蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

テロリズムの罠 右巻

2010年03月14日 | 本の感想
テロリズムの罠 右巻 (佐藤優 角川oneテーマ新書)

前半はロシア情勢の観測記。著者は同分野の専門家なのだろが、単調な解説にはなっていない。素人にわかりやすく、かつ、裏話的な要素ももりこんで興味を尽きさせないようにしているのが、感じられる。

後半は前半と全く関係がないマルクス経済学の解説みたいな内容。
WEBの連載記事を編集したもののせいか、本一冊を通して一貫性のようなものが感じられない。本書に限らず、著者の作品では引用がよくみられるが、本書も後半部分では、経済学者・滝沢克己の本からの引用が(いくらなんでもというほど)多い。
著者はあまりにも忙しすぎて、手抜きを図っているのではないかと疑いたくなってしまう。初出はWEBのようなので、分量を気にせず引用したのかもしれないが、本にするときは、もうちょっと要約してもらいたい。
マルクス経済学は、私の世代では見た事も聞いた事もない学問だけれど、それだけに新鮮な感じもあった。
社会的・経済的に疎外された状況から不安が生じる。
不安の偽りの処方箋が2つあり、一つはテロリズム(自殺は自分に対するテロだとする)、もう一つは国家を強化する運動に自己を埋没させるファシズムだとする。
そのような状況に陥らないように、簒奪の思想である資本主義を超克して贈与と相互扶助が経済の基礎に据えられた社会が形成されることが必要だとする。これが著者の主張と同一かどうかはよくわからないが、神学者としてのキャリアが色濃い著者の思想に近いものなのだろう。いささか古臭い感じだが。

一方で、外交官としてのリアリズムも備える著者は次のような、ある意味功利的な考えも披露している。
「「貧困」という形で、ある一定層が固定するところまでいってしまうと、同じ国を生きる仲間としての同胞意識がなくなってしまう。そういう国家は崩壊すると僕は思います。その点からすると極端な格差もよくない。先ほど「上流」は何をしているか分からない---とおっしゃっていましたが、まさに分断が起きつつあるのだと思いますね」(P187)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする