蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

異性

2012年09月16日 | 本の感想
異性(角田光代 穂村弘 河出書房新社)

著者二人ともにファンなので店頭で見つけてすぐに買ったのだけれど、その店頭というのが大手書店のビジネス街にある大型店なのだけど、そこで売れ行きベスト10の棚の第2位だった(今年の5月頃の話)ので少し驚いた。
角田さんは売れっ子だけどベストセラー作家とまではいかないと思うし、穂村さんは(私は大ファンだけど世間での認知はいまだニッチレベル?かと思い込んでいたので。。。

恋愛を中心に男性視点と女性視点でそれぞれの行動類型を評価・批評しあう内容。
私としては穂村さん側により期待して読み始めたのだけれど、内容は角田さんのパートの方が(より)面白かったかな、という感じ。特に(商売としての)作家にめざめたとき、というエピソードがよかった。

出版社主催のWEBに連載したものだと、巻末にかなり小さい文字で書いてあるのは、「WEBで無料に読めたものだったのか・・・じゃあ買うのやめようかな」と感じる人が多いせいだろうか(実は私もそうだが、その小さな文字に気づく前に買ってしまっていた)。

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(日本人)

2012年09月16日 | 本の感想
(日本人)(橘玲 幻冬舎)

日本人特有のキャラは、東洋人のキャラに西洋風なモノの見方の味付けがされたものにすぎない、日本人の本性はそういう見せかけのキャラとはかけななれた世俗性にある、というのが、本書の主題(だと思ったが、違うかも)。

多くの部分が他の本からの(直接・間接の)引用なんだけど、紹介の仕方や語り口がクールで、楽しく読めた。

以下は備忘(章末のまとめのまとめ)

・「政治空間」(人間関係の共同体)と「貨幣空間」(カネのやりとりで繋がる市場)。グローバリズムは政治空間への貨幣空間の侵食。

・「日本人」のイメージは明治以降、西洋と接触によって形成された。

・脳は、因果律は処理できるけど確率的事象の処理は苦手

・進化心理学→感情はより多くの子孫を残せるように進化してきた。神の出現もその余波。それがやがて共有される幻想に。

・“俺たち”と“奴ら”の集団化と殺しあいは生得のもの

・農耕文化のエートス(行動文法)→閉鎖性、妥協、身分制、非歴史性。東洋人は集団や人間関係を重視し、西洋人は個や論理を重視する。

・日本人の世俗性(伝統性の反対。合理性、自己主張的)は一般的イメージと違って非常に高い(これは非常に(生存を脅かされない)快適な社会に住んでいることが原因のような気もするが)。

・世間体(空気)を気にしているが、そればかりではない。

・グローバリズム(自由貿易)はユートピア思想。グローバル化の特徴は退出可能性の確保(アメリカは社会そのものがグローバル。グローバルな正義とは法の支配)

・誰も責任をとらない会社は呪術的な無限責任の世界。(近代化されていない。契約社会になっていない)

・日本は省庁連邦社会。1940年体制(国家社会主義的統制経済)。改革を拒絶する守旧派は企業経営者と労働組合

・大停滞=容易に収穫できた果実を食べつくした

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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

2012年09月16日 | 映画の感想
ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

9.11で父親を失った少年の回復の物語。

父親は「ブラックさん」あてのメッセージと鍵を残していた。それが意味するものを解こうと、主人公の少年はニューヨーク中の「ブラックさん」を探し始める。
少年は病的に過敏で、9.11以来、テロを恐れて電車に乗ることもできない。しかし、「ブラックさん」を探索する過程で多くの人と接触していくことで彼の精神状態は改善されていく・・・という話。

ミステリ的味付けをねらっているのか、過去と現在を行ったり来たりする凝った物語構成になっているけど、「たいしたオチもない話を大袈裟にしているだけ」と思えなくもなかった。

当たり前のことだが、9.11は、アメリカとりわけニューヨークに住む人々にとって歴史や人生の屈折点になっていることを表現することには、成功していると思う。

主筋とは関係がない場面だが、ワールドトレードセンタービルに取り残された父親から母親のオフィスへ電話がはいり、母親のオフィスから煙を噴き上げるビルを見ながら話す場面が(日常の中に異形の破滅が侵入してきた、といいう感覚がうまく表現されていて)妙に印象に残った。

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象の消滅/めくらやなぎと眠る女

2012年09月16日 | 本の感想
象の消滅/めくらやなぎと眠る女(村上春樹 新潮社)

「東京奇譚集」がとてもよかったので、村上さんの短編集を読んでみた。

おしゃれでハードボイルドちっくな生活を送っている登場人物の生活にある種の“事件”が起きる。それによって主人公の人生が大きく変わることもあれば、小さな波紋をおこしただけでもと通りになっていく場合もある。

そうした“事件”は、現実には起こりえないような虚構性の高いものもあれば(TVピープル、氷男、踊る小人、貧乏なおばさん)、普通の人生でもありそうなこと(眠り、レーダーホーゼン、午後の最期の芝生、沈黙、トニー滝谷)もある。

虚構性が高い“事件”が起きる物語は、私の想像力が乏しいせいか、うまく物語の中にはいっていけず、読みづらいと思うものが多かった。
現実的な“事件”を描いた短編は、どれも面白く、楽しく読めたし、何がしかの教訓めいたものを得られることも多かった。

子供の頃は、苦みや辛味、酸味、といったより複雑な味覚になじめないけど、経験を重ねていくに従ってトマトやピーマンやセロリ、ビールが好きになる。そうなってみると単純な味しか受け付けない子供が未熟に見えてくる。
虚構性が高い話を楽しめない私は、物語の読み手として子供なんだなあ、と思った。
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