🔶日本を取り巻く国際情勢
① 中国
わたしは、10月21日に
「台湾海峡の危機!(米中戦争は?)」で、中国問題(特に台湾問題)を考察した。
現在、中国で重要な会議が開かれている。習近平の権力基盤の強化がさらに進むだろう。特に、米国などと鋭く対峙し、台湾海峡を巡る緊張が厳しくなる一方の国際環境下で中国国内の体制整備が一層進むことに間違いはない。
日本のメディアでは、中国批判が花盛り。戦前と同じで、どうやら本気で中国との戦争を考えている可能性が高い。
11月16日のTV朝日の大下容子ワイドスクランブルで、小谷哲夫明海大学教授(軍事専門家)が、敵基地攻撃能力について語っていた。現在の自民党右派や自衛隊幹部の国際状況認識が正直に語られていた。※
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/448357.html
小谷哲夫教授は、中国・北朝鮮のミサイルは、日本を標的にしている事を正直に認めていた。同時に、現代のミサイルは、固定したミサイル基地から発射されるのではない。となると、相手が攻撃する前に敵基地を攻撃する筝は難しい。だから、車や列車などでミサイルを発射する事を難しくするために、道路や鉄道などを攻撃すると語っていた。
これは、全面戦争に外ならない。こんな事が現憲法下でできるのか。完全な憲法9条違反。しかし、彼に言わせると、日本のミサイル攻撃は、自衛のためであり、中国・北朝鮮のミサイルは、日本を攻撃するためのものだから、9条違反にならないと言う。
これは詭弁に他ならない。古今東西、どこの国でも、戦争は常に「自衛戦争」だと言う。“自衛”を口実にして相手国を攻撃する。これが戦争の論理。大学教授とも思えない乱暴な議論。
彼の脳裏には、中国との戦争をどうするかで一杯なのだろう。彼の発言では、外交努力の必要性は何一つ語られなかった。今や、自民党右派や自衛隊、軍事評論家などの間では、対中国との戦争や北朝鮮との戦争は、自明の事なのだろう。
さらに、来年度予算で自衛隊予算をGDPの2%にするという。要するに、これまでの倍の予算を組む、というわけである。約10兆円。またぞろ米国のポンコツ武器を買うのだろうが、今回ばかりはよほど監視の目を厳しくしないと後世に禍根を残す。対中国との戦争が差し迫っているという現実が見えてくる。
さらに、岸田内閣では、国際関係での「人権問題」を担当する大臣まで作られた。これは米国の意向に配慮した人事に他ならない。
オリパラ開催前の森元首相の女性蔑視発言に代表されるように、自民党政治家と人権問題など、水と油ほどかけ離れたもの。現に、日本は、国連から「子供の人権」問題をはじめ、多くの人権問題に関する勧告を受けている。そんな自民党が国際的な人権問題を解決すべく動くなど臍が茶を沸かす。まず、国内の人権問題に取り組めよ、という話。
自民党や御用メディアは、中国共産党や韓国、北朝鮮を批判したり、揶揄したり、馬鹿にすることに熱心だが、こういう空気を醸成する事の危険性については語らない。この結果、上記のように明確に中国・北朝鮮を「仮想敵国」として認定し、中国・北朝鮮のミサイル基地をターゲットにし「敵基地攻撃論」を組み立てているのが明確に分かる。
日本の外交政策は、典型的“近攻遠交”方針。自民党内のタカ派である清和会が権力を握ってからは、この“方針”が目立つ。
※近攻遠交
https://kotobank.jp/word/%E9%81%A0%E4%BA%A4%E8%BF%91%E6%94%BB-38111
特に安倍晋三政権の中国封じ込め(米国の要請)政策がこの傾向に拍車をかけた。安倍政権の俯瞰外交とは、米国に代わって「中国包囲網づくり」を60兆円とも70兆円ともいわれる日本の税金を垂れ流して行ったと言うわけである。
そのため、隣国の中国・韓国・北朝鮮との外交関係はあまりうまく行かない。特に、韓国・北朝鮮は、大国中国との関係悪化は、即座に自国の安全を脅かす。中国の意向を無視して自国の生存は図れない。東南アジア諸国も同様。中国との関係には神経を使っている。中国抜きに自国の経済が成り立たない。
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●ASEANの対中・対米貿易比率
2019年の輸出では、インドネシアは(対中17%、対米11%)、マレーシア(同14%、10%)、シンガポール(同13%、9%)、タイ(同12%、13%)、フィリピン(同14%、16%)、ベトナム(同25%、26%)と「拮抗」または「中国優位」の状況。
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米国や日本が対中包囲網のクアッドへの参加を呼び掛けても、簡単には乗れない。
●韓国の20年輸出構造(JETRO資料)を見ると、対中国が25.9%、香港が6.0%だ。ASEANが17.4%、米国は14.5%、そして、日本は4.9%である。中国抜きに韓国経済は成り立たない。簡単にクアッドに参加できない。
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さらに言えば、中国が“一路一帯”政策を打ちだしてからは、中央アジア諸国も中国との関係に神経を使っている。その上に中国は「上海機構」を通じ、ロシアをはじめ周辺諸国との関係構築に力を注いでいる。
安倍政権が米国の意を受けて、莫大な金をばらまいた“中国封じ込め”(世界を俯瞰する外交)政策が失敗に終わったのは無理もない。
中国共産党は曲がりなりにも世界の覇権を争う大国の指導部。国際社会での立ち位置も心得た政策を提示している。習近平指導部の金持ちに対する厳しい取り締まり(贅沢な食事の禁止など)などは、中国民衆の反体制意識の軽減に役立っている。
日本では中国共産党内の勢力争いだと冷ややかな見方が主流だが、『共同富裕』をスローガンに掲げる習近平指導部の思想の表現でもある。
「コロナパンデミック以降の世界情勢1」(2021年10月のブログ記事)で、中国のコロナ後を見据えた六つの戦略を紹介した。
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(1)米国の中国敵視政策⇒トランプ政権以降の敵視策は、全面的で、バイデン政権でも続く。
↓ 米国の敵視政策(人的交流制限、最恵国待遇はく奪、ファーウエイの犯罪捜査など)
デカップリング政策(中国を米国から、経済的・政治的に切り離す)⇒米国の敵視政策を軽視しない。適切な防御策を講じる。
(2)新型コロナ対策⇒都市閉鎖・経済・交通の停止(世界的に続く)⇒世界市場の縮小
↓
世界的な輸出⇒中国国内と周辺地域での経済発展に転換⇒世界的な流通網の立て直し
(3)新型コロナの感染拡大は長期化する。人類はコロナとの長期共存を余儀なくされる。第2波、第3波がくる。
(4)米国(米ドルが世界の決済通貨を利用)⇒経済制裁⇒
SWIFTなどのドルの決済システムから中国を締め出す。
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防御策⇒人民元の国際化を急ぐ。⇒人民元で決済できるようにする。⇒ドルの単独覇権を破壊する
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ドルの将来⇒米連銀(FRB)のQE策が行き詰まった時、ドルの価値は下がる。
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人民元の国際化=人民元での決済を出来るようにするのが有利
(5)世界的な食糧難が起きる
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コロナ危機・イナゴ大発生(世界の食糧生産は30%減)
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トーモロコシ、大豆、小麦の国際価格⇒30~50%値上げ
↓
中国 世界最大の大豆の輸入国⇒影響大
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中国国内と国際的な農業や食料の流通備蓄の改善が必要
(6)コロナ渦で世界的にテロ防止策が棚上げ
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IS(イスラム国)やアルカイダといった国際テロ組織が再勃興してくる
↓
イスラム過激派⇒中国への敵視強める⇒上海機構、BRICS、ASEANの枠組みでテロ対策強化
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たしかに習近平指導部の強権的手法は日本から見れば眉を顰めるものが多いが、日本の10倍近い人口と50を超える多民族国家の中国を大きな内戦なしに統治するのは、至難の業。その難しさは、日本国の統治など足元にも及ばない。
統治の難しさを数値で言うならば、人口比の二乗に匹敵すると思う。人口が日本の10倍とするならば、統治の難しさは100倍になる、と考えたほうが良い。
こういう国家を統治するためには、為政者のグランドデザインを描く能力は必須の要件。知的レベルの低い人間で務まるわけがない。しかも、中国やロシアなどの国内権力闘争は熾烈。権力を失う事は、死を意味する場合が多い。文字通り、命を賭けた苛烈な権力闘争を生き抜いてきた人間だけが権力を握る。
スポーツの国際大会を見れば良く分かるが、国内競争が激しい国ほど、成績が良い。国内のレベルが低い国は、決して国際大会では通用しない。
中国のような苛烈な闘争を勝ち抜いてきた連中ばかりが集まるのが、世界の首脳会議。真実を語らず、何の哲学もなしに、嘘と騙しと利益誘導の選挙を勝ち抜いてきた連中に太刀打ちできるはずもない。
「似非権力闘争」と「体制翼賛メデイア」に守られた日本の指導者たちが、国際性を失い、世界の後進国に転落するのもやむ負えない。自民党の統治体制では、もはや日本は沈没するばかり。バラ色の未来など決して描けない。
② 米国との関係
米国の国内情勢は、バイデン政権に決して有利に働いていない。特に、アフガニスタン撤退の失敗は、バイデン政権の能力に疑問符をつけた。
以前、
「台湾海峡の危機」で指摘したように、米国を取り巻く国際状況もかなり厳しい。もう一度紹介しておく。
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🔶「米国の覇権のゆらぎ」
〇経済的理由(米国の製造業は壊滅状態。軍事産業とデジタルと金融が生命線)→デジタルも危うい(ファーウエイに対する濡れ衣などで悪あがき)→決済通貨としてのドルの揺らぎ、中国市場からの締め出しの危険性
〇世界的な「半導体」不足⇒現在世界の半導体市場を牛耳っているのは、米国と台湾。半導体の設計はインテルなど米国企業。生産は、台湾企業。もし、台湾が中国政府の支配下にはいると、中国が半導体市場を牛耳る。米国企業は設計は出来るが、生産が出来なくなる(商品が手に入らない)。このような事態は絶対阻止しなければならない。米国が台湾問題に固執する重要な理由。(半導体市場における米国覇権の維持)
〇軍事的理由→米国の圧倒的優位の時代は過ぎ去っている。ロシアの大陸間弾道弾にしろ、中国の海軍力の増強にしろ、簡単に米国有利とはいえない。
〇米世界戦略のほころび
① NATOの重要性が減る→ロシア封じ込めの綻び(ノルドストリーム2認める)
③ 東欧諸国への介入も徐々に減る
④ 中東問題への介入も撤退→中東問題への解決は、ロシア・中国の介入が大きくなる
④ イスラエル・サウジへの援助も徐々に減る→ロシアの比重が大きくなる
⑤ アフガニスタンからの撤退→タリバン幹部が中国訪問したことが象徴するように、中国の比重が大きくなる。
※これらをひっくるめて、米国の覇権が後退。中国の覇権の拡大と見る事ができる。上記の事実を受けて、戦略を変更。世界の多方面での米国の覇権の維持は不可能。現在、世界で一番危険性の増大している「アジア」における「覇権」を維持することを最優先する。
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台湾政府への武器売却。台湾のWHO加盟への後押し(一つの中国の原則見直し)。第七艦隊を南シナ海派遣。台湾、米日豪などが参加した大規模訓練など。
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以前より、わたしは、覇権の交替期が日本にとって最も危険な時だとしてきた。この後退期をうまく乗り切らないと、21世紀日本の未来はないと考えたほうが良い。
米国の【覇権力】の減退は、日本の国際力のさらなる減衰を招く。現在の日本経済の衰退は、1985年以降、米国や欧州が日本経済を主要ターゲットにして、国際経済のルール変更を行ってきたのが最大の原因。(※
前川レポート)
米国が覇権国家である理由は、このような国際ルールを作る立場にあると言う事。国際的な【ルール・メイキング】を行い、それを各国に守らせる力こそ覇権国家が覇権国家であり続けられる理由。いわゆる【グローバル スタンダード】と呼ばれるルールは、常に【アメリカン スタンダード】の側面を持っており、米国中心の世界秩序の根幹になっている。
上の「前川レポート」や「プラザ合意」以降、日本国内で「グローバル スタンダード」とか「世界基準」などの言葉が語られ、日本的労働環境が破壊され始めた。
バブル経済が進行、橋本内閣の総需要抑制政策でバブルが崩壊。以降、日本経済は世界経済の中心に浮上する事はなく、多くの指標がODA各国の下位に低迷したままである。
国際的なルール・メイキングに参加できず、米国に隷従する事によってのみ政権を担ってきた自民党を頂点とする日本の政官業の「旧体制」こそが、日本経済衰退の最大の理由である事を忘れてはならない。
その結果、今や日本と米国は運命共同体。「米国がくしゃみをすれば、日本は風邪をひく」という警句は、現在も健在である。
そのため、米国の【覇権力】の減退は、日本の国際力のさらなる減衰を招く。国際関係から見ても、日本の沈没は、目の前に来ている。TBS系列で放映されている「日本沈没」の人気は、日本の未来に漠然とした不安を抱いている国民の心象風景が投影されていると読まなければならない。
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🔶新しい同盟の創設
◎AUKUSの創設 :米国、英国、豪州は、今年(2021)9月15日に新たな中国包囲網の一環としての軍事同盟。基本的には、アングロサクソン同盟。見方を変えれば、中国に対する【宣戦布告】とも受け取れる。
(※ AUKUSは中国に対する犯罪的臨戦態勢: マスコミに載らない海外記事
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2021/10/post-fb780f.html)
豪州の原潜建造計画(仏との軋轢を生んだ)は、米国の中国封じ込め政策の一環。豪州の中国敵対政策→中国と豪州の貿易問題を引き起こしている。(中国が豪州との貿易制限をしている)
→本心では、豪州は中国と対立したくない。→米国の中国封じ込め政策に協力を求められたのが要因。→米国の狙いは、豪州を中国との敵対関係の前面に押し出し、代理戦争をさせようとしている。→豪州は損な役回りを押し付けられている。
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10月3日(2021)台湾の呉燮外相が「中国が台湾に侵攻してくる可能性が高まったので抗戦の準備を始めなければならない。豪州に協力してほしい」と豪州のTVで述べる。⇒公式には初めての発言。
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この話の持つ意味は大きい。一つは台湾政府が本気で武力衝突の危険性を心配している事。それだけ情勢が逼迫していると言う事だ。他の一つは、その場合、中国との戦争に関与するのが豪州と言う事を意味している。
※この話。豪州だけではない。米国は、日本にもかなりの期待をしている。
◎クアッド
日本の安倍首相の提案と言う形になっている組織。
「Quad」(クアッド) ⇒日本、米国、豪州,印度の4ケ国が安全保障などで協力する仕組み。
日本・米国・豪州・印度4ケ国の「戦略対話」(Quadrilateral Security Dialogue)の略。
・目的⇒『自由で開かれたインド太平洋』 FOIP (Free and Open Indo-Pacific)に向けた関係強化 ⇒現実には、中国包囲網
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このように見てくると、米国は、台湾危機での豪州・日本の役割に非常に期待している、というより期待せざるを得ない。特に、日本の役割は決定的に重要。バイデン大統領が岸田首相との会談を急いだのは、日本の役割が決定的に重要だという裏返し。今回の自衛隊予算の倍増や「人権外交」重視を唐突に打ち上げたのも、米国の要望がかなり厳しいものだったのだろう。
さらに言えば、自民党総裁選の電波ジャック以降のメディアの報道姿勢。維新への異常な肩入れ。国民民主党の野党共闘への不参加。選挙後の反共産党論調の拡大、「野党共闘路線」への批判拡大。「反中国」キャンペーンの拡大。憶測にすぎないけれど、背後に米国の意向を感じるのは私だけではないと思う。
現在は、北京オリンピックに対する政治的ボイコットにまで話が拡大。米国・英国のアングロサクソン連合の意向が、日本にも影響を与えざるを得ないだろう。ただし、簡単に米国に追従すると、貿易額が一番大きい対中国貿易に甚大な損害を与える可能性があり、そう簡単に追従するわけにはいかず悩ましい問題になるだろう。
このように、日本は、好むと好まざるとにかかわらず、米中という大国の狭間で生きていかざるを得ない。古来より、「覇権国家」というものは、高飛車で、傲慢で、理不尽で、自分勝手で、「地球は自分を中心に回っている」と考える存在である。善悪の問題ではなく、「覇権国家」というものはそういうものだ、という認識が必要。
と言う事は、岸田内閣が「戦争準備政策」を行わなかったら、内閣が持たない。はや自民党内で、岸田首相に退陣勧告をしようという動きが出始めている。
防衛費倍増も平和憲法改悪も、こういう米国の意向とそれを受けた米国隷従派(自民党内右派)の要求を受け入れなければ、たちまち政権基盤が揺るぐ岸田内閣の立ち位置の表現に過ぎない。
太平洋戦争前の近衛内閣と相似形である。岸田内閣の後には、戦争遂行内閣である「東条内閣」の誕生が待っていると読まなければ、現在の政治状況は理解できない。
「護憲+BBS」「政権ウォッチング」より
流水