音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ 絶対音感について ■■

2007-12-24 15:56:05 | ★旧・私のアナリーゼ講座
2006/12/5(火)

★数日前、私は、音大や音高志望者のご本人、ご両親、先生を対象とした

講座に出席しました。

ソルフェージュについて、あるお母さまから質問を受けました。

「3人の子供のうち、音楽の好きな一人が、音大進学希望です。あとの2人は、絶対音感があるのに、

音大希望の子供だけ、絶対音感がありません。大丈夫でしょうか」という内容でした。

私は「絶対音感は、もっていますと便利ではありますが、不可欠なものではありません。

お子さんは、相対音感(移動ド)で音を聞いていると思われます。

すなわち、楽曲がすべてハ長調、または、イ短調に移動して聞こえる、ということです。

これは、西洋音楽が身に染み付いているということです。

大変に音楽的な方なのですから、自信を持って勉強を続けてください」とお答えしました。


★<絶対音感>とは、なんでしょうか?

例えば、NHKの時報で聞かれる<ラの音>、1点イ音のピッチ(音高)を、

記憶して聴き分けられるか、ということです。

その<ラの音>から、短3度上の<ドの音>2点ハ音が、ピアノで奏されたとき、

即座に<ド>とこたえられるか、ということでもあるのです。

しかし、その基準となる1点イ音も、実は、ピッチがまちまちなのです。

NHKの時報「ポ、ポ、ポ、ポー」の最初の低い「ポ」音は、440ヘルツです。

しかし、現在のピアノは、普通、442ヘルツに調律しています。

さらに、オーケストラでは、さらに高く調律することもあります。

絶対音感の人たちは、これらをすべて、聴き分けているのでしょうか???

質問された方のおっしゃった「絶対音感」とは、<ラ>に近い音がそれなりに分かる、

ということを、指していらっしゃるのだと思います。


★「大雑把に」いいまして、バロック時代は、

ピッチが、現在より約半音(短2度)低かったと、いわれます。

(これも、諸説あり、本当のところは不明ですが・・・)

約半音とした場合、バロック時代の調律で、

ハ長調の<ド、レ、ミ、ファ、ソ>を演奏しますと、

現代のロ長調の<シ、ド♯、レ♯、ミ、ファ♯>と聴こえます。


★私は、昨年、バロック時代の調律をしたチェンバロの作品を書きました。

バロック調律のチェンバロを使って作曲しました。

私は、いわゆる「絶対音感」をもっていますので、

作曲中に、≪ドの鍵盤を押して出たこの音は、一体、ドなのか、シなのか≫と、

混乱したものです。

しかし、暫くしますと、低い調律になれてしまいます。

この時点で、いわゆる<絶対音感>が“消えた”、と言っていいのかもしれません。

チェンバリストの中には、「毎日、バロック調律など現代と異なる調律の楽器を弾くため、

<絶対音感>をなくした」という方もいらっしいます。

しかし、全く、不都合はありません。


★つまり、『絶対音感』という言葉が怪物のように一人歩きして、あたかも、

特別に重要であるかのように、錯覚させられていることが、問題なのかもしれません。

『絶対音感』という言葉に惑わされるのは、もういい加減に止めにしたいものです。



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