮮さを感じさせて、本作の評価につながっていると思った。

あるいは逆に、かつて絶滅に瀕していたかに思われた、主人公のような人が、広い範囲で共感を呼んでしまうほど増えてきている、ということなのか。

そんな、全体的な本作のイメージには反しているのだけれど、見合いの席で、彼女の父親(大杉蓮)が主人公のキャリアや覇気のなさを痛烈に批判するシーンが印象的だった。(その批判が、見ている私自身にも当てはまってしまって、イタかったので・・・)


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