蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

象牙の箸

2012年08月02日 | 本の感想
象牙の箸(邱永漢 中公文庫)

少し前にお亡くなりになった邱永漢さんのグルメエッセイ。

中華料理のレストランの経営論みたいなのもけっこうあって、そのあたりは現在の状況(この本が書かれたのは昭和30年代)にはそぐわない内容もあったりするが、中華料理の作り方や楽しみ方は今でも全く違和感なく受け止められた。

素材のうまみをいかした料理というのは加工度が低いゆえにレベルが低い、というのが中華料理の考え方だそうで、素材をナマのまま使うのではなくて、いったん乾燥させたり、長時間煮込んだりするなどの手を加えるプロセスを増やして人工の味覚を作り上げるのが本当に格の高い料理だ、と著者はいう。

なるほど、いかにも中華思想だな、と思えた。

今、世界一と評されるデンマークのレストランは、素材をできるだけ加工しないというのがポリシーだそうで、現在のトレンドとはそぐわない考え方なのかもしれない。もっとも、このデンマークのレストランの料理を写真でみたことがあるが、正直にいってうまそうには見えなかったけれど・・・

著者は、直木賞受賞の小説家であり、バブル到来前にすでに「株の神様」などと称された経済評論家としても有名だけど、真骨頂は本書のようなエッセイにあったように思う。

そもそもタイトルがいいよね。「象牙の箸」というグルメエッセイと聞いただけで読んでみたくなりませんか?

コメント
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