音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ブラームスの間奏曲Op.177-2は、インヴェンション 第 11番から■

2011-10-30 17:44:46 | ■私のアナリーゼ講座■

■ 横浜 ≪ 第 11回インヴェンション講座 ≫  第 11番 ト短調 ■
                  ~ブラームスの後期ピアノ作品に、及ぼした影響~ 

                                       2011.10.30          中村洋子

 

          


★カワイ・横浜 「 みなとみらい 」 での、

第 11回 「 Bach バッハ・ Invention インヴェンション 

analyze アナリーゼ講座 」 は、

Nr.11 g-Moll 第 11番 ト短調 です

明るく爽やかな Nr.10 G-Dur  10番 ト長調 とは、対照的に、

内省的で、メランコリックな曲です。

 

★面白いことに、11番 Invention は、10番 Sinfonia と、

 11番 Sinfonia は、10番 Invention と、

たすき掛けのように、主題同士が、緊密に絡み合っています。

このように、「 Inventionen und Sinfonien 

インヴェンションとシンフォニア 」 全 30曲は、

一つの 「 大きな変奏曲 」 と、みることが可能です。

 

 


11番インヴェンションは、全音階と半音階の対比にのみ、

目を奪われがちですが、実は、

大変に豊かな和声が、隠れています。

この和声を切り取り、 “ 自分の和声 ” として、

生涯にわたって “ 宝物のように ” 使ったのが、

 Robert Schumann ロベルト・シューマン

(1810~1856)でした。

 


★そのシューマンを師とした Johannes Brahms

(1833~1897)ブラームスは、バッハの変奏曲法を、

徹底的に学び、それを基に、

彼独自の変奏曲様式を、作り上げました。

彼はシンフォニア11 番、特にその 「 掛留音 」 を、

こよなく愛していました。

 

★晩年の傑作である 「 三つの間奏曲

Drei Intermezzi op.117-2  b-Moll 」 に、

それが色濃く、反映しています。

バッハの非和声音を理解することは、そのまま、

ブラームスを、理解することにつながります。

 

 


■今回は、バッハが後世に与えた影響の一例として、

ブラームスを取り上げますが、それは同時に、

バッハをより深く、理解する方法でもあるのです。

さらに、インヴェンションとシンフォニア全 30曲のなかで、

この 11番が占める位置と、意味についても、

詳しく、お話いたします。

 

★曲の構成を、詳しく理解することによって、

バッハを弾くことが、心から喜びに満ちたものとなり、

自信をもって弾くことが、可能になります。

  --------------------------------------------------------

講師:中村洋子

 日時: 2011 年 11月 23日(水)祝日  午後 2時 ~ 4時 30 分

会場: カワイミュージックスクール みなとみらい

会費: 3000 円 (要予約) Tel.  045 - 261 - 7323 横浜事務所

 

 

                     ※copyright © Yoko Nakamura
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■29日の横浜・講座は、 Invention 10番と フランス組曲 5番との関係■

2011-10-27 23:41:08 | ■私のアナリーゼ講座■

■29日の横浜・講座は、 Invention 10番と フランス組曲 5番との関係■

                                                2011.10.27  中村洋子

 

★昨日26日は、名古屋カワイで、第6回目の、

「インヴェンション・アナリーゼ講座 」 を開催いたしました。

Pianoは、前日に一回目の調律がされ、当日も、

朝早くから、2回目の調律をしていただきました。

完璧に調律されたPianoは、とても気持ちのよいものです。


★講座では、 Invention インヴェンション 6番と、

Mozart モーツァルトのピアノソナタ C-Dur KV545

との関係を、お話しました。


★次回の2012年2月 29日( 水 ) は、

「インヴェンション&とシンフォニア 7番 」 と、

Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827)

「 エリーゼのために 」 との関連を、お話します。

これは、既にカワイ・表参道でお話しましたが、大変に好評でした。

 

 


29日 ( 土 ) は、「カワイ横浜みなとみらい」で、

「 第 10回インヴェンション・アナリーゼ講座 」 です。


インヴェンション&シンフォニア 10番は、ト長調 G Dur ですが、

同じト長調 G Dur の 「 Französische Suite Nr.5 フランス組曲 5番 」 と、

多くの、共通点が見出されます。

Bach の手稿譜といわれる 、フランス組曲 5番の

「 manuscriptから分かることも、じっくりと、お話したいと思います。


フランス組曲 5番の第1曲目 「 Allemande アルマンド 」 の

1小節目 1拍目には、ト長調 G-Durの 「 主和音 」 が、

内声に 「 分散和音 」 でまず、提示されます。

第2曲目 「 Courante クーラント」 の、第1小節目は、

G-Durの 「 主音 g2 」 から、一気に音階を駆け下ります。


1曲目で主和音を提示し、2曲目で音階により、それに応える、

という手法は、当ブログで、Bach  「 Suiten für Violoncello solo

無伴奏チェロ組曲 」 1番と 3番の関係でも、ご説明しました。


★また、 バッハの 「 Inventio und Sinfonia 

インヴェンションとシンフォニア 10番 」 の直筆譜を、

勉強することで、私が発見した、たくさんのことを、

お話しますが、最も驚きましたのは、

インヴェンションとシンフォニアの前半16小節までが、

全く同じレイアウトで、記譜されている、ということです。

「 小節が、途中で切断されている 」 所まで、全く同じです。


★ご存じのように、インヴェンション 10番のテーマは、

「 分散和音 」 から、できています。

シンフォニア 10番のテーマは、 「 音階 」 から、できています。

ここから見えてくることを、どう演奏に活かすか

具体的にピアノで弾きながら、耳で体験していただきます。

 

 

                    ※copyright © Yoko Nakamura
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■ Mozart Klaviersonate の源泉も Bach - その2 ■

2011-10-24 23:27:41 | ■私のアナリーゼ講座■

■ Mozart ピアノソナタ の源泉も Bach - その2 ■

                         2011.10.24   中村洋子

 

 

★「 Invention インヴェンション 6番 」 の、右手上声は、

e2→ dis2→ d2→ cis2  ( ホ→ 嬰ニ→ ニ→ 嬰ハ ) という、

半音階進行で、始まっています。

E-Dur の 「主音 」 から、始まる半音階です。


★この半音階に、 Edwin Fischer  エドウィン・フィッシャー  は、

二通りの Fingering を、記入しています。

一つは ≪ 「 4 3 1 3 」 ≫ で、もう一つは、

≪ 冒頭の e にのみ 「 5 」 を付し、

e2→ dis2→ d2→ cis2→ h の 「 h 」 に 「 1 」 ≫

 という、指定です。      


★最初の ≪ 「 4 3 1 3 」 ≫ を、注意深く弾いてみますと、

 「 e - dis 」 と 「 d - cis 」 の二つに、この半音階が、

分解できることが、分かります。

和声進行の内容に、ぴったりと合っています


★他方の、 「 5 」 と 「 1 」 のみ書かれているものは

当然 「 5  4  3  2  1 」 と、なりますので、

≪ 大きく、一つにとらえる ≫ ということに、なります。

このどちらで弾いても、尽きない魅力があります。

≪Bach は、こう弾かなければいけない≫ 

ということは、ないのです

 

 


★カワイ名古屋での 「 アナリーゼ講座 」 では、 

 Mozart モーツァルト ピアノソナタ ハ長調

Klaviersonate  C-Dur KV 545 の、

いかにも、 Mozart 的な半音階である、

13、14小節目の左手で奏される  「 cis1  c1  h 」  が、

Bach の半音階と、どう違うのかを、お話いたします。


★さらに、 Mozart がいかに深く、 Bach を勉強していたか・・・、

それを、よく示す例として、

KV 545 の、有名な Sequenz ( 反復進行 ) が、

Bach の Invention Nr.6 、Nr.14

インヴェンション 6番や 14番、

Französische Suite Nr.5 フランス組曲 5番などの中に、

そのままの形で、見つけることができます。

この点につきましても、講座でご説明いたします。

 


                ※copyright © Yoko Nakamura
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■Mozart Klaviersonate の源泉も Bach ■

2011-10-23 21:39:37 | ■私のアナリーゼ講座■

■ Mozart ピアノソナタ の源泉も Bach ■
   ~10月26日は、名古屋カワイでインヴェンション講座~

                                      2011.10.23  中村洋子

 

 

10月26日は、名古屋カワイで、第 6回の

「 Invention インヴェンション・アナリーゼ講座 」 を、開催します。

http://shop.kawai.co.jp/nagoya/lecture/nakamura.html


Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 ) の音階が、

いかに素晴らしいかは、 2011年 10月 11日 のブログ

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/8774c64fe84349311e67ee2bb173391f

で、ご説明いたしました。


★その E-Dur の音階 「 e - fis - gis - a - h - cis1 - dis1 - e1 」 が、

ちょうど、インヴェンション 6番の 「 主題 」 となっています。

何気なく弾いていますと、見落としてしまいますが、

Bach  は、周到な手順と準備の下に、

このインヴェンション 6番で、やっと、

 e音 ( かたかなホ音 ) を起点に、e1音 ( 1点ホ音 ) に至る、

 E-Dur  ( ホ長調 ) の上行(全)音階 を、

堂々とした 「主題」 にまで、成長させました。


★  「 Suite für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲 」 の、

1番と 3番の関係を、インヴェンションの 1番と 6番においても、

はっきりと、見ることができるのです。

 ≪ インヴェンション 1番は、主和音が主題の核となり、

 6番では、1オクターブの音階が主題となります。 ≫

インヴェンションでは、1番 C-Dur と 6番 E-Dur は、

3度の関係にあります。

(この 3度の関係につきましては、次回の平均律アナリーゼ講座で、

Chopin 幻想ポロネーズを例に、詳しく、解説いたします)

★そして、冒頭 1小節目の、このホ長調の音階テーマに、

ぴったりと寄り添っている 「 対主題 」 は、

 e2  ( 2点ホ音 )を、開始音とする、 「 下行半音階 」 から、

始まるのです。


★どちらが、  「主題 」 は 「 対主題 」 であるか、

判別できないほど、両者は、独立しており、

同時に、全音階と半音階で、一つの世界を、見事に作っています


★つまり、 「 インヴェンション 1番 」 から始まった、

バッハの大きな設計が、ここで、一度完結しているのです。

 

 


★それは、この曲集で、

5番 Es-Dur  ( 変ホ長調 )、 6番  E-Dur  ( ホ長調 ) と、

≪ なぜ唯一、長調が連続しているか ≫ 、

ということに、明白に、結びつくのです


★この全音階と半音階との関係を、見抜き、

作品で、徹底して追及したのが、Wolfgang Amadeus Mozart 

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)でした。

ピアノを習った方は、誰でも一度は弾き、知らない人はいない、

「 ピアノソナタ 16番  Klaviersonate  Nr.16 C-Dur K545 」 は、

底知れない魅力と、魔力をもった曲です。

1788年6月に、作曲されています。


★モーツァルトは、同じ頃、三大交響曲

39番 Es-Dur K543 ( 6月 ) 、

40番 g-Moll K550 ( 7月 ) 、

41番 ( Jupiter  ) C-Dur  K551 ( 8月 ) も作曲しています。

その ≪ 全音階、半音階がいかに、Bach 由来であることか! ≫

これは 「 偶然 」 では、ありません。

 

 


★  Klaviersonate Nr.16  K545  第 1楽章 1小節目の、

右手の 「 c2 - e2 - g2 」 。

だれもが口ずさむ、この単純な 「 ド ミ ソ の Fingering 」 を、

なぜ、 Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886 ~ 1960) が、

 「 2 - 4 - 5 」 と、したのか?


★Bartók Béla  バルトーク (1881~1945) 校訂の、 

「 Sonaten für Klavier モーツァルト ソナタ全集 」

Editio Musica Budapest  ( 全 2巻 ) は、

第1巻 第1曲目に、なぜ、

この Klaviersonate  Nr.16 C-Dur K545 を、配置したのか?


★バルトークは、第 1楽章 2小節目の左手 

「 d1 - g1 - f1 - g1     c1 - g1 - e1 - g1 」  の、

単純に見える、伴奏音型の

「  d1 - g1 - f1 - g1   」 の 「 レ  ソ ファ 」 に、 「 4 1 2 」、 

「  c1 - g1 - e1 - g1 」 の 「 ド ソ ミ 」 に、 「 5 1 3 」 と、

当然すぎる Fingering を、なぜ、

わざわざ、書き記したのでしょうか?


★ Fischer フィッシャーと、 Bartók バルトークの校訂版を、

読み解きますと、彼らから、

丁寧な 「 Mozart についてのレッスン 」 を、

直接に、受けているような気持ちになり、

“ ああそうだったのか!!! ” と、得心のいくことばかりです。


★≪ Mozart の真髄を知るためには、Bach を勉強する ≫

という、永遠の真理が、また、見えてきました。

これらの点について、名古屋で詳しくお話いたします。

 

 


             ※copyright © Yoko Nakamura

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■Chopinは、平均律1巻18番を学び尽くして「 幻想ポロネーズ 」を完成■

2011-10-21 18:17:54 | ■私のアナリーゼ講座■

 ■  第 18回 平均律アナリーゼ講座 のご案内 ■ 

※ ショパン は、平均律 1巻 18番を学び尽くして 「 幻想ポロネーズ 」 を完成

※ 第 18番 は、最終曲「 24番 h-Moll 」 に向けて、歩み始める

                             2011・10・21 中村洋子

 

 

★次回の、平均律アナリーゼ講座は、

Johann Sebastian Bach  バッハ ( 1685~1750 ) 

 「  Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 1巻 18番 」 です。

「 18番 プレリュード 」 は、わずか 29小節です。

一見、単純な 「 3声 」 に見えるため、

侮ったように 「 3声のインヴェンション 」 と、

あっさり片付けている解説書が、流布しているようです。

しかし、そうではありません。

そのような解説書は、「 インヴェンション 」 も、

理解していないといえます。


★通常ですと、 17番が 変イ長調 ( As-Dur ) であるため、

18番は 「 変イ短調 ( as-Moll ) 」 となるはずです。

しかし、バッハは、 異名同音調である

「 嬰ト短調 ( gis-Moll ) 」 と、しました。

なぜ、バッハがそのようにしたのか?

それを、徹底的に考え抜き、自分の作品に反映させたのが、

Frédéric  Chopin ショパン (1810~1849) なのです。

 

 


★ ショパンの、「 幻想ポロネーズ 

POLONAISE-FANTASIE Opus.61 」(1845~46 )  は、

 「 As-Dur 」  の調号をもつ曲ですが、 17小節目で早くも、

 異名同音同主短調の 「 gis-Moll 」  に、転調します。

≪ バッハの手法 ≫ です

ショパンは、実に 1年半もの長い期間をかけて、

この曲を、作っています。


★平均律 1巻の 17番と 18番 は、Motiv を共有し、

お互いに “ 見つめ合っています ” 。

そして、この曲が目指していくのは、

最後の、感動的な 「 24番 h-Moll 」 なのです。 

「 幻想ポロネーズ 」 も、 132小節目から、

  「 h-Moll 」 に、転調しています。


★ショパンは、18番から、調の関係だけでなく、

和声についても、深く学び、それをさらに発展させた、

 “ バッハ由来の和声 ” を、見事に 「 幻想ポロネーズ 」 に、

散りばめています。

真のショパンを演奏する “ 近道 ” は、

バッハを、学ぶことです。

 

 

            ■ 第 18回 平均律アナリーゼ講座 ■

 

■日 時 : 2011 11月 29日(火午前 1012 30

■会 場 : カワイ表参道 2F コンサートサロン・パウゼ

■会 費 : 3000円 ( 要予約 ) Tel.03-3409-1958

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

              ●第 19回 平均律アナリーゼ講座 

 ■2012年 1月 17日 ( 火 ) 午前 10時 ~ 12時 30  

       平均律第 1巻  19番 イ長調 A-Dur

※ Beethoven ベートーヴェン ピアノソナタ 28番

                     Opus.101 との密接な関係

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■講師:作曲家 中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。

 日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

 
2003
年~ 05年:アリオン音楽財団《東京の夏音楽祭》で新作を発表。

07年:自作品 「 無伴奏チェロ組曲第 1番 」 などを

    チェロの巨匠W.ベッチャー氏が演奏した

        CD 『 W.ベッチャー日本を弾く』 を発表。

08:CD「 龍笛&ピアノのためのデュオ」、

    CD ソプラノとギターの 「 星の林に月の船 」 を発表

0809 :「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座

                              全 15回を開催。

0910:「 無伴奏チェロ組曲第 2 」が、W.ベッチャー氏により、

     ドイツ・マンハイムで初演される

 

10:「 無伴奏チェロ組曲第 1 」 が、ベルリンのリース&エルラー社

     Ries &Erler Berlin から出版される。

CD 無伴奏チェロ組曲第3番、2 W.ベッチャー演奏を発表

レーゲンボーゲン・チェロトリオス( 虹のチェロ三重奏曲集)」 が、

ドイツ・ドルトムントのハウケハック社

   Musikverlag Hauke Hackから出版される。

スイス、ドイツ、トルコの音楽祭で、自作品が演奏される。

101月より:バッハ・平均律クラヴィーア曲集第 1巻の

   全曲アナリーゼ講座を、カワイ表参道で開催中。

 

2011 4 :「 10 Duette fur 2 Violoncelli

     チェロ二重奏のための10の曲集 が、

     ドイツの Ries & Erler Berlin 、リース&エアラー社

     から出版される。

 

● 上記の楽譜とCDは、

 「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/

「 アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/

                                    で、販売中。 

 

 

 

                                 ※copyright ©Yoko Nakamura
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■J. S. Bach バッハ の隠れた先生は、パッヘルベル■

2011-10-19 23:57:07 | ■私のアナリーゼ講座■

■ J. S. Bach  バッハ の隠れた先生は、パッヘルベル ■
                    2011.10.19    中村洋子

 

                                ( 椿 )


21日の、カワイ表参道 「 平均律アナリーゼ講座 」 では、

Georg Friedrich Händel ヘンデル (1685~1759) の

「 シャコンヌ Chaconne G- Dur HWV 435 」 と  J. S. Bach  バッハ の
 
「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 17番 」 

との関係を、お話いたします。

ヘンデルのこの名曲は、8小節のシャコンヌを主題とした

 「 20の変奏曲 」 で、よく、知られています。


★ Chaconne については、あまり専門的にはならず、

毎日のレッスンで、いかに、楽しみながら、

取り入れていくことができるのか、それを、

お話したいと、思います。

 

 


★日本でのピアノレッスンは、まず、

J. S. Bach  バッハ の小品を、数曲勉強したのち、

直ぐに、 「 Inventionen und Sinfonien 

インヴェンションとシンフォニア 」 に、入る傾向が強いようです。

しかし、インヴェンションの内容の深さを考えますと、

少々、厳しい面が、あります。


★その意味で、ヘンデルの 「 シャコンヌの変奏曲 」 は、

親しみやすく、曲想も力強く、明るくおおらかです。

変奏曲の全 20曲を、まとめて弾かなくても、

興味のある変奏曲を、取り出し、

それを、弾いてもいいかもしれません。

この ヘンデルを弾く前に、もう一人、

素晴らしい作曲家が、います。

 

 


★Johann Pachelbel ヨハン・パッヘルベル(1653~1706)です。

パッヘルベルは、ニュルンベルクで生まれた、作曲家・オルガニストです。

1677年 アイゼナハの宮廷オルガニスト ( Org. am Hof zu Eisenach ) 、

翌1678年からはエアフルトの伝道者教会

Predigerkirche zu Erfurt のオルガニストとなり、

1690年まで、その地位にありました。


★「 アイゼナハ 」 や 「 エアフルト 」  という地名を見て、

ハッとされた方が、いらっしゃることでしょう。

そうです、彼は、J. S. Bach  バッハ の父の Johann Ambrosius Bach

 ヨハン・アンブロジウス・バッハ (1645~1695) と親しく、

J. S. Bach  バッハ の姉の Johanna  Juditha  Bach (1680~1886)の

Taufpate  ( 名付け親 代父 ) となり、バッハの長兄の、

Johann Christoph  Bach ヨハン・クリストフ・バッハ  (1671-1721) を、

教えた人です。


J. S. Bach  バッハ は、10歳で父と死別しました。

 その後、オールドルフに住んでいた長兄に、引きとられます。

幼少時は、父や一族に育まれたJ. S. Bach バッハ でしたが、

長兄と同居後は、その兄が先生となりました。

その兄の師が、パッヘルベルなのです。

 

                                                                  ( 菊 )


パッヘルベルといえば、

「 カノン Canon e Gigue für 3 violinen und Bass 」 が、

有名ですが、膨大な素晴らしいオルガン作品も、

残しています。


★パッヘルベルの 「 Ciacona con variazioni C-Dur 」 は、

4小節のシャコンヌ主題に、やさしい 「 24の変奏曲 」 が続きます。

原曲はオルガン曲ですが、Schott社から ピアノリダクションが、

発刊されています ( ED 09877 )。

ほとんど、原曲どおりで、音も変わらず損ねていません。


曲想は、やわらかく、デリケートで、どこか懐かしく、

そう、あの 「 カノン 」 と、よく似ています。

J. S. Bach  バッハ は、このような曲を勉強して育ったのです
 

★是非、小さいお子さんに、

「 バッハの先生 」 が作曲した曲を、弾かせてあげてください。

ヘンデルのシャコンヌと共に、

インヴェンションの前段に、ふさわしい曲です。

講座で、実際に、そのどこか懐かしい音楽をお聴きください。

 

 

                        ※copyright ©Yoko Nakamura                      

▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■2011/10/21 仏 ニースで、私の作品が、舞踊とともに演奏されます■

2011-10-18 19:41:59 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■2011/10/21、フランス・ ニースで、私の作品が、舞踊とともに演奏されます■
                                                       2011.10.18   中村洋子


★2011・10月は、東京 ( 21日 )、名古屋 ( 26日 )、横浜 ( 29日 )と、

3回のアナリーゼ講座を開催しますので、準備に忙しい毎日です。


★本日、 Berlin ベルリンの Wolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生から、お手紙が届きました。

先生は、この夏、ヨーロッパ各地で、チェロのマスタークラスを開講され、

さらに、先月は、北京で 「 弦楽四重奏・国際コンクール 」

http://www.bjimc.cn/english/2011jury.html の、

審査委員長を務められるなど、お忙しい毎日でした。


★やっと、ベルリンに帰宅されたそうで、

「 Now  I start to work hard on your Suites 4、 5、 6. 」

これから、私の 「 無伴奏チェロ組曲 4、5、6番 」 を、

猛勉強される、そうです。


★お手紙には、France フランスの Nice ニースで、

10月 21日 ( 金 )、私の作曲作品が、舞踊と一緒に演奏される

という案内パンフレットが、同封されていました。


★Creation 2011 -  Festival AVIGNON Off

KALEIDOSCOPE

 

Compositions de Yoko Nakamura

Yukiko MURATA - Danse

Annette ISENBERG - Violoncelle

Beatrice BREGOLI  - Piano

 

Couleurs, images, rêves, qui vont et viennent,

qui dansent comme en regardant dans un kaléidoscope

autour du folklore japonais≫

 

・Vendredi 21 Octobre 2011 à 20h30

・Centre Culturel la Province - Vieux Nice

・Réservation : 04 93 80 34 12

 


★ ≪ 創造2011 ≫ アヴィニョン・フェスティバル

カレードスコープ・万華鏡

中村洋子 : 作曲

ムラタ ユキコ ( 村田裕貴子? )  : 舞踊

アネッテ イーゼンベルク : チェロ

ベアトリス ブレゴリ : ピアノ

≪ さまざまな色彩、心象、夢 それらが来たり、去りゆく。

あたかも、日本の民俗芸能に包まれた 「 万華鏡 」 の中で、

眺めるかのように、それらが舞う ≫

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お近くにいらっしゃる方は、是非、お出かけください。

 

 

                                        ( 不如帰 )


★私の作品の曲名が記載されていませんが、複数になっており、

多分、 「 Violoncello solo Nr.1 無伴奏チェロ組曲 1番  」 と、

「 チェロとピアノのための作品 」 と、思われます。


★Annette ISENBERG さんは、

Boettcher ベッチャー先生の、お弟子さんです。

Yukiko MURATA さんは、現代舞踊から、古典舞踊、

日本の伝統舞踊まで、世界中の踊りを、さまざまな国の

professeurs から学び、現在は、フランスで活躍中の舞踊家です。


★Boettcher ベッチャー先生は、私の 「 師 」 のような方ですが、

J. S. Bach  バッハ  の、隠れた 「 師 」 は、誰でしょうか。

それは、次のブログで・・・。

                                                          ( お茶の花 )

                                      ※copyright ©Yoko Nakamura                      

▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■Bachはなぜ、イタリア協奏曲の旋律に、細かく装飾音まで記譜したのか?■

2011-10-16 17:41:15 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■Bachはなぜ、イタリア協奏曲の旋律に、細かく装飾音まで記譜したのか?■
~Bach の編曲で、永遠の命を得たマルチェルロ・オーボエ協奏曲 ~

                                             2011.10.16  中村洋子

 

                              ( ムカゴ )

★今朝、何気なくラジオのスイッチを入れましたら、

ベートーヴェンの第 5交響曲  「 運命 」 が、流れていました。

その次は、 「 序曲 コリオラン 」 でした。

いずれも、鬼気迫る名演。


★魅入られるように、聴き入ってしまいました、

指揮は、Wilhelm Furtwängler 

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886~1954)、

Berliner Philharmoniker ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

戦時下、1943年 6月の録音。


★ “ Hector Berlioz エクトル・ベルリオーズ(1803~1869)の

 「 Symphonie fantastique 幻想交響曲 」 の源泉は、

これだった・・・ ”

  “  Giuseppe Verdi ジュゼッペ・ヴェルディ(1813~1901)の

 「 La Forza del Destino 運命の力 」 は、コリオランの・・・ ” 

  “ Tchaikovsky チャイコフスキー(1840~1893) も・・・ ” 

と、その後の作曲家の勉強の軌跡が、

手に取るように、分かってきます


「 運命 」 で現れる、和声進行にしましても、

“ このゼクエンツ ( 反復進行 ) は、平均律クラヴィーアのあれだ ” と、

次々と、 Bach  バッハ  のオリジナルが脳裏に浮かび、

心地よい、知的興奮を憶えました。


★聴きながら、このようなことが自ずと分かる、

逆にいいますと、聴取者に、そのようなことを分からせるのは、

一重に、フルトヴェングラーの指揮が、素晴らしいからです。

曲の分析が、完璧だからです。

表面的な音響効果を優先させる、ブラスバンドの延長線ような、

最近の指揮者の演奏では、決して、

そのようなことは、見えてこないのです。

 

                                       ( ドングリ )


★これまで、 「 編曲 」 についての考えを、述べてきましたが、

「 編曲 」 はすべきものではない、のでしょうか?

いえ、そうではありません。

 Bach  バッハ は、若いころ、イタリアの

Antonio Vivaldi アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741)や、

Alessandro Marcello アレッサンドロ・マルチェッロ(1669~1747)の

協奏曲などを、鍵盤独奏曲に編曲しています。


★それらの編曲作品を、つぶさに見ますと、

バッハが、“ イタリアの音楽を、丸ごと吸収したかった ”

という、動機があったにせよ、

出来上がったマルチェルロの編曲作品は、原曲を凌駕し、

より質の高い作品に、生まれ、変わっています。


★現在、マルチェルロの 「 オーボエ協奏曲 」 を、

オーケストラが演奏する場合、オーボエ独奏のパートは、

ほとんど、バッハの編曲を、使っています。

バッハがどのように、 “ 手を入れたか ” 、

私は、マルチェルロのスコア と バッハの編曲とを、

突き合わせ、詳しく検討しました。


★有名な 「 アダージョ 」 の 2楽章は、前奏 3小節に続き、

オーボエソロが出る4小節目からは、 4、 5小節を 1単位とする、

3回半の同形反復が、 10小節まで続きます。

マルチェルロは、 4、 5小節目の  「 レファ - ファラ - ラシ♭ - シ♭ 」  を、

6、 7小節では、  「 ドミ - ミソ - ソラ - ラ 」  に、

8、 9小節目で  「 シ♭レ -  レファ - ファラ - ソ 」  と、

単純に、反復しているだけです。

10小節目も、同様です。


★この原曲に対し、Bach バッハ は、現在知られているように、

美しい装飾音を加えたり、単純な音を独立した声部に作り替えたり、

バスを充実させたり、オーボエソロ部分に、充実した和声を書き込んだり、

あるいは、冗長な部分は削除したり、縦横無尽に、

バッハの世界を展開させ、それを、楽譜に定着させました。

出来上がった編曲は、いかにも Bach-tone で、

原曲のもっていた、突き抜けるイタリアの青空のような、

単純明快な作品では、なくなっています。

 

                                    ( 金木犀の花 )

 


バッハの 「 Concerto nach Italienischem Gusto

 イタリア協奏曲 」  2楽章の上声は、大変に細かく、

繊細に、装飾が施されています。

そして、それがそのまま、 「 旋律 」 として、楽譜に記入されています。

変則的です。

当時、通常ならば、楽譜は装飾記号を添付しただけの、

シンプルなもので、奏者は自分の裁量で、

自由に装飾を施し、即興的に演奏する慣習でしたが、

バッハの 「 イタリア協奏曲 」 2楽章の上声は、

バッハが演奏したであろう、そのままを、

≪ 楽譜に書き込んで ≫ あります。


★「 旋律 」 に、装飾記号を添付すれば済むものを、

なぜ、バッハは、複雑な手間をかけ、

装飾まで 「 旋律 」 として、書き込んだのでしょうか?


★ここに、バッハの確固たる意思を、みることができます。

“ 独りよがりな、稚拙な装飾音や、演奏者の恣意的な即興で、

自分の作品を、汚さないで欲しい ” という、意思表示でしょう。


★ 「 イタリア協奏曲 」 は、バッハ生前 1735年に、

出版されています。

出版の機会が、少なかったバッハにとって、

この 「 イタリア協奏曲 」 に寄せる、愛着と自信は、

さぞかし、深いものがあったことでしょう。


★この 「 イタリア協奏曲 」 という、大傑作の価値は、

当時では、知る人ぞ知る存在だったことでしょう。

しかし、その価値を明確に理解していた 「 天才 」 がいました。

あの、モーツァルトです。

Wolfgang Amadeus Mozart

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)です。

モーツァルトは、

「 Concerto nach Italienischem Gusto イタリア協奏曲 」 の、

≪ Handwritten copy ≫ を、所持していたそうです。

滋養分を学び尽くしたに、相違ありません。

 

 


★ 「 編曲 」 は、優れた作曲家が、

手を加えることが必要であると、判断した時に、

なされるものでしょう。


★余談ながら、マルチェルロは、

哲学者、数学者、音楽家、詩人で、

バッハのような、職業的音楽家では、ありません。

教養豊かな、貴族でした。

ヴァイオリンは、父親から手ほどきを受けました。

父の師は、あの Giuseppe Tartini

タルティーニ(1692~1770) でした。


Bach  バッハ  という最高の芸術家が 、

“ 手を加えた ” そのお陰で、

マルチェルロの作品は、現代でも、演奏され、

人々に、愛されています。

これからも、演奏され続けることでしょう。

永遠の命を、与えられたのです。


★10月 21日 ( 金 ) のカワイ・表参道での、

「 平均律アナリーゼ講座 」 は、第 1巻 17番です。

このプレリュードは、明るく喜びに満ち、

オーケストラ作品を、彷彿とさせます。

マルチェルロの協奏曲を、独奏鍵盤楽器に編曲した

バッハの手法は、「 ブランデンブルク協奏曲 」 と、

「 17番プレリュード 」 との間にも、活き活きと、

息づいています。

 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/news/pdf/lecture20111021_nakamura.pdf

 

                             ※copyright ©Yoko Nakamura                       

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■Beethoven が、 Bach の 「 無伴奏チェロ組曲 」 の調性から学んだこと■

2011-10-15 21:29:41 | ■私のアナリーゼ講座■

Beethovenが、 Bach の 「 無伴奏チェロ組曲 」から学び、ピアノソナタに生かした調性の性格について■
                                                    2011.10.15  中村洋子

 

                              ( 水引草 )

★これまで、2回にわたり、

 「 Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 ) の

 6 Suiten für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲 全 6曲 を、

移調したり、勝手に音を加えると、なぜ、

バッハが構築した世界が崩壊してしまうか・・・ 」  を、説明しました。


★では、なぜ現在、このような “ 厚化粧バッハ ” や、

“ バッハもどき ” が、はびこっているのでしょうか。

 

★それは、テレビが日常生活の隅々にまで、

入りこんできた、という時代背景もあると、思われます。

かなりの昔になりますが、嗜好飲料食品の宣伝に、

「 バッハ 無伴奏チェロ組曲 1番 」 のメロディーが、

毎日毎日、バックミュージックとして、流れていたのを、

覚えていらっしゃる方も、多いことでしょう。

 

★その後、 Bach の音楽が、続々と、

さまざまな、宣伝のバックに、流されています。

それは、裁断されたり、ドーランを厚塗りされた、

Bach の破片です。

 

★宣伝は、特定の商品について、

購入したいという気持ちを、起こさせるために、

そのイメージを、焼き付けるのが狙いです。

コマーシャル音楽は、数秒から数十秒、長くても 1分程度です。

音楽として聴くのでは、毛頭ありません。

あくまで受動的で、聴く気がなくても、耳に流し込みます。

なんらかのイメージやムードを、心に焼き付け、その結果、

 “ 商品を買いたい ” という気持ち、欲求を、

抱かせる構図です。

 

                                        ( 山椒の実 )


★ “ バッハの音楽は、美しい。断片でも、限りなく美しい。

これを、何とか利用できないか ”  というのが、

宣伝に使われる ≪ バッハの無残な編曲 ≫ という、

 流行の、発端や動機でしょう。

バッハの、美しい片鱗を使うことで、

コマーシャルに、視聴者を吸い寄せたい、

そしてそれが、現実に、

かなり成功しているため、陸続と、同じような

裁断バッハが登場していると、思われます。

 


★しかし、バッハの音楽は、どんな短い曲でも、

独立し、完結した音の宇宙を、形成しています。

バッハの音楽が、素晴らしい演奏で流れますと、

絶対に “ ながら ” では、聴くことができません

音で思考することを、求められ、

聴くことに、全能力を傾注するからです。

バックグラウンドミュージックではない、のです。

 


本当のバッハは、商品の宣伝には、

逆に、邪魔となるでしょう。

思考ではなく、ムードに浸ってもらうことが必要だからです。

そこで、バッハを断片に、ブツ切りにし、

演奏しやすいように調を変え、どぎつく派手に装飾を施し、

それを流す手法が出てきたと、思います。

ちょうど、誘蛾灯のように。

そのように、無残な改竄がなされても、やはり、

バッハ音楽であり続け、美しいところが、

バッハの、凄さでもあるのですが・・・。

 

 

                             ( 不如帰 )

★テレビの隆盛とともに始まったまった、そのような傾向が、

段々と強まり、現在のクラシック音楽にも、

少なからず、影響を与えていると思います。

 Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886 ~ 1960) や、

Arthur Rubinstein アルトゥール・ルービンシュタイン(1887~1982)、

 Wilhelm Kempff  ヴィルヘルム・ケンプ ( 1895~1991)などの、

次の世代に、真の大演奏家が見つからないことにも、

関連しているかもしれません。

 


★現在、 盛んに喧伝されている、

“ 大家 ” とされるピアニストたちの演奏は、

一瞬一瞬、断片的にハッとするような美しい音色を出したり、

サーカスのように、スリリングな技巧をひけらかすものの、

一つの曲を、大きな構造で描き切ることができない演奏が、

とても、多いのです。

最後まで聴き通すことが、苦痛になる演奏もあります。

 


★≪ 思考しながら、音楽を構築する ≫ という、

 西洋音楽本来の在り方より、 ≪ ムードに浸ろう ≫ という、

コマーシャリズム的志向が、勝っているのでしょう。

それでは  Bach バッハ を演奏することができません。

「 バッハ は嫌い、バッハは苦手 」 とするピアニストが多いのも、

また、頷けます。

 

                                      ( 白山吹の実 )


BACH バッハ 「Suiten für Violoncello solo

無伴奏チェロ組曲 」 全 6曲 の調性

・G-Dur 

・d-Moll 

・C-Dur  

・Es-Dur 

・c-Moll 

・D-Dur がもつ、

得も言われぬ 「 色彩感 」  を鋭く、自己の作品に取り入れたのが、

Beethoven ベートーヴェン (1770~ 1827) です。

 

★とりわけ、全 32曲の Sonaten für Klavier  ピアノソナタには、

各調の特徴が分かりやすく、表れています。

試みに、各調のピアノソナタを拾ってみますと、


★《組曲 1番 G-Dur  ト長調 》 : 10番 Op.14 Nr.2、

16番 Op.31 Nr.1 、20番 Op.49 Nr.2、 25番 Op.79 などです。

その性格は、 「 開放的で明るく、やさしく愛らしく 」、

誰もが好きになり、一度聴いたら、忘れないような調です。

それゆえ、10、20、25番は、ソナチネアルバムにも、

収録されています。


★《組曲 2番 d-Moll  ニ短調 》 : 有名な 17番 Op.31 Nr.2

「 テンペスト 」 が、この調です。

「 神秘的で内省的な 」 性格が、特徴です。


★《組曲 3番 C-Dur  ハ長調 》 : なんといっても 21番 Op.53 

「 ワルトシュタイン 」 です。

調号はなし、すべての基本となる調で、「 ニュートラル 」 な性格です。

真っ白なカンバスのように、どのようにでも描くことができ、

それを、変容させていくことができるのです

 

                                          ( 雑草の小さい花 )


★《組曲 4番   Es - Dur  変ホ長調 》 :  4番 Op.7 、13番 Op.27-1、

18番 Op.31-3、 26番 Op.81 a  「 告別 」 です

 「 告別 」 にみられるように、離別の悲しみも、再開の喜びも、

共に、この長調で表せるのです。

一見、正反対にみえるものの、同じ根っ子をもつ複雑な感情を、

デリケートに、表現できるのです。


★《組曲 5番   c - Moll  ハ短調 》 : 5番 Op.10 Nr.1、

8番 Op.13  「 Pathetíque 悲愴 」 、 32番 Op.111   

 ハ短調は、 変ホ長調とは対照的に、

感情を激しく揺り動かすような、力に満ちた調である、といえます。

ベートーヴェン最後の、偉大な作品である 「 32番 Op.111 」 が、

このハ短調であることは、本当に意味深いことです。

ベートーヴェンの交響曲 「 運命 」 のテーマも、

この偉大な調 「 ハ短調 」 です。

 
★《組曲 6番  D - Dur  ニ長調 》  :  7番 Op.10 Nr.3、

15番 Op.28 「 田園 」 です。

ニ長調 は、「 Pastorale パストラーレ 」 の、

穏やかな性格を、もっていますが、それと同時に、

ベートーヴェンの第 9交響曲の 「 An die Freude  歓喜の歌 」 が、

ニ長調であるように、爆発的な喜びをも、表現できる、

振幅が大きな調です。


★以上の有名なピアノソナタや交響曲を、思い浮かべますと、

その調の性格が、彷彿と、

浮かべ上がってくることと、思います。

 

                                     ( 錦木の葉 )

                           ※copyright ©Yoko Nakamura              

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■ Bachの原曲を移調し、音を加えることは、 Bachの世界の破壊 ■

2011-10-11 14:09:42 | ■私の作品について■

■ Bachの原曲を移調し、音を加えることは、 Bachの世界の破壊 ■
                                             2011.10.11   中村洋子

 

                                                     ( ドングリの袴 )

 

★知らないうちに、暑さを忘れていましたが、

秋も盛り、となっていました。

現代芸術のレベルは、クラシック音楽に限りましては、

あまり 「 高い 」 とはいえないと、私は思いますが、

映画に関しましては、秀作が次々と、生み出されているようです。


★この夏から秋にかけ、 

・「 Pajaros-de-papel  ペーパーバード 幸せは翼に乗って 」
                             ( スペイン )   、

・「 In A Better World 未来を生きる君たちへ、
 
  デンマーク語の原題は 『 復讐 』  」 ( デンマーク 、スウェーデン) 、 

・「 Mein bester Feind / My Best Enemy   

          ミケランジェロの暗号 」 ( オーストリア ) 、

・「 The  Ghost  writer  ゴーストライター 」

              ( フランス、ドイツ、イギリス )

を観て、感動しました。


★これらの映画での 「 映画音楽 」 は、

日本の映画、テレビで毎日毎日、遭遇する、

耳を塞ぎたくなるような、騒音ともいうべき、

劇番音楽ではありません。

必要な場面にのみ、控えめに登場し、

その結果、映像効果を高めています。

極めて、質が高いのです。


10月 7日は、Akiko Saito 斎藤明子さんのギターリサイタルでした。

私の 「 組曲 5番 」  が、演奏されました。

原曲は、 「 無伴奏チェロ組曲 5番 」 で、 

Wolfgang  Boettcher  ヴォルフガング・ベッチャー先生 が、

録音される予定ですが、10弦ギターでも弾けるよう、

私が、編曲しました。

 

                                      ( AKIKO SAITO )


★ 「 編曲 」 といいますと、現代では 「 著作権 」 が切れた

“ 過去の大家に対し、何をしてもいい ”  とばかりに、

あらんばかりの改竄が、 「 編曲という名の下 」 に、なされています。


★斎藤さんは、 10弦ギターで 、

Johann Sebastian Bach  バッハ ( 1685~1750 ) の

「 Suit für Violoncello solo Nr. 3  無伴奏チェロ組曲 3番 

C-Dur ハ長調  」  を、原調のまま、

 1音も追加や省略せずに、演奏しました


★使用した楽譜も、Anna Magdalena Bach

アンナ・マグダレーナ(1701~ 1760) の 「 手書き写譜 」 の、

ファクシミリです

 Bach  バッハ の手稿譜は、失われていますので、

アンナの楽譜が、最もバッハの意図に忠実である、といえます。


★斎藤さんギターから、 3番 プレリュード 曲頭の、

C-Dur ハ長調 の音階 「 ド シ ラ ソ ファ ミ レ ド 」 が、流れた瞬間、

「 ああ、この曲は 1番 G-Dur プレリュード曲頭の ≪ ソ レ シ ≫ 

に対する、この上なく ≪ 美しい答え ≫ だったのだ 」 と、

光が差し込むように、一瞬にして、

バッハの大きな意図が、理解できました。  


★ ≪ 美しい答え ≫ とは?

3番 C-Dur ハ長調 の主和音  「 ド ミ ソ 」  に対する、

属和音 「 ソ シ レ 」 が、 

1番 G-Dur の曲頭和音である、ということです。

1番 は、 2番 d-Moll を伴って、3番 C-Dur に、

大きな河のように、流れ込んだのです。

 

                                       ( 萩 )


★「バッハの組曲を弾く」ことは、そこまで見通し、

バッハの全体設計に沿って、演奏されなければ、

意味がない、のです。

この調性の関係につきましては、前回のブログ

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20111005

詳しく、説明しておりますので、是非、お読みください。


★ 1番 G-Dur の曲頭の G音 ( ひらがな と音 ) は、

1、2、3、4 各小節の 1拍目と 3拍目と、

5小節目の 1拍目 で、 ≪ 大きな  repeated notes ≫  として、

バッハは、作曲しました。


★バッハの組曲は、 「 移調してはいけない 」 と、私は考えますが、

例えば、定評あるとされる  SCHOTT 社 の

 「 Suite NO.1  for Guitar  BWV 1007 」

Edited by / Herausgegeben von John Duarte を、見てみますと、

この1番を、  「 D-Dur ニ長調 」  に、移調しています。


★さらに、冒頭のG音 ( ひらがな と音 ) が、 記音d1音 ( 1点 ニ音 ) に、

同じく  2、 3、 4、 5 小節の 1拍目が 記音d音 に、そして、

2、 3、 4 小節の 3拍目を 記音d音  ( かたかな ニ音 ) に、

改竄されています。

( ギターが出す実音は、1オクターブ下ですが、1拍目と、

3拍目が、オクターブ関係にあることに変わりはありません )


★これが、どのような結果をもたらすのでしょうか?

≪ repeated notes が、  d1 →  d →  d1 → d という、

 オクターブの Motiv ≫ に、変わってしまっているのです。

つまり、音楽の構造上、なにか別の意味があるかのような、

思わせぶりな音型が、できてしまうのです。

 Bach  バッハ  は、そのようなことは、毛頭意図していません。

 

                                       ( 萩 )


★例えば、

「 Inventionen und Sinfonien  インヴェンションとシンフォニア 」 のように、

1番から次々と、有機的に紡ぎだしていく曲集を見た場合、

1番で、 3度をまず提示し、曲を重ねるごとに  4度、 5度、 6度

というように、増やしていきます。

オクターブが初めて出てくるのは、 6番からです

 (  この点につきましては、 10月 27日の名古屋カワイでの、

「 インヴェンション・アナリーゼ講座 」 で、詳しくお話します )


★ Bach  バッハ  は、このように、 「 オクターブ 」 を、

極めて慎重に、かつ、大きなデザイン、意図の基に、

使っているのです。

「 インヴェンション 」 と同様、 「 無伴奏チェロ組曲 」 も、

6曲全体で、「 大きな宇宙のような曲 」 となるよう、

構想されています。
 
≪ 「 オクターブ 」 とは、音階音をすべて含む 「 偉大な音程 」 である ≫、

ともいえます。 

 

バッハ は、SHOTT版の編曲ような 「 Motivとしてのオクターブ 」 を、

曲頭に出すという、使い方は、ほとんどしません。

余談ですが、 Bach バッハ の 

「 Concerto nach Italienischem Gusto 

イタリア協奏曲 」 3楽章の曲頭の、

f2 →  f1  ( ファ ファ ) の、素晴らしいオクターブ Motiv こそが、

本当の、オクターブの使い方です。

SHOTT版のオクターブは、

バッハが、曲の最後に、よく使うものです。

最も有名な SHOTT版が、このような有様であり、

その他の編曲は、これを追随し、

さらに、誇張しているようです。


★ Bach バッハ を、楽器に合わせて調を変え、

恣意的に、派手に、音をゴージャスに、たくさん加える、

ということは、バッハの有機的構造を理解せず、

Bach  バッハ  の世界を、壊しているのです。


★この 「 オクターブの のMotiv  」 については、

10月 21日の、 カワイ表参道での 「 平均律・アナリーゼ講座 」 で、

「 Brandenburg Concerto ブランデンブルグ協奏曲 」 の、

自筆譜ファクシミリを参考にしながら、お話いたします。

                       ※copyright ©Yoko Nakamura

                                      ( ムカゴ )

★斎藤明子 10弦ギターリサイタル

'11年10月07日(金)19:00
     東京都豊島区  現代ギター社GGサロン

プログラム:

・ソル 魔笛の主題による変奏曲

・バッハ 無伴奏チェロ組曲 第 3番 BWV1010
     プレリュード
     アルマンド
     クーラント
     サラバンド
     ブーレⅠ、Ⅱ、Ⅰ
     ジーグ

・中村洋子 組曲 第 5番
        Ⅰ Prelude
        Ⅱ 火取虫
        Ⅲ 天の河原
        Ⅳ Spica(麦の穂星)
        Ⅴ-1 Antares(赤眼のさそり星)
        Ⅴ-2 夏の月 Ⅴ-1
        Ⅵ 黄金の日車(ヒマワリ)

・アルベニス 朱色の塔

・メルツ ハンガリー幻想曲



▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■ BACH 「 無伴奏チェロ組曲 全 6曲」 の調性がもつ、本当の意味 ■

2011-10-05 00:49:46 | ■私のアナリーゼ講座■

■ BACH 「 無伴奏チェロ組曲 全 6曲」 の調性がもつ、本当の意味 ■
           2011.10.5  中村洋子  Yoko Nakamura

 

 

★「 人類の宝 」 ともいうべき、

Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 ) の

「 Suiten für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」  。


★この 「 無伴奏チェロ組曲 」 を、いろいろな角度から、

分析していきたい、と思います。

まずは、大きな要素である 「 調性 」 について、

今回は、考えてみます。


Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) の

幼少年時代、世の中で、このチェロ組曲の価値は、

まだ、全く理解されていませんでした。

コンサートで、メインのプログラムの間に、

組曲の中から、 1曲か 2曲が単独で、

彩りを添えるように、演奏されていたようです。

オードブルか、つまみのようなものでした。


★“ カザルスが、この組曲の楽譜を発見するまでは、

忘れ去られ、埋もれていた ” とするのは、誤解のようです。

全く、弾かれていなかった訳では、ありません。


★Prelude プレリュード 、 

Allmande アルマンド 、 

Courante クーラント、

Menuett メヌエット  ( または、 Bourrée ブーレ か Gavotte ガボット )、

Sarabande サラバンド、 

Gigue ジーグ 

という、6種の舞曲が組み合わされ、一つの曲が、出来ています。

その舞曲で、踊る訳ではありません。


★カザルスは、この組曲を、10数年かけて、研究しました。

その結果、 いくつかの小曲を、脈絡なく組み合わせた

 「曲集 」 ではなく、まるで宇宙全体を司るような、

緊密な構成により、 1曲ができていると、分析しました

そして、それを、実演で示し、

後の  「全 6曲の録音 」 という偉業に、つながっていくのです。

 

 


★さらに、全 6曲を一つの 「 壮大な楽曲 」 として、

構成するのが、バッハの意図でもあったのです

全 6曲を束ねていくために、使った工夫とは何か?

その大きな要素の一つが、 「 調性 」 です。

・組曲 1番  =  G - Dur        ト長調
・組曲 2番  =   d - Moll      ニ短調   
・組曲 3番  =   C - Dur      ハ長調
・組曲 4番  =   Es - Dur   変ホ長調
・組曲 5番  =   c - Moll      ハ短調
・組曲 6番  =   D - Dur          ニ長調


1番の ト長調を 「 主調  」 としますと、

6番の ニ長調は、 「 属調 」 です。

この  ≪ 主調 と 属調 ≫ の関係は、

調性上、 「 最強の関係 」 です。


★音階の一番大事な音は、 「 主音 」 ですが、

次に重要な音は、主音から 5度上の 「 属音 」 です。

主音の上に形成される 3和音が 「 主和音 」 、

属音の上に形成される 3和音が、 「 属和音 」 です。

主和音が、属和音を志向し、属和音は主和音を志向するのです。

属和音から主和音に連結することを、 「 完全終止 」 といい、

最も、安定し、強力な和音の連結になります。

「 主和音と属和音の関係 」 は、

音階の主音を、主音とする 「 主調 」 と、

音階の属音を、主音とする  「 属調 」 にも、同様のことがいえます。

「 最強 」 ということの意味は、このことを指します。


 
Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集のように、 

「 1番 」 の調を、 「 C-dur  ハ長調 」 としなかったのは、

以下の理由からでしょう


★チェロの 4弦は、 「 C - G - d - a  」 と調弦されます。

2番目に低い開放弦が、 「 G 」 です。

この 「 G 音 」 を、主音とするのが 「 G-Dur  ト長調  」 、

つまり、組曲 1番の調性です。


★1番プレリュードは、 G - Dur の主和音 ( ソ シ レ ) から、

始まりますが、実際には

 G = ひらがなト音    d = かたかなニ音    h = かたかなロ音、

という、開離配置です。 

G と d は、開放弦と同じ高さです。

主和音の次に、重要な属和音  ( レ ファ♯ ラ )  の  「 D音 」 を、

バッハは、25、 26、 29小節の 第 1拍で、見られるように、

「 D = ひらがなニ音 」 の位置、すなわち、

曲頭の「 G音 」 の、4度下に、置くことができたのです。


★もし、この曲を 「 C-dur 」 にしますと、

冒頭の主和音 ( ド ミ ソ ) の  「 ド 」 を、

現在の G より、 4度高い 「 カタカナ ハ音 ( c ) 」 で、始めるか、

5度高い 「 ひらがな は音 ( C ) 」 で、始めることになります。

 「 カタカナ ハ音 ( c ) 」 で始めますと、G音で始めるのに比べ、

音域が高く、6曲のチクルスの最初の曲としては、

少し、軽い感じとなってしまいます。


★逆に、 「 ひらがな は音 ( C ) 」 で、始めますと、

重厚な感じになりますが、上記のように、

主音の 4度下の属音から、主音に 「 返り咲く 」 という

調性の、最も美しい進行が、不可能となってしまいます。

「 最強の進行 」 は、音楽の自然な流れに適うため、

美しいのです。


★このようにみていきますと、

 「 組曲 1番 」  は、 「 G - Dur  ト長調 」 でしか、

あり得ないのです。

 

 


★一方、終曲の 「 組曲 6番 」  は、

 「 G - Dur 」 の、最も重要な音である 属音 「 レ 」 を、

主音とする 「  D - Dur  ニ長調 」  です。

つまり、  ≪ 1番と 6番は、最強の組合せ ≫ なのです。

この 2曲が、 6曲全体を

 ≪ 調性の枠組 ≫  で、揺るぎなく、強固に支配しています。


★「 組曲 2番   d - Moll ニ短調 」 は、 1番 「 G - Dur 」 の、

属調  D - Dur の同主短調 ( 主音が、同じ長調と短調 ) です。

この点から、みましても、

 ≪ 1、2番は、強い絆で 6番と、手を結んでいる ≫

ことが、分かります。

音楽的な内容についても、同様です。


★「 3番  C - dur  ハ長調 」 は、

1番 「 G - Dur 」 から見ますと、「 下属調 」 です。

音階の 「 下属音 」 を、主音とする調です。

「 下属音 」 は、 英語では subdominant  、

仏語では sous - dominante 、

( 属音が、主音の 5度上の音であるのに対し )

「 主音から 5度下 」 の音です。

( 通常、属音という場合は、上属音のこと )

下属調は、属調に次いで、主調に対し、

強固な結び付きを、もっています。


★この結果、 ≪ 上属音 の調 D- Dur( 6番 ) と 、

下属音の調 C-Dur  ( 3番 ) と が、 5度の関係で

 「 G-Dur ( 1番 ) 」 を、挟み込んでいる ≫

というのが、組曲全 6曲の、大きな構図、

つまり、調性の実体なのです。

 

 


組曲 4番は、 「  Es - Dur 変ホ長調 」 です。

この調は、 「c - Moll 」  の平行調です。

「 3番  C - Dur 」 の同主短調が、 「c - Moll 」  でもあるのです。

その平行調が、 「  Es - Dur 変ホ長調 」 という関係です。


★余談ながら、この 2つの調の主音 「 C 」 と 「 Es 」 の、

≪ 短 3度の関係 ≫ を、徹底的に学び、活かしたのが、

Franz  Schubertシューベルト(1797~1828)

Frédéric  Chopin ショパン (1810~1849)、

Johannes Brahms ブラームス(1833~1897) です。


★これらのことから、分かりますのは、

≪ 1、  3、  6 番が、極めて強い関係で結ばれている ≫

のに対し、 2、 4番は、同じ近親調 ( related keys ) とはいえ、

やや、距離を置いた近親調であり、

曲の内容も、柔らかな印象です。


★そして、残るのは 「 組曲 5番   c - Moll  ハ短調 」  です。

4番 「  Es - Dur 変ホ長調 」 の平行調であり、

3番 「  C - Dur  ハ長調 」 の同主短調と、なります。

3番、 4番の調が、 5番の「 c - Moll 」 を目指し、

収斂していくのです。

バッハは、この ≪ 5番 ≫ を全 6曲の、

頂点 High Point  ( Höhepunkt ) として、作曲したことは、

間違いのないことでしょう。

そして、その5番の中での頂点が、 「 サラバンド 」 です。
 
バッハの作品の頂点の一つである、ともいえます。


バッハは、この 「 組曲 5番 」 を、

 「  c - Moll  ハ短調 」 とすることに、

異例といえるほどの、工夫を凝らしています。

「 c - Moll 」 での 5番を、円滑に、演奏できるよう、

チェロの最も高い 「 A 」 の弦を、2度低い 「 G 」 に、

変則的な調弦とするよう、指定しています。


★調弦を変えるのは、演奏者にとって、面倒で厄介なことです。

通常の調弦がベストであることは、当然です。

しかし、バッハはあえて、調弦を変えることまでしてこだわり、

欲したのが、 「 c - Moll  ハ短調 」  です。

 ≪ c - Moll  ハ短調 ≫  でなくては、ならなかったのです。

3番、 4番の調が、 5番の 「 c - Moll 」  へと収斂し、

3番の調は、1番、6番と緊密に結び付き、

1、2番は、表裏一体の関係にある調だからです。

 

 


★最後の 6番 「 D - dur   ニ長調  」 は、

まるで、天上の高みのような、美しい音楽です。

成就し遂げた後の、喜びの曲である、ともいえます。

M G G によりますと、

「 バッハが、4弦のほかに、さらに高い 1弦を加えた 

“ Violoncello piccolo ” という楽器 ( C - G - d - a - e1 ) を、

ライプツィッヒの Johann Christian Hoffmann  (1683~1750 )

 という製作者に依頼した 」 ということです。

(よく解説書に書かれている「 5弦の viola pomposa 」

という楽器と、混同されているようです。

バッハは、 viola pomposa  という言葉は、一度も、

使っていないそうで、本当のことは、よく分かりません。)
 
6番は、この “ Violoncello piccolo ” で、

演奏されたのかも、しれません。


弦の調弦を変えたり、さらには、

通常のチェロとは異なる ≪ 5弦のチェロ ≫ を、

使用するまでして、バッハは、

この「 無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」 で、

何を、追究したのでしょうか?


それは、6曲が、個々にバラバラではなく、

6曲全体で、一つの宇宙を構成し、

惑星どうしが、互いに引き合い、支え合うかのように、

微塵たりとも、動かすことのできない ≪ 究極の秩序 ≫

つまり、調性という ≪ 秩序の天空 ≫ を構築し、

美しい音楽が、恒久に奏でられることだったのでしょう。


★逆にいえば、 ≪ 調性とは何か ≫ を終生、追究したバッハが、

その解答として、人類に贈ったのが、

「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 であり、

「 Suiten für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲  」

であるのです。


★そして、その追究の行き着いたところが、

最後の未完の作品 「 Die Kunst der Fuge フーガの技法 」 です。

ここでは、楽器の指定がもはや、必要とされない世界へと、

昇華しているのです。

 

 


★最近では、この 「 無伴奏チェロ組曲 」 を、

チェロ以外の楽器で演奏するため、安易に、

調性を変え、移調して演奏することが、

よく、見受けられるようです。


★アマチュアの方が、バッハに親しむための手段としては、

致し方ない面も、あります。

それにより、バッハの世界を、より深く知ろうという、

動機になりうるためです。

しかし、プロの音楽家が、安易に、移調をするのは、

バッハの意図した調性による構図を、棄損することにつながり、

すべきではないと、私は思います。

さらに、音を一音でも、削除したり、追加すると、

バッハが構築した counterpoint  と harmony の、

完璧な音の美の世界が、無残にも、

ガラガラと音を立てて、崩れ落ちるのです。

 

 


 




 

 

 

  ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

 Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

 全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます。

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/90dba19dc2add7098619b7d971f74fb7

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/m/201412

 

 

★私の著書≪クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり≫に、

このBach 「無伴奏チェロ組曲」の調性について、

さらに詳しく書いてあります。

 

http://diskunion.net/dubooks/ct/detail/1006948955

http://diskunion.net/classic/ct/detail/1006437633
http://diskunion.net/diw/ct/detail/1006437641

 

私の作品「無伴奏チェロ組曲全6曲」の楽譜:

https://www.academia-music.com/html/page1.html?s1=Nakamura%2CY.&sort=number3,number4,number5

 http://shop.rieserler.de/index.php?cat=c90_Violoncello-solo-Violoncello-solo.html&sort=&XTCsid=11cca6fd760771a2588ec077d00e6266&filter_id=729

                     ※copyright©Yoko Nakamura

▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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■ 岡本文弥さん 百歳の演奏会、生涯忘れ得ぬ感動 ■

2011-10-02 00:50:42 | ■伝統芸術、民俗音楽■

■ 岡本文弥さん 百歳の演奏会、生涯忘れ得ぬ感動 ■
                                      2011 . 10 . 2             中村洋子

 

 

★2011年 9月 25日の東京新聞・芸能欄、

「 反戦と労働者の立場に立ち、“ 赤い新内 ( 左翼新内 )  ”と

呼ばれた岡本文弥が、百一歳で他界して15年 」 、

「 10月 9日 午後 6時半から、旧東京音楽学校奏楽堂で、

≪ 岡本文弥没後 十五年祭 ぶんや恋しや新内の夕べ ≫ が開かれる 」

という記事が、掲載されていました。


★「 文弥さん 」 という、懐かしいお名前・・・。

眼前に、文弥さんが、百歳のときになさった演奏会が、

蘇ってきました。


★文弥さんのお住まいは、台東区谷中の、

細い路地沿いに、ありました。

谷中は、お寺が立ち並び、最近では、「 谷根千 」 の一角として、

休日ともなれば、カメラを手に、スニーカー姿の人たちで賑わい、

さながら、京都のようです。


★当時、私はその近くに、住んでおりました。

ある日、散歩中に偶然、「 岡本文弥 」 という、

表札が、目に入ってきました。

その表札は、それはそれは小さく、名刺ほどの大きさ。

しかし、黒い板に、岡本文弥という美しい字体が、

金色に、浮き上がって見えます。

素晴らしい工芸作品なのでしょうか、

存在感に、満ちていました。


★文弥さんのお家は、門も庭もなく、

小さいというよりは、狭小な、まことに質素な家でした。

玄関の硝子戸が路地に、直接面していました。

しかし、戸の周りの壁は、黒い板塀。

垢ぬけています。

どこか料亭にも似て、小粋でした。


★本箱を探しますと、その演奏会のチラシが見つかりました。

「 1995年 10月 15日 」 でした。

私は、その演奏会を、一生忘れないでしょう。


★谷中の、廃業したお風呂屋さんが会場でした。

桟敷のように、その床に、観客は膝をくっつき合わせて座りました。

お弟子さんの演奏が続き、トリ ( 最後 )が、文弥さん。

三味線に合わせ、文弥さんが、

「 ぶんやありらん 」 を、歌い始めます。

強く、厳しいリズム、

聴いている私たちは、体が床にめり込むような、

迫力を、感じます。

そして、それがとても心地よい。


★腹の底から、伝わってくる声も、

お歳を感じさせない、張りと艶。

百歳になっても、毎日の修練はさぞや、と驚かされます。

朝鮮人慰安婦の、悲しみを歌った

「 ぶんやありらん 」 の世界と、

沁み入るような声が、よく合います。

 

 


★Lotte Lehmann ロッテ・レーマン (1888~1976) が歌う、

 Robert Schumann  ロベルト・シューマン (1810~1856) の、

「 Frauen Liebe 女の愛と生涯 」 に、比肩できるか、

という、高みです。


★このような経験、真の芸術を体験したのは、

日本の演奏家では、観世寿夫さんの謡い、

嘉手刈林昌さんの太鼓・・・など、

本当に、ごく限られます。


★文弥さんは、お金も名声も求めず、

( きれいな恋愛を、随分となさったそうですが ) 、

ひたすら、芸に打ち込んだ百歳でした。

このような、真の芸術に 「 出会えてよかった・・・ 」 と、

心から、思います。


★それ以来、文弥さんの 「 邦楽いろは歌留多 」

( 邦楽新書 ) は、私の座右の書、となりました。


★≪ い :  一芸一途 余念なく ≫ のように、

文弥さんの実体験に基づく、信念が書かれ、解説も加えています。

含蓄に、満ちています。

少々、ご紹介します。

 

 


★≪ ろ : 路地暮しでも、あの師匠 ≫、

解説 「 豪邸暮しだから立派な師匠とは限らない。

無名の老師匠でも、『 よく見れば ナズナ咲く 』  ものです 」

何気なく見過ごす雑草の 「 ナズナ 」 に、価値を見出し、

“ 美しい ” とみる、 研ぎ澄まされた感性。

 

★≪ な : 名前売るより 芸磨け ≫

≪ き :  気が滅入れば 芸も滅入る ≫

解説 「 その点、彼女ができたりすると、芸が一度に開花する 」

ご自身の体験に基づく、微笑ましいお話、

洒脱なお人柄が、偲ばれますね。


★≪ や : 野心が芸を 堕落させる ≫ は、古今東西の真実でしょう。

解説  「 ひたすら芸の上達を願って精進することを

 『 野心 』 とはいえない。

芸渡世の中で 何かイヤらしいものがある。

それはお仲間に 何となく分かる。

それが 野心です。

そういう野心家の芸には、 『 こび、ヘツライ 』 が付きまとう。

聴くに耐えない 」

≪ け : 芸知らぬ人の芸評 気にしない ≫ 

これも、真理を衝いています。


★≪ め :  免状は 世間がくれる ≫

反骨の文弥さんは、 「人間国宝 」 にはならず、

「人間骨董です」 と、おっしゃっていたそうです。

≪ み : 身にしみる  あの人の芸  またききたい ≫

 


私は 、 Edwin Fischer  エドウィン・フィッシャー  や、

 Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) の演奏は、

毎日聴きたいと、思います。

しかし、いま巷で人気のある、アルゲリッチ や ポリーニの演奏は、

聴きたくは、ありません。

その演奏は、部分的に、宝石のように輝いて聴こえることがあるにせよ、

「 音楽 」 としての構成が弱すぎ、曲を聴き通すのが、苦痛になるのです。

構造物としての音楽の形が、立ち上ってこないため、

聴いている途中、よそ事が頭に浮かんでしまいます。

退屈なのです。

アルゲリッチが、ピアノ独奏曲を弾かない、弾けない理由も、

よく、分かります。

 

 


★とはいえ、文弥さんも 、

≪ す : 好きな芸でも  押し売りせず ≫ と、おっしゃっており、

ポリーニやアルゲリッチが好きな人は、気にしないでください。

≪ し : 自慢より 自信  ≫

解説  「 自慢はしゃべり 自信は沈思黙考 」

 毎日毎日、勉強して 自信をつける

(  自分を信じること  )  しかありませんね。


★≪ か : 金追って 芸追い付かず ≫

お金とは、あまり縁のない 「 キレイな 」  一生を送られた文弥さん。

魅力的な方でした。

天国に召されてから、15年たちましても、

たった一回の出会いを、生涯懐かしむ音楽家が、

一人、ここにいるのです。

 

 

                                    ※copyright ©Yoko Nakamura


▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

 

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