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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「野中広務 差別と権力」(著:魚住 昭)

2009-09-17 22:04:50 | 【書物】1点集中型
 この国の歴史で被差別出身の事実を隠さずに政治活動を行い、権力の中枢にまでたどり着いた人間は野中しかいない。
(「エピローグ」より)

 野中広務氏が、政治家としての終焉を迎えるまでを辿るノンフィクションです。なんでこの本を読もうと思ったのかが思い出せないんですが。(笑)
 そんな調子ではありましたが、まず最初に差別は遠い昔のことではないのだと改めて知らされました。地方によっては、学校で「」の授業があったりするのも事実だし(ただ個人的には、身近に問題があったわけではないので、当時はあまり現実味を感じられなかったのも事実)。

 不当な差別はなくさねばなりません。不当に奪われてきた権利はちゃんと人々のもとに返さなければいけない。でも、被差別=貧困という簡単な図式に画一化される時代でもない。だからただなんでも保護をすればいいというものではない。「の労働者から自助努力の意志を奪い、差別を助長する」ことを野中氏は嫌いました。それがつまり「差別が新しい差別を呼び起こす」ことになり、さらに被差別出身者への世間の憎悪につながることになる。

 ただ単純に、差別のない世の中にしたかっただけ。誰もが、自分ではどうすることもできない「出自」に左右されずに、がんばった分だけ幸せになれる世の中にしたかった。基本的人権のいちばん最初とも言えるであろうたったそれだけのことが、野中氏が政界を去った今も成し遂げられていないのです。
 だからこそ、出自を明らかにしたままどんどん階段を上がって行った野中氏の想いたるや、すさまじいばかりだったと思うのです。誰にでも好かれるような政治家ではなかったかもしれませんが、目標は明確だった。

 政界引退を決めた2003年、最後の出席となった党総務会での、野中氏の最後の発言。

「総務大臣に予定されている麻生政調会長。あなたは大勇会の会合で『野中のような出身者を日本の総理にはできないわなあ』とおっしゃった。そのことを、私は大勇会の三人のメンバーに確認しました。君のような人間がわが党の政策をやり、これから大臣ポストについていく。こんなことで人権啓発なんてできようはずがないんだ。私は絶対に許さん!」
(「エピローグ」より)

 政治の中枢で今なお根強い差別。自分がどこでどう生まれたかにまで責任を持つことができる人間がいるはずはないのに、こんな発言ができる人が首相をやっていたという事実。選挙が終わってからで何なんですが、それこそ今さら暗澹としました。そして、もし野中氏が政治の頂点に上っていたら……と思いをいたさずにはおれないのでした。
 とはいえ、野中氏が本当に首相になれる日本の政界であったら、そもそもこのような麻生発言があるわけがないのですが。

 2週間の貸出期限内(笑)では熟読とまでは至らなかったのですが、いつかじっくり腰を据えて読み直してみたい本です。


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